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    mimimimibdmi

    @mimimimibdmi

    そこの君、バディミッションBONDをプレイするんだ。

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    mimimimibdmi

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    いただいたお題「プロポーズするアロルク」で書いたSSです。

    プロポーズ・オン・ザ・ラブソファ エリントンの僕の家に滞在するとき、アーロンはだいたいソファを定位置にしている。ソファは父さんとこの家で二人暮らしをしていた頃からずっとリビングにあるものだ。正直だいぶ古びている。脚はガタガタいうし、表生地は毛羽立っていてゴワゴワだ。でも僕は、父さんとの幸せな思い出が詰まったこのソファを気に入っている。これに座って一緒にバスケの試合をテレビ観戦したり、古い映画を毛布にくるまって見たり、カードゲームもやったっけ。壊れるまで、手放すつもりはない。壊すつもりもないけれど。
     だけどアーロンと恋人同士になって、彼がリカルドを来訪しては僕の家に入り浸るようになってから、彼もこのソファを気に入っているのだとわかって驚いた。あまり寝心地のいいクッション性ではないと思うのだけど、ネコ科特有のだらんとしどけない寝方で全体重をソファに預けているのがアーロンのいつものポジションだ。脚が長すぎてはみ出ているのが行儀悪いけど、そこもなんだか猫っぽくて可愛い、と思う。
    「アーロン、少しそちらにずれて場所を空けてくれないか」
     僕が片手にジンジャーエール、片手にアイスココアを持ってそう促すと、大きなキティはあくびをした。そっけなく手を振って僕を追いやろうとする。
    「テメェはあっちに座りゃいいだろ。昼寝の邪魔するんじゃねぇよ」
    「いや、昼食の時に言ったよね? お茶の時間に大事な話があるって」
    「シラネー。ジンジャーエールはそこに置け」
    「はあ……君ってやつは……」
     僕は両手にグラスを持ったまま、がっくりうなだれた。今日のこの時のために、アーロンの機嫌を取るべく昼食に上等なスペアリブ(骨はついてても肉だけで3キロはあった)まで用意したのに。アーロンはそんな僕の憂鬱なため息をちらっと見て、構わずにまた長いまつげを閉じてしまった。……これが倦怠期ってやつだろうか……。
    「アーロン、今日の僕は譲らないぞ。今すぐそこに僕の座るスペースを空けるんだ」
    「……んだよ、昼間っから」
     目をしょぼつかせながらやっと体を起こして、アーロンは長い長い脚を、右はソファの背もたれに乗せて、左を床に下ろした。大開脚している。な、なんだなんだ。
    「オラ」
    「へっ」
     僕ははてなと首を傾げながら、カフェテーブルに両手のグラスを置く。恋人が差し伸べてくる手を無視するなんてできない。脚の間に空いた座面のスペースへと体を滑り込ませると、すぐにぴったり抱きしめられた。……抱きしめられた!?
     い、以心伝心か!? 見透かされとる……のか!?
     驚愕のあまりに動きがぎこちなくなった僕の体を、アーロンは慣れた手つきでするりと撫でてーー僕のお尻を掴んだ。
    「……って、違ぁーう!!」
    「うおっ」
     両手を突っ張って体と体の間に空間を作ると、アーロンは心外そうに頭を掻いた。
    「んだよ、お前が隣に座りたいってことはヤりてーんじゃねえのかよ」
    「違う!! ……いや、そういう日もあることは否めないけど、今日に限っては違うんだ!!」
     確かに仕事に疲れて帰ってきた日に君の隣に潜り込んでイチャイチャするのは格別だけど! ベッドでスるより切羽詰まった感じがしてたまらない時もあるけど!
     今日は違うんだ! 乗るか反るかの勝負の日なんだ!
