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    pandatunamogu

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    クラッシャー新ちと更に上を行く降のお話第2話

    ##降新

    つみ の みつ-第2話-          2.


    「へぇ。先方からの熱烈なアプローチで押し切られたんですか! あの降谷さんが押し切られるってことは余程熱烈だったんでしょうね」
    「はは。まあ、そうかな」
     少し照れたように笑い、ジョッキに半分残ったビールを男らしい喉に流し込む正面の男前に、オレは内心舌舐りをする。立派な喉仏が上下する様の、何と肉感的なことか。
     目の前の年下の性悪に狙われていることも知らない新婚の男は、少し嬉しそうに頬を緩め「そういう君の方はどうなんだい?」と切り返してきた。
    「オレですか? オレはサッパリですよ」
    「またまた。俺の耳に何も入ってこないとでも?」
    「うへぇ。コワイなぁ。公安って一介の大学生の恋愛事情まで完全マークするんですか?」
    「はは。まさか。君だからだよ」
     目をなくして笑う降谷さんに、「オレだから?」と聞き返せば、頷かれた。
    「それは……例の組織の残党の兼ね合いですか?」
    「いや。もうあの組織の残党のほとんどは狩り尽くしたからね。末端の人間の素性や行方も把握しているし、そのほとんどは軽微な犯罪で収監されている。組織関係なく、君のことはずっと見守ってきたからね」
     随分と優しい目をしてそう語る降谷さんの言葉に、ムズムズと臀がむず痒い。
    「え、それってどういう意味で……? 公安案件を荒らさないかどうか、ってことですか?」
     わざと見当はずれな推量を口にすれば、可笑しそうに笑いながら違うよと首を振る。
    「君への想いはもう随分昔に絶たれてしまったけれど、それでも俺にとって君はいつまでも特別な存在だからね」

    ────コレは……そうそうに脈アリ発言、ってコトでイイのか?

     言葉の奥が読み取れずにフリーズするオレの反応をどう捉えたのか、降谷さんは「安心しなさい。もう俺は妻帯者だ。今更君をどうこうしたいなんて気持ちはないよ」と口にした。
     此処で、どのような切り返しをするのが妥当か、瞬時に思案を巡らせる。すぐに『今はもう……そんな気にはなれませんか?』などと言うのは、この男に対しては些か性急が過ぎて芸がない。芸がないだけでなく、恐らく効果も見込めないだろう。
     だとすれば────。
    「いやぁ……あの時は惜しいことをしました。完全にオレの見る目がなかったって事です」
     眉尻を下げて頭を掻きながらそう返せば、少し驚いたように見開いた目は、戸惑いの色を映している。
    「だって今の降谷さん、同性のオレから見ても、凄く魅力的だから」
     嘘偽りのない言葉を投げ掛ければ、ほんの一瞬フリーズした彼は、すぐに「あんまり大人をからかわないでくれ。本気にして大怪我する所だった」と快活に笑われた。

    ────そう簡単に翻弄させてはくれねぇよな。俄然、燃えてきた。

    「残念。本気にしてくださって良かったのに」
     少し唇を尖らせてそう返しても、動揺することもなく、頬を染める反応も見られない。それもそうだろう。彼は今までオレが落としてきたどんな人間よりも、モテるのだ。おそらく物心ついた時から今まで、モテてこなかった事など皆無ではないだろうか。だからきっと、袖にされたのはオレが最初で最後なのではないかと予測する。あんなにハイスペックのモテ男に言い寄られて靡かない人間など、男女関係なく、おそらくオレが最初で最後だろうから。だからこその執着か、と。妙に合点がいった。
     その日の食事は日付が変わる間際まで続き、タクシーを呼ばれて自宅前までしっかり送り届けられた。
     別れ際、運転手に気取られぬよう留意しつつ、そっと熱を込めて上目に見つめ、「また誘ってもいいですか?」と控えめにお伺いを立てれば、柔和な笑みを浮かべた彼は「もちろん。また連絡するよ」と色良い返事をくれた。おやすみと言い合って家の中に入ったオレは、早速彼とのトーク画面を開く。一分ほど敢えて間を置いてから、メッセージを打ち込んだ。

    【今日は本当にありがとうございました。とっても楽しいひとときを過ごせました。
    ですが、新婚である降谷さんを日付が変わるまで独占してしまっても、良かったのでしょうか?
     もし、奥様の不興を買ってしまった際は、遠慮なくオレの名前を出してください。
     今度は美味しいお酒、呑みに行きましょう。
     それでは────おやすみなさい】

     送信ボタンを押すと、三分ほどして既読がついた。

    【こちらこそすっかりご馳走になってしまったな。本当にありがとう。
     今度は是非奢らせてくれ。
     構わないよ。予め今日は遅くなることを伝えてあるから。それにうちはそこら辺、結構放任主義なんだ。
     そうだな。何事もなければ来週の金曜あたり、どうかな?】

    「来週の金曜? エラく詰めてくんなぁ。放任主義っつったって、流石に毎週はマズいんじゃねぇの?」
     そう口にしながらも、頬が緩むのを止められない。

    【え?来週ですか?こんなに頻繁にご主人お借りしちゃってもいいんでしょうか?
     降谷さんのご家族がそれで構わないのであれば、願ってもないお誘いですけど……】

     調子っぱずれの鼻歌を歌いながらそう打ち込めば、すぐに返信を受信した。

    【平気だよ。なら決まりだね。勿論有事の際は予定変更せざるを得ないけれど、何事もなければ来週の金曜、呑みに行こう】

     その返答に悪い笑みを深くして、オレはそっと、スマホの画面に音もなくくちづけた。


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