あなたに愛を注がせて「今日も疲れましたぁ、そして寒かったですぅ」
その日のスケジュールを終えて自室へ帰って来た時、そこには見覚えのない光景があった。
「このこたつは、真白さんのものでしょうか、いつもお部屋の模様替えをするときには相談があるのに珍しいですねぇ」
外は雪も降り積もる冬のあらしで、その誘惑は冷え切った手足にはとても抗いがたいものでした。少しだけ、と思いスイッチをONにしてもぐりこんでみると、その温かさについうとうとと。
『うふふ、眠ってしまいましたねぇ、これは呪いのこたつですよぉ』
え、この声は私ですか、なんでしょう嫌な予感がするのに動けません。どうしましょう、もともと呪われているのにさらに呪いなんて、ダメです、これ以上はむりですぅぅぅ。
ここは、私のベッドですね、いつの間にここに移動したのでしょうか。うっすらと目を開けてうっすらと目を開けて身体を起こす、真白さんが帰ってきた気配はなくそしてさっきまでうたた寝していたはずのこたつも、ない。
「あれ、でも呪いのこたつなんて気のせいだったのでしょうか」
でも、手足の先に残る温もりは間違いない。なにもなくてよかったですぅ。立ち上がりお風呂に入ろうと脱衣所の鏡の前に立った時、呪いの正体がわかった。
頭の上にふたつ猫耳が生えていて、耳があるべき場所はなにもない。そして後ろににょろにょろしているのは髪と同じ色の、しっぽ。
「はぁぁぁぁ」
思いっきり出してしまった大声に反応するようにノックが聞こえた。
「マヨイさーん、どうかしましたか、今凄い声が、」
それはユニットのメンバーである巽さんでした。
「たたたた、巽さん、どうしましょう、これっ」
「ドアを開けてください、邪悪な気配がしたので追っていました。どうされましたご無事ですか」
しっぽを隠してキャップを目深にかぶり、そっと入り口のドアを開いて巽を招き入れた。
「驚かないで、くださいね」
「具合でも悪いのですか」
額に手を当てられた瞬間キャップが落ちて、その耳があらわになった。
「これは、何でしょうか、触れてもいいですか」
「ええ、どうぞ、じつはしっぽもあるんです」
ふにふに、ふにふに。なんだかくすぐったいです。それに。
「マヨイさんなんだか喉が鳴っているような」
グルグルグル…
「ふ、不可抗力です」
「愛らしいですな」
いつの間にか抱き寄せられて、頭をなでられていた。巽さんなら信じてくれる、何とかしてくれる、そう思ってこれまでの出来事を打ち明けた。
「そんなことがあったのですか、そういえば星奏館の七不思議にきいたことがあります。猫の日が近い寒い日に現れて、誘いこまれたアイドルを猫に変えてしまうというこたつを」
「なんとまがまがしい、でもなぜこのような中途半端な姿に」
「あくまで推測ですが、マヨイさんは元々神秘的な部分があるので効きにくかったのではないかと思われます」
「それって喜んでいいのでしょうか」
自分で触ってみても感触があるし引っ張っても取れる様子はない。
「このままでは真白さんに驚かれてしまいます、嫌われてしまったら私はどうすれば」
「俺はいいのですか」
「巽さんは、私の事を嫌いにならないと信じていますので」
「そうでしたか、すみません少し疑ってしまいました」
そのあと話し合いをした結果、とりあえず旧館のお部屋を借りて避難することになりました。
「なにか、七不思議の続きみたいなものはありませんかぁ」
「確か、猫の日に、たくさんの愛を確かめられれば元に戻れると聞いたことがあります」
「たくさんの愛など、私には縁遠いものですね縁遠いものですね