【テキストデッサン】ミルク色の髪の彼女 僕には妹がいる。と、いっても血は繋がっていない。父さんが知り合いの娘を養子に向かい入れたのだ。髪はミルク色で、歳は三つ下の十一歳。
そんな彼女は最初は僕に対して警戒心が強かったが、だんだんと甘えたな一面を見せるようになってきた。
「悪夢を見たの。こわあい……」
例えば、そう言いながら枕を抱えて、僕の寝室に来た。
僕は自分のベッドに彼女を招き入れ添い寝し、あやすように彼女の腹をぽんぽんと叩いた。
「どんな悪夢だった?」
「あのね、鬼が私を追いかけてきて、私、鬼に捕まったと思ったら鬼の体が膨らんでいって爆発して、血を浴びたたの」
「うーん、悪夢だ」
話をしているうちに眠気がやってきたのか、妹の口数は減っていき、一時間経ったことを知らせる古時計の鐘の音が屋敷に響くときには、すぅすぅと寝息を立てていた。
僕も妹の様子を見て、安心して意識を手放した。
そんな彼女は、朝起きて数時間ほど後に、バイオリンを取り出し、昨日一緒に寝てくれたお礼として僕にアドリブ曲を作ってくれるとのことだった。
「鬼ごっこの悪夢より疾走」
そう言い、バイオリンの弓を動かし始めた。小刻みに弓は行ったり来たりする。かなり不安を煽る、しかし疾走感のある曲調だ。ぐるぐると、螺旋が目の前で回るような錯覚を覚えた。この思い出はかなり印象に残っていた。
妹は美しく成長し数年後、海外留学に行くことになった。船に乗る直前の波止場で、僕は妹と強く抱きしめ合った。純粋な兄妹愛だ。なにせ、彼女と共有した時間は僕にとって長かったのだから。
僕はというと、実家が領主なので領地を経営したり、仲間と危険な魔物の討伐をしたりしていた。
しかし、今回のやつはヤバかった。ケンタウロスという魔物だが、馬力が通常個体とは段違いだった。こんな奴を領地の森に野放しにしておけない。やがて被害が出るだろう。
脳裏で、いつぞやの妹が作曲した曲が流れる。ぐるぐるぐるぐる、曲調も目の奥の螺旋も回る。ヤバイ。僕たちがケンタウロスに攻撃を仕掛けているつもりが、逆にそいつから逃げまどっていた。
ケンタウロスは雄たけびをあげて木々をなぎ倒していく。潰されてたまるもんか。なにか、なにか打開策はないか。
そのとき。
ケンタウロスは横に吹っ飛んだ。
土煙があがる。
さっきのは……ケンタウロスに向かって、魔法が飛んできた。
魔法を発射したであろう方向を見ると、白い髪の女が立っている。
そこにいたのは、留学に行ったはずの僕の妹だった。
「久しぶり、お兄ちゃん」