     不満げに頭をガリガリやってるアーロンをソファの片端に押し込むと、ギシッと古い骨組みが鳴った。……ここで行為に及んだ回数は両手じゃ足りない。もうちょっと控えないとソファの寿命をさらに縮めてしまうな……。
    「でェ?」
     僕に姿勢を矯正されて窮屈そうに座っているアーロンは、かしこまって隣に座った僕にダルそうに尋ねてきた。
    「なんだよ、大事な話って」
    「そう、大事な話があるんだ。アーロン」
     僕は真剣な瞳を愛する恋人に向けた。晩夏の午後、涼しく乾いた風がカーテンを揺らしている。いい天気だ。絶好のシチュエーションだ。
     息を吸う。吐く。ちょっと瞬きをして、襟を正して、少しアーロンから目を逸らす。ああ、アイスココアの氷が解けるな。ほんの一口啜って、ごくっと飲み下して、味がしないなあなんて考えながら、胸がドクドクと脈打つのを気取られないように、自然な仕草で指を組み合わせて膝に置く。あれ、なんだか暑いな。汗も止まらない。サーキュレーター、こちらに向けて「って長えわ!!」
     アーロンの情け容赦のないツッコミに、僕は動揺しすぎてアイスココアのグラスを倒しかけた。
    「あわわわわ」
    「っとに、クセェ台詞もサムい宣言もお手のものなテメェが、いまさら何を恥じらってんだかな」
    「は、恥じらってなんかいない! ただ、心の準備がいつもより長く必要なだけで」
    「おおかた、プロポーズでもしようってんだろうけどよ」
    「なっ……」
     驚きのあまりに呼吸を忘れ口をパクパクしている僕に向かって、アーロンはいとも気軽にポケットから小さなジュエリーケースを取り出した。見覚えのあるシルバーグレーのベルベットに顔が熱くなる。
    「ま、また盗んだな!!」
    「気を抜いたテメェが悪い」
     取り返そうと手を伸ばしたけど、リーチで僕がアーロンに敵うはずがない。エレメンタリースクールの子どもみたいにケースを取り合ってジタバタしてたら、アーロンが僕の頭の上にぽんっとケースを乗せてきた。
    「中は見てねーよ」
     そう言う声の優しさに、僕の頭に上っていた血が少し冷えた。そっとケースを頭の上から下ろす。ソファに座り直し、膝の上でケースを両手で握りしめた。
    「……そんなに、結婚ってのはいいものか?」
     僕の真剣さを笑う気はないらしい。アーロンは目を伏せた僕に体を寄せてきた。……ああ、あたたかいな。
    「……君は、ハスマリーにとって重要な人物だ。君が調停者として尽力したからこそ、あの国は銃声のない静かな夜を迎えられた。生涯をかけてありとあらゆる紛争を盗み取るという誓い。僕は、君のことを尊敬している」
    「……へっ、やっと調子が出てきたな。全身が痒いわ」
    「同じように、僕もこの国から始めた。腐った組織を立て直して、人々の暮らしを守る本当の意味での国家警察として胸を張れるように。僕もまた、戦いの途中なんだ」
    「ルーク」
     アーロンが僕を呼んだ。情けない顔をしている自覚はあったので、出来るだけ頬を引き締めて視線を上げた。それでも、労わるように目を細めたアーロンが、触れるか触れないかの指先で僕の頬をなぞった時には胸に込み上げてくるものがあった。
    「不安になったのか」
    「……違う。誓いで君を縛りたいわけじゃない。離れていてもいつだって僕たちは響き合っている。それに、家族のかたちが結婚っていう手続きによるものだけとも思っていない」
     喉が詰まりそうになる。僕は声を励ました。アーロンはそれを見守っていてくれた。
    「だけど、アーロン。僕は君が欲しい。こんなにも欲しい。君が君のまま、僕が僕のままで、隣り合って立つ特別な権利が欲しくなってしまったんだ」
     僕は震える手でアーロンの左手を持ち上げた。薬指に落とすキスを、アーロンは止めたりしなかった。
    「ただいまって言う。おかえりって迎える。同じテーブルで食事して、同じベッドで眠る。キスをして、抱き合う。これまでと何も変わらないかもしれない。それでも、それでもさ、アーロン」
     続きは言えなかった。体ごとアーロンに引き寄せられて、キスで口を塞がれたからだ。肉欲じゃなくて、真摯な愛情のこもったキス。
    「……なあ、ドギー」
     思わず目をつぶった僕のまぶたを、アーロンの長いまつげがくすぐった。声には笑いが含まれている。
    「教えてくれよ。いったいオレは何度お前にプロポーズされりゃいいんだ?」
     …………言われた意味が、一瞬わからなかった。
    「え、ええーっ!?」
     僕は素っ頓狂に叫ぶ。アーロンがわざとらしく耳を塞いで笑っていた。
    「僕が!? 君に!? 何度も!?」
     アーロンの胸ぐらを掴むように詰め寄れば、二人分の体重に古いソファが盛大に軋んだ。でもいまはそんなことより!
