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    cocohanumano

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    cocohanumano

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    サリスジ 

    君の銀の部屋をBGMにお読みください
    なんでも許してくださるかた向け
    チガヤ様原作、奇病患者小児科病棟true end IF

    すけべではないけど、ちょっと痛い……許して……

    魔法がとけたら「あ、やっと帰ってきた」
     久しぶりに死神局に出向くと、ドミニクの自室の前で姉と顔を合わせた。姉はドミニクの部屋の扉に背中を付け腕を組んでいる。顔を合わせる――というか〝待っていた〟というほうが正しいだろう。
     姉と会うのも久しぶりだ。元々互いに仕事も忙しい。部下をまとめる立場でもあるし、大死神様の候補として学ばなければいけないことだってたくさんある。
    「ああ、姉上。久しぶりであるな」
    「あんたが全然死神局に帰ってこないから、あんたの代わりを任されたことだってあるんだから」
    「それはすまない」
     考えてみれば最後に死神局に帰ってきたのは、数か月前だったような。連絡自体はメールで事足りていたし、本当に大切な仕事は必ずこなしていた。文句をいわれるようなことはしていないはず。
     姉はいつもどこか口うるさい。弟の為、業務の為。心配してくれるのは、ありがたいことだが少々迷惑だ。姉の小言に少々うんざりしていると、姉にぐいっとネクタイを掴まれた。
    「…………ねえ、あんた今日これから時間ない?」
    「すまない。やるべきことがある」
     嘘ではない。死神局に帰ってきた理由だって、父に呼び出されたからだ。ほかの仕事もあるとはいえ、上司でもある父の言葉を無下にはできない。
     姉の手をやんわり払うと、姉はドンっと扉を拳を叩きつけていた。
    「ねえ、あんた、最近〝なに〟してるの?」
     いつものひょうひょうとした口調ではなくオクターブほど低い声。どこか怒りを含んだ声にどこか口元が歪む。
    「……姉上には関係ないことである」
     ぽつりとつぶやくとドミニクはその場から消える。死神のワープ機能は本当に都合のいいものだ。
     姉は〝あのこと〟に気が付いているようだ。もしかして、父からの呼び出しというのも姉が仕向けたことか? なんて頭に過るが、すぐにどうでもよくなる。
     今は〝あの場所〟に向かうことが一番大切なことだから。

    ◇◇◇

     持っていた鍵を鍵穴に差し込むと低く鈍い音が響く。
     薄暗い室内。前は閉鎖されていたとはいえ、明るく光に満ち溢れていた場所だ。ドミニクは慣れた足取りで奥へ奥へと進んでいく。
     目的地は2階の一番奥の部屋。こんこんとノックをすると、サリヴァン? という声が聞こえてくる。
    「ああ、我輩だ。すまない、遅くなった」
     扉を開くとスージーがベットに寝ころんでいた。女の子らしい内装はあの時と変わらない。あの時渡したクマのぬいぐるみもきちんと飾られている。
    「いえ、大丈夫……あ」
     スージーがふわりと笑うと、はらりと顔のの包帯が解ける。
    「我輩が巻くから。スージーはじっとしているである 」
    「ん。わかった」
     スージーは素直に頷く。しゅるしゅると包帯を解くと、痛々しい傷跡が目に映る。
    「……痛むであるか?」
    「ううん、大丈夫。ただ……」
    「ただ?」
    「見えなくなったのは、少し不便ね」
     スージーは悲しそうに笑う。ドミニクの〝罰〟と言われたあの声と共に、スージーの目は見えなくなってしまったのだ。刃物で眼球が傷付いてしまったから。人間の体というものは実にやわにできている。
    「……すまない、我輩が――」
    「サリヴァン」
     懺悔を口にしようとすると制止の声が響く。
    「謝らないで。サリヴァンは悪くないんだから」
     スージーはふわりと微笑む。この病棟で働いていた時と同じような笑顔。胸の奥が締め付けられるような感覚にドミニクは歯を食いしばる。
    「そういえば、マーシー達は元気かしら?」
    「ああ、みんな元気であるぞ」
    「ふふ、元気になってみんなに早く会いたいわ」
    「そうであるな。スージー、もう寝る時間だ。眠るといい」
     頭を撫でるとスージーはふわぁあ……っとあくびを落とす。時間は遅い。いつもならスージーは寝ている時間だ。
    「うん。おやすみ、サリヴァン」
    「ああ、おやすみ。スージー」

    ◇◇◇

     ドミニクが奇病患者小児科病棟に辿りついた時、病棟中には鉄の匂いが充満していた。白い壁は赤く染まり、そこら中に〝人間だったもの〟が転がっている。生存者がいるなんて考えられなかった。
     絶望の中最愛の〝娘〟を抱きかかえると、〝娘〟だけは温かい。スージーだけは生きていたのだ。
     しかし、とくんとくんと小さくなっていく鼓動。このままだとスージーまで死んでしまう。スージーまでも失ってしまったら――。
     その状況に、ぷつんと何かが切れた。

    〝もうだれにも、渡したくない。死神にも、人間にも〟

     スージーを隠してしまおう。ドミニクはそのことにしか頭になかった。
     隠そうと決めたドミニクの行動は早かった。スージーを手当したあと、スージーの腱に刃物を刺した。スージーの意識がなかったとはいえ、少し罪悪感がわく。
     しかし、切っておかないとスージーは自分で出て行ってしまうのだ。
     スージーには嘘に嘘を重ねた。職員や子供達は別の施設で保護されている。だから大丈夫だ。スージーは素直だから、すんなりと信じてくれている。

     ここは、安全だから……外は危険だから……

     魔法の言葉を唱える。この病棟はドミニクの大切な宝箱。
     宝物が壊れないように。魔法が解けないことを願っている。
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