涙の味は『どうして、もう俺の事、、、』
ネット配信のドラマで燐音君が涙を流している。
普段の横暴さはなく、そこにはやんちゃな見た目の中身は純情な青年がいた。
「こんな表情もできたんっすね」
最近演技の仕事も増えてきてはいたが、どちらかというと見た目通りのあくどい役ばかりだったからなんだか新鮮。
「今更俺っちの魅力に気づいちゃったかなぁ」
当の本人は、人を膝枕にして次の台本を読んでいる。
「んー、純情なのは知ってたけど、それを表に出せるとは思ってなかったから、ちょっと変な感じがするというか」
「似合わねえってことか」
「そこまで言ってないっす、ただ、涙を流すっていうのも想像がつかないから」
そう、純情で軽薄、重い愛と軽い口調。そんな彼が画面の中で流す涙はとてもきれいで、
「おいしそうだなって」
きっと甘くて、とろける味に違いないなと。
「舐めてみるか」
おっ、びっくりしてる、だよなぁ。この状況で泣けるわけないもんな、普通。確かこの辺に、あったあった。
「ほれっ」
「えっ、わっと。危ないっすねえ。これは、目薬っすか」
ポケットから取り出され放ってよこされたのは、目の疲れに効く種類の目薬だった。
「そうそう、俺っちの本当の涙は一滴一万円だからな」
「たっかい、でも払ってみる価値ありそうっすねぇ」
「マジか」
こいつこんなにやべぇ奴だったか、あ、俺っちと一緒にいられる時点で十分やばいか。
「ちょっと、そこで引かないでほしいっす。ねえ、どうやったら泣いてくれるんすか」
「無駄だってば」
空腹時の顔になってるからとりあえず、チョコバーをねじ込んで逃げることにした。