三本目 なんとなく、ガイの店へいく気になれず。至は、会社からほど近い小さなバーへやってきた。それは、彼が「まあおまえならいいか、」と教えてくれた店だ。
居酒屋も好きだけど、たまにはこういうところにくるのも悪くない……なんて思ったのはほんの数分前。少しだけ背伸びしたこの場所に、なんとも言えない居心地の悪さを感じはじめていた。いや、店そのものはさすが彼のお墨付きだけあって間違いない。だが、そういうことではないのだ。あくまで感覚的な話。自分がこの空間に居る違和感。この間、彼と来た時はそんなことなかったのに。至はあまり座り心地の良くないスツールの上で身を捩り、ロックグラスを指先でちょいちょいと突いた。バーカウンターの向こう側では、滑るような手つきでウェイターがシェイカーを操っている。そんな彼、至の様子もさりげなく気にとめているようで。そわつく至を察してか、あえて声はかけてこないが視線があえば優しげに微笑み、目元で雄弁に語る──ゆっくり、自分のペースで楽しんで、と。
1959