今回はスタジオ撮影がメインのため時間の感覚が狂ってしまうのがトウマにとって目下の悩みだ。
朝、スタジオ入りした時に太陽の陽射しを浴びたきりで、タイムキーパースタッフのおかげでスケジュール通り撮影が進んでいることはわかるが、どれくらい時間が経過しているのか体感がつかみにくい。
今日何度目かの小休憩を挟むことになり、少しだけでも外に出ようかとスタジオの出入り口へ視線を向けると、私服姿の虎於を発見した。
「トラ、おはよ。これから?」
「おはよう。早めに来たからのぞきに来た。シンヨーのセット、華やかでいいな」
撮影セットの桃色の光に虎於の肌や髪が明るく透ける。きらきらと眩しく感じて、トウマはまばたきをして虎於の横顔を見つめた。
セットからトウマへ視線を移し、衣装もいいよな、と言う虎於の声が笑いを堪えているのがわかって、どうせ俺は似合ってませんよ、と返した。虎於が口元を手で押さえながら、誰もそこまで言ってないだろ、と言うが、おもしろがっているのは声音で明白だ。
「悠はよく似合ってたよな」
「そう、ハルはめっちゃかわいいんだよ!陸も九条も、壮五もかわいい系じゃん?でも俺はさぁ、どう?!ダメじゃない?」
「普段のイメージとは、まぁ少し、かけ離れてるのかもしれないが、ダメではないだろ、トウマもかわいいぞ」
「かわ……っ」
かわいい……? 普段なかなか言われ慣れない言葉にトウマは首を傾げる。パステルカラーの衣装に身を包んで、衣装合わせの時に陸から無邪気に、トウマさんかわいい! と声をかけられた時は、くりっとまるい目を強調する丸眼鏡をかけて、より一層かわいくなっている陸に言われてもなぁ、と感じたものだが。
「トラに言われると、かわいい俺、ありな気がしてきたな……」
「そうだろ、かわいいよ、かわいいかわいい」
虎於のどこか適当な相槌に、戯れ合うように軽く小突いて笑い合っていると、向こうから撮影再開の号令がかかる。あ、と小さく声をもらした虎於の表情が一瞬曇るのを、トウマは見逃さなかった。トラ?声をかけると、チラリとトウマを見て俯いた。
「悪い、休憩できなかったよな。顔だけ見たかったんだ」
「いや、俺もトラの顔見れてよかった。今回撮影ずっとバラバラだったし」
別れ際、虎於の手を取ると、指先が少し、冷えていた。手首をぎゅうと手のひらで包んで、撮影がんばれよと声をかけると、うん、と頷いて笑顔を見せた。
外の空気を吸って、陽射しを浴びて気分転換でもと思っていたのが、思わぬ来訪者でトウマの気持ちは上向きになった。だが、虎於の様子が少し気に掛かる。不安そう、というほど悪いものではないように感じたが、トウマは腕組みをして考え込みながら撮影セットへ戻る。
「今来てたの御堂虎於?彼、今日は龍と一緒の入りでしょ?ずいぶん早いんじゃない?」
先にスタンバイを済ませていた天に声をかけられて、ああ、緊張してるのか、と納得した。
「九条すごいな、自分以外の入りも把握してるのか?」
「いや、さすがにそこまでは。ただ、今日は龍が楽しみにしてたみたいだから」
それは虎於の緊張をほぐすか、より緊張させるか、どちらに転ぶだろう。一緒の撮影を楽しみにしていたという点では虎於も同じであろうから、良い方向に作用してくれるといいが。
まぁでも、それなら心配には及ばないだろう、虎於はカッコつけだからうまくやるはずだ。トウマは、よし!と気合いを入れて、残りの撮影に挑む。スケジュール通り今日の分を撮り終えたら、オネキスの撮影スタジオに天を誘うつもりで。