    「ああ。テメェのプロポーズは聞き飽きてんだよ、こちとらな」
    「う、うそだ……」
    「ホンッキで気付いてねえのか? ピロートークのあとは毎度フニャフニャになって、半分寝ながら言うんだよ。『ア〜〜〜〜〜ロン〜〜〜〜〜〜〜ぼくとけっこんしてくれ〜〜〜〜……』ってなァ?」
    「そんな情けない声を僕が出すわけないだろう!!」
    「出してんだよ! このクソ犬! あとはアレだな、オレが遅れて起きてくると朝メシを料理しながら鼻歌で『けっこんしたーい、けっこんしたーい、アーロンと〜〜♩』て」
    「お、おかしいぞそれは!! 鼻歌に歌詞なんてあるはずがない!!」
    「ところどころ漏れてんだよ、テメェの本音が」
    「うそだ! そ、そんな大事なことを僕がポロポロ漏らすわけ……」
    「可哀想になァ? ガバガバドギー?」
     僕の痴態(?)の暴露を続けるアーロンは完全にからかうときの笑顔になっていた。だ、台無しだ……僕の綿密な計画が……。
    「綿密とは言い難いんじゃねえの?」
    「心を読むの、やめてくれ……」
     すっかり萎れてしまった僕は、グレーのジュエリーケースを握りしめたまま頭を抱えてしまった。……どうしてこう、僕は締まらないんだ……。
    「……おいドギー」
    「うう、今は少し放っておいてくれ……」
    「教えてもらってねえぞ。オレはいったい、これから何度、お前のプロポーズに」
     髪を撫でられ、つむじにキスされる感覚があった。
    「答えなきゃならねえんだ? 『いいぜ』ってな」
     耳をかすめた囁きは、甘くて、熱くて、それと同じくらい軽やかだった。
     僕はバッと顔を上げる。アーロンは笑っていた。目尻にほんの少しの慈しみを湛えて。
    「……いい、のか……」
    「いいぜ」
    「……アーロン、本当にいいのか?」
    「だーから聞いてんじゃねえか。あと何度OKを出しゃいいんだよ」
    「……アーロンッ!!」
     腕を伸ばし、しがみつき、今度は僕からキスをした。アーロンはイタズラが成功した子どもみたいにずっと笑っていた。

    「……へえ」
     ジュエリーケースを目の前で開かれて、アーロンは少し驚いたようだった。
    「……本当は給料三ヶ月分のリングを、って計画してたんだけど、怪盗ビーストのお眼鏡に適う宝石なんて僕の薄給じゃ買えないからさ」
     僕はケースの中からブレスレットを取り出す。僕が大事にしているブレスレットと同じレザー製で、プレートには『AARON』の刻印。
    「対、ってわけでもない。このブレスレットが、君がくれたものと同じ重さだとも思ってない。でも」
    「あーあー、御託はいいわ。こいつが婚約指輪の代わりってわけだな」
    「……そのつもり、だ。受け取って欲しい」
     僕の真剣な願いに、アーロンは黙って左手首を差し出しただけだった。胸が熱く、いっぱいになる。もう手は震えなかった。
    「……ふん」
     手首にはめた愛の印を、アーロンは検分するように眺めている。愛おしいものを見つめるときの瞳だ。僕はほっとしてソファに腰を下ろした。
    「悪かねぇ。ドギーの見立てにしちゃ上出来だ」
    「そうか? いや〜僕もプレゼントセンスには自信があってさ!」
    「調子に乗んな。何よりいいのは」
     アーロンはギチチ、と音を鳴らしながら拳をつくる。手の甲に血管が浮いていた。
    「こいつならカギ爪で戦るときに邪魔にならねえ」
    「……ハハ……そっちかぁ……」
     不適な笑みのアーロンの隣で、僕は冷や汗をかきながら引き攣り笑いを浮かべた。……なんにせよ、プロポーズは成功、これで僕らは晴れて婚約者だ!
