北まほは魔力供給治療が出来ないって言ってたけど、1.5部でオズ様が魔法連発アーサーにやった血で魔法陣描くやつならできるんじゃないかな。あれは信頼関係があるからかもしれないけど、ファウストやレノックスにも施せたのにと言ってたから大丈夫なんだろうということにする。
オーエンも騎士様に血を媒介にした魔法で魔力譲渡しよう。
設定は省くけど、オーエンが一度死んで血塗れで、騎士様が魔力切れで危うくなってることにしよう。
(省いた設定
オエと騎士様と誰かで魔物退治依頼。白亜城ぐらい混成メンバーで。
魔物が雑魚だったのでサボろうとしたけど一匹大物が居たのであれならマナ石になるかなと深追いするオエ。
魔物の住処まで追ってしまって、そこが侵入者から魔力を吸い上げ魔物にバフがかかるクソフィールドだった。
何とか魔物を倒すけど致命傷を負って「これは一回死ぬな」と悟るオエ。でもここ魔力を吸ってるから生き返っても弱体化するからまずいとか考えながら意識を失う。
そんなオエを見つけて、自分の魔力も吸われながらオエを結界もどき(あまり巧くない)でなんとか守ろうとする騎士様。
生き返ってみたら何故か半分死んだような騎士様が居てもう一回死にそうなぐらい驚くオエ)
***
失った血の分、身体が重く冷たい。オーエンは死因を思い出して忌々しい思いを噛み締めた。蘇生は死という最悪の山場だけ過ぎるだけなので、この弱った身体に自己治癒を施して回復に専念しなければならない。魔法舎の奴らが見つけに来る前に姿を隠すか。そう考えたオーエンの霞んだ細い視界に黒い丸いものが映った。何故か息が詰まるような感覚。瞬きを繰り返すたびに鼓動が早まった。
黒い服。魔法舎の練習着だ。丸まった背中。両膝を地に着けている。地に刺した棒切れを両手で握り項垂れて動かない。いや棒切れではない。長剣だ。魔法舎で長剣を帯びて魔道具としている魔法使いはただ一人。
「騎士様?」
呼びかけても応えは無い。よろよろと近づき、肩に触れてみると呆気なくその身体が傾いだ。ぱたりと人形が倒れるように。
「…………ッ」
叫びのようなものがこみあげてくるが、オーエンは歯を噛み締めるようにして堪えた。違う。魔法使いに死体は無い。石になって砕けるのだから。
膝を突いて倒れているカインを見分すれば、外傷は無かった。むしろぱたぱた落ちていくオーエンの血がカインの服を汚している始末だ。顔に手をやるといくらか弱った呼吸を感じた。今のところ命に別状は無いようだ。
普通ならは呪いで意識が無い状態と思うところだろうが、呪い特有の禍々しい気配が無い。
「これは……魔力切れ?」
魔法を使いすぎて心が摩耗し、何も考えられなくなっている状態だった。どうしてこんなことになったのか知らないが、一つだけ解っていることがある。
この男は、オーエンを守ろうとしたのだ。
どうしてかは知らない。いつだったか言っていたように、カイン自身よりもオーエンの方が戦力として優先されるべきと考えたのか、それともただ仲間を守るのは当然という馬鹿げた理屈でか。何にしろ思い上がりだ。北の魔法使いはこのような弱い魔法使いに守られたりしない。
オーエンは倒れているカインを眺めた。目は開いたままだが心が擦り切れる寸前の霞んだ眼しか見えず、眩しいはずの黄の瞳は枯れる前の花のようだ。身体の内からの力を失い、肌は石の冷たさを感じさせた。触れればヒビが入って砕けそうな、脆い身体。
これがカイン・ナイトレイであってたまるか。こんな魔法使いに北のオーエンが守られるはずもない。
オーエンは腕を持ち上げた。一度死んだ時に腕から垂れている血がまだ直っていないのは丁度いい。血の伝う指先でカインが袖を捲って剥き出しにしている手首の内側に己の魔法陣を描いた。
魔力切れを起こした魔法使いに魔力を渡す。それは北の魔法使いには使えない魔法だ。だがあのオズが血を介してアーサーに魔力の譲渡をしたことをオーエンは聞いていた。
魔力を含んだ強い魔法使いの血。物を通してなら心を触れさせずに魔力を渡すこともできる。
「クーレ・メミニ」
頭の奥で火が弾けた感覚。かと思えば、急速にそれが冷えて落ちていく。水が引くように浚われていく。魔力を譲るというのはこういうことなのか。
いや違う。
左目がぐるりと回った。ああ、こいつ。ここからも魔力が奪えると気づいたな。
「生意気」
オーエンは自然と口端を吊り上げた。まるでいつもこの目を諫める時のように。左目を閉じると何かが頬を伝った。血だろう。
見下ろすカインの手首から光が弱っていった。じきに心が動き出す。周りを見回してオーエンの名を呼ぶだろう。眩しい光の眼で。それからうるさい声で礼を言われ皆のところへ戻ろうと誘われるだろう。そんなのは御免だ。
「借りは返したよ」
一言呟くと、オーエンは冷たく重い身体を引きずりながら影の中へ消えていった。