東京発、Utopia行き sequel ハルには白い恋人の一番デカい缶に入ってるやつ、ミナには味噌ラーメンの生麺タイプをお土産に。ラーメンを豪華に彩るトッピング用のカニはトラんちに届いてるから四人で作って食おう。
四人が揃った収録の控室で、サクサクと白い恋人をつまみながら、スマホのアルバムを次々とスワイプさせては土産話に花が咲く。いいなあ、と素直に羨ましがるハルとミナに、次オフかぶった時は一緒に行こうな、とトラが機嫌を取っている。俺はとっておきのムービーを準備して身を乗り出した。
「なあ、これこれ、ちょっとさーこれ見てくれよ」
どれどれ? と顔を寄せ合うふたりに画面を向けて再生させたのは、トラがイカを釣り上げた瞬間をとらえた俺渾身のムービーだ。
生簀を所狭しと泳ぎ回る新鮮なイカのからだは透き通って、動きは素早くピントを合わせるのも一苦労だった。トラのたらした釣り針もするりするりと躱されてしまう。
帰ってからも繰り返し見たムービーだから、釣れるタイミングは既にからだに染みついていた。釣れた瞬間のはしゃぐトラの声を聞かせたくて音量を上げる。
『釣れたぁ!』
タイミングばっちり。うきうきと弾んだトラの声が控室に響いて、それを聞いた張本人はちょっと恥ずかしそうにしてる。
『トラ、こっち向いて』
俺の呼びかけにトラが振り向いて、ぱあっと白い歯を見せて笑う。釣り上げたイカを掲げて得意げに。子どもみてぇ、かわいい。
『ふ、かわいい』
俺のつぶやきをマイクが拾っていた。ほんの数日前の俺も同じことを考えていたらしい。思ったことが声に出てる。
『釣ったとこ撮れたか? 狙ってたやつ、釣れた!』
『撮ってる撮ってる。そいつ一番デカイよ』
『わ、足すごい、ぐにゃぐにゃだ。あはは、見ろよ、トウマ、すご、――わっ!!』
トラの声に被さるように響く俺の悲鳴でムービーは強制終了した。もちろん最後の声が馬鹿でかいことは俺が一番わかっているので、音量は既に下げてある。
「なー? ひどくねえか、これ」
黙ってムービーを見ていたハルとミナに同意を求めて顔を上げた。この瞬間、トラが釣り上げたイカのイカスミ噴射攻撃が、ピンポイントに、俺の下ろしたてのダウンコートに、トラとの北海道旅行のために買った一張羅に! 直撃したのだ。
「トウマ、虎於とふたりの時ってこんな声出すんだねー……」
「……えっ?」
「私、こんな声で狗丸さんにやさしくされたことありません」
「……えっ? えっ?!」
いやいや、俺は十分やさしく接してるだろ、ハルにもミナにも変わらずに。ちがった、そうじゃなくて。俺がしたいのは、俺の話じゃなくて、トラの話なんだけど。イカ釣れてはしゃぐトラ、かわいかったろ? この後ホテルのバイキング選べなくなってるトラもかわいかったんだぜ。写真見る?
「……トウマ、おまえちょっと黙ってろ」
さっきから黙り込んだままのトラがやっと口を開いた。ちら、と隣を見るとトラが耳まで赤くして、大きなからだを精いっぱい小さくしていた。