    「嬉しいよ、アーロン。こんなに嬉しいのはアッカルド劇場でニンジャジャンショーの司会をしたとき以来だ」
    「その程度かよ……」
    「その程度とはなんだ、僕にとっては長年の夢だったんだぞ」
     アーロンはへえへえ、とかなんとか生返事をしながら、すっかり氷の解けた薄いジンジャーエールを飲んでいる。その横顔を見ながら、僕はしみじみと喜びを噛み締めていた。
    「お、そういや」
    「なんだい、スイートハニー?」
    「……そのキッショい呼び名を次使ったらブッ殺すからな……婚約指輪には、お返しが必要だろ」
    「ああ、そんなのいいよ。君がプロポーズを受け入れてくれただけでじゅうぶ」
    「おらよ」
     僕が照れながら辞退しようとしていると、アーロンの手が素早く動いた。その次の瞬間、僕の左手の薬指にはびっくりするくらい大きなダイヤモンドの指輪が嵌まっていた。
    「は、はああああああ!?」
    「手持ちのはそれしかねえから我慢しろ。ルースならもっといいのがあるがな」
    「き、君、これ盗品だろ!?」
    「当たり前じゃねえか」
    「もらえないよ!! そんなもの!!」
    「んだとォ?」
     アーロンはからかう笑みを浮かべると僕に詰め寄ってきた。思わず気圧されてソファの上で後ずさってしまう。
    「ハァン、なるほど。ドギーは飼い主から貰うなら指輪じゃなくて首輪がいいか」
    「そ、そういう問題じゃない!」
    「ほれ、グッボーイグッボーイ」
    「うう、頭を撫でて誤魔化すな!」
    「……もう、何にも遠慮はいらねえな」
     髪も顔もめちゃくちゃに撫でられて、パニックに陥っていた僕は聞き逃すところだった。このうえなく愛おしそうなアーロンの囁き。
    「オレだけのものだ、ルーク」
    「……アーロン……」
     僕は体の上に覆い被さるように身を乗り出してきた愛する婚約者を見上げた。優しい瞳。甘い笑み。い、いかん、涙が。
     察したのか、アーロンは僕の目尻にキスをした。次に額、そして鼻筋。それからーー
     目を閉じる。口づけを受け入れる。何度もしてきたキスだけど、これは特別なキスだ。
     世界でたった一人。僕は君のもの。君は僕のもの。
     喜びに溢れたキスは、痺れるように甘美だった。
     と、そのときだった。二人の体の下で苦しそうな呻きを上げていたソファが遂に最期の悲鳴を上げたのは。
     ミシ、メリ、と木の裂ける音がして、ガッタン!! と僕らは抱き合ったまま斜めになった。
    「…………」
    「…………」
     脆くなっていたソファの脚のうち、片側二本が折れたのだとすぐにわかった。残された二本も軋みながら健気に耐えている。
    「……ぷっ」
    「カハハ……」
     なんだか可笑しくて、大事なソファが壊れたというのに可笑しくってならず、僕らは抱き合い無数のキスの雨をお互いの顔に降らせた。本当に可笑しくって、斜めになったままで笑いながらセックスまでした。
     これが、僕の渾身のプロポーズと、憐れなソファの最期にまつわる話だ。
     あのあと、なんとなくリビングのソファは新調していない。なんでかって?
     うーん……なんでだろうな。またきっと溢れる愛の重さで壊すから、かな? な、なんちゃって。ははは……。
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