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    おウイ(ナユタろう)

    @780K_Tune

    小説や落書き。

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    POIPOI 9

    勝手にお借りしたけど名前表記とか口調とか崩壊してたら申し訳ない。どっちも大切だと言ってくれたので。

    葉は華を思ひ、華は葉を思ふ騒乱は常に静けさを纏って現れる。
    予兆はあったが、本当に一瞬の出来事だった。

    炎に例えるにはあまりに禍々しく、
    漆となぞらえるにはあまりに毒々しい。
    空が真っ赤に染まると同時に、ナンプラー遺跡のあちこちから間欠泉が吹き出した。

    不揃いの歯を覗かせ、フライパンを持ったシャケ達が大量に現れる。
    状況を把握するのに一瞬、理解して恐怖が全身を駆け巡ったのも一瞬。
    バトルをしていた選手達がつぎつぎと悲鳴を上げて逃げ始めた。

    オウイも参加していた選手のうちの一人だ。

    友人のユネに誘われ、その妹と共にバトルに参加していた。
    バイトもしているからシャケは見慣れている。しかし、あまりにも突然すぎた。
    パブロを構えたまま目を見開き、咄嗟に動けずにいたが、一際大きな怒鳴り声で意識を戻される。

    「近寄るなっ!雑魚っ、が、よ!!」
    ヴァリアブルローラーの一振でシャケが一掃される。ショートのゲソの少女が果敢にもシャケを薙ぎ払う。しかし、重量級の武器だからこそ取らざるを得なかった行動だろう。
    ドスコイが彼女の後ろから近寄ってくるのが見える。一振では落とせない個体だ。

    振りかざしたフライパンが彼女の肩をかする。
    同時に、オウイが投げたスプラッシュボムとユネのボールドマーカーの挟撃でドスコイの体は爆ぜた。

    かすりとはいえドスコイの攻撃は痛い。
    安否を確認するために目を凝らす。

    「大丈夫!?怪我は!?」
    「お前が助けるの遅いから食らっただろうが、痛いなぁもう!」

    元気そうである。
    涙目の姉を振り払うように怒鳴る妹の姿を見て、ひとまずオウイは前に向き直る。

    ユネのことだ。妹の安全さえ確保できれば逃げることだろう。
    ならば、あとは『ヒーロー』の役目を果たすまでだ。
    運営の避難勧告のアナウンスが流れる。
    サイレンが鳴り響き、ジャッジくんとコジャッジくんの声がスピーカーに混ざり、シャケ達の独特な鳴き声や機械音が混沌となり場を満たす。

    それに逆らうようにオウイは向き直り、大きく、大きく、息を吸い、緋色の空を睨むように顔を上げ

    すべてを掻き消すような、咆哮を轟かせた。
    言葉の通じぬ狂戦士達に、今からお前達を喰らう者だと理解させるかのように。

    瞳孔が絞られ、縦長に細まる。
    全身のインクが沸き立っているように全身が熱い。
    ゲソがざわざわと逆立つのを感じる。

    フデを回すと構え直す。
    牙を剥き、何事も無かったかのように進軍してくるシャケ達と向き直った。

    クマサン商会でのバイトと違い、こちらはバトル用のギアと武器だ。
    ならば、やることはいつも通りだ。

    「囲まれるのなんて慣れてんだよ、来い!!!」

    スプラッシュボムを投げると同時にオウイはシャケの群れへと突進して行った。


    そこからのオウイ自身の記憶は朧げである。
    ただ、後から聞いた話だと自分が思うよりは短くも長くもない時間だったと思う。

    ヘビの本体を追いかけ、バクダンをメガホンレーザーで貫き、タワーにスプラッシュボムを投げつけ、群れるコジャケを引き潰し。
    ドスコイに腹を殴られ、テッパンに背後から突進され、ナベブタに間一髪で潰されそうになり、カタパッドのミサイルに回復するインクも掻き消される。
    それでも、とにかく、駆け回った。
    スペシャル増加のギアを身につけているため、メガホンを発射させながらいくらでもインクを回復できた。
    キルよりも生存を。注目を集めながら逃走を。
    サポーターの下の左手が痛む。あまり強くパブロは振れない。それでも、足は動く。
    下からモグラのセンサー音が鳴り出す。咄嗟に飛び上がり、四つん這いで着地する。シャケの体液が混ざるインクに肉体を蝕まれながらも再度立ち上がり立て直す。

    キィン……と、耳障りな金属音が鳴り響く。
    テッキュウだ。圧縮された金属が地面にぶつかり、不快な波紋を広げていく。
    それが1つ、2つと重なり。重なり。重なり。

    (ちょっと、待ってよ……!)

