おウイさんとこの子とうちイカのうちよそ未満小説空を見た。
無機質なビルに切り取られ、いつも灰色にくすんでいる、自分とは縁遠いと思っていた景色が…眼前に広がっていた。
バンカラで生まれ、バンカラで育った自分は、ビルの額縁から覗く空が「空」であった。
故に、凄まじい衝撃を受けた。
この抜けるような青は、そこに差し込むような白い雲は、本当にこの世界のどこかに実在するのだと。
そう、叫んでいるような、空に。
その見た事のない景色に、手を伸ばそうとした時。
ふわり、とインクが壁から剥がれ落ちていく。
あ、と思う間もなく、目の前の空は宙へ消える。
伸ばしかけた手を力なく下ろし、一抹の寂しさを噛み締め、絵が描かれていた壁に背を向ける。
そして路地裏の陰に消えていくその後ろ姿を、誰も見る者は居らず。
そうしてただ、静寂が訪れた。