    3体。テッキュウが総出で海岸から現れた。何処を見つめているかもわからない、焦点の合わない間抜け面だが正確に、的確に砲台に鉄球を装填している。
    駆け回る隙などもう与えないと言わんばかりのウェーブが広がっていく。インクが切れ、足元が奪われた隙をコジャケに思いきり殴られた。

    「痛っ……!」
    コジャケを踏みつぶし、パブロで薙ぎ払う。
    殴られた脛がズキズキと痛む。
    そこに容赦なく、鉄球の波紋が何重にも広がりオウイに迫る。
    かろうじてSPを起動できるだけのインクはあるが、もう走れないだろう。

    幸いにもここはバトル会場だ。
    リスポーン地点はある。
    膝から崩れ落ち、自分のインクがあの不快な波紋で弾け飛ぶ衝撃に備え目を思いきり閉じる。


    ───少し時は遡る。

    リスポーン地点付近。
    突如として発生したビッグランから数十分、クマサン商会がサーモンラン・アルバイターを派遣すると同時に救助用でもあるヘリコプターが到着していた。

    バトルしていたインクリングやオクトリングはバイトに不慣れな者も少なくない。
    突然の出来事に混乱しながらも、迅速な対応に安堵しながら皆がヘリコプターに乗り込んでいく。
    その中で、イカやタコの流れに逆らうようにナンプラー遺跡の方に向き直る者がいた。

    「ねえ、あの人まだこっち来てないよね」
    「群れに突っ込んでそのままだぞ」

    ざわつきを聞き取ったアルバイターの一人が「まだ避難していない人がいるのか!?」と焦り声を上げる。
    その声を掻き消すようにメガホンレーザーの発射音が鳴り響く。

    先程まで駆け回っていた使用者について行くように乱反射していたはずのメガホンレーザーは、纏まりもなく散っていく。

    それを目にした瞬間、ヘリから飛び出していく影があった。

    「あっ!!おいっ、君!危ないぞ!コラァ!!」

    黒いツナギを着たアルバイターすら振り切り、投げられたカーリングボムの軌跡をインクの飛沫が勢いよく弾けて進んで行った。


    目を閉じていたオウイは、自分の体が宙に浮くのを感じた。ジャケットの革が思いきり掴まれ軽く首が絞まり「グェッ」と気の抜けた声が出る。
    反射的に空中でタコの姿に戻り、着地の姿勢を取ろうとしていると下から鉄球のウェーブを避ける足取りが聞こえる。
    まるでリズムゲームでもしているかのようにトンットンットンッとインクを弾くさまは、遊んでいるようだった。
    世界が回る。そのまま重力に釣られるように落下しかけたところで再度空中でキャッチされた。ゲソを掴まれる感触にとても覚えがあり、インクがザワつくのを感じた。
    あの時と違うのは、そのまま抱き寄せるように腕の中に誘われたことだ。

    ちらりと目を開ける。激しく揺れる視界、アザレア色の巻いたゲソが揺れる。
    バンダナの先がくすぐってきてこそばゆい感触。
    ヘリコプターの回転翼の爆音がだんだん近付いてきて、歓声と共に少し蒸し暑い機体の中に飛び込む。

    「お前!なに勝手に飛び出してんだよ!」
    耳に刺さる怒号でぼんやりとしていた意識を戻され、オウイは思わずヒト型になる。愛武器はちゃんと持ち帰れたようで、ひとまず安心する。
    ヒト型になると同時に腕からするりと抜け落ち、機内の床にへたり込む形になる。
    自分を包むように回された腕がそのままなことに気付き、首を傾げながら顔を上げると、そこには口元のバンダナが中途半端にズレたユネがいた。
    見られたくないと言っていた歯が出ているのも気にせず、わずかにあいた口から切らした息を吐いている。
    激しく動いたせいだろうか。
    その目には涙が溜まっていた。

    なんと声をかけていいかもわからず、考えるにはあまりに疲れきっていて、オウイはその顔を見上げることしかできない。

    形容しがたい浮遊感に襲われながら、ヘリコプターは宙を舞う。
    他の搭乗者の声を拾うこともできず、エンジンと回転翼の音で聴覚を支配されていたが

    「無事で、よかった………」

    オウイには、ユネのその言葉だけが届いた。
    口にすると同時に、ユネの瞳から涙が落ちる。
    それがまるでいつか物語で読んだ『大切な人を想って流す涙』のようで、なんだかわからなくなってしまった。

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