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    八丁目

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    八丁目

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    💚露億 女体化
    初めて書いた露億ちゃんがまさかのにょた泰だったのです。

    #露億
    luYi
    #女体化
    feminization

    笑っていて こんな奴を好きになる人間が、この地球上に存在するのかと思うほど、岸辺露伴という男はとても厄介であり、面倒な男である。
     ひとりでカフェへやってきた露伴に、億泰が相席しないかと誘っても、嫌な顔で断られる。家に遊びに行けば、一言目には「帰れ」である。それはあまりに酷いと、ちょっとした悪ふざけで胸の谷間やら、パンツを見せれば「年頃の娘がはしたない真似をするんじゃあない!」と声を荒らげる始末。そして、見知らぬ子どもにはおとなげない態度を見せるし、康一のことだけは親友だと思っているせいか、本人なりに誰よりも優しくしているつもりなのだろう。
     今日も同じようにカフェのテラスへ座りメニューを広げていると、やはり露伴がやって来た。
     「よう、せんせー。一緒に食べようぜぇっ」
     「結構だ。僕は静かに過ごしたいんでね」
     食い気味に即答する露伴に、億泰は面白くないと唇を尖らせた。しかし、静かに過ごしたいと言う割には、億泰の隣のテーブルへと腰掛ける。静かに過ごしたいなら離れたところへ座るなりすればいいものを、露伴はいつも必ずといっていいほど、億泰の隣のテーブルに着く。
     「じゃあなんでいつも隣のテーブル使うんだよ。一緒したって同じだろ」
     「お前の隣のテーブルを使いたいわけじゃあない。僕が座りたいテーブルの隣にたまたまお前がいるだけだ。自惚れめ」
     やはり康一以外の人間をまともに相手にしようとはしない。それでも、億泰は露伴を見かければ声を掛けずにはいられない。あの綺麗な目に自分を映して欲しいから。
     「せんせぇー、今日は紅茶?それともコーヒー?」
     「僕のティータイムの邪魔をするな」
     「まだ注文してねえじゃん。ちょっとお喋りするだけ」
     「ふん、今日はクソッタレがいないからって僕を代わりにするんじゃあないよ。ましてやあのクソッタレの代わりなんて不快極まりない」
     「そんなんじゃあねえって」
     億泰が話し掛ければ面倒だ邪魔だとあしらわれる。しかし、無視されることは一切ない。なんだかんだ言いながら億泰に応えてくれている。興味がないものは視界にすら入れないのに、少しは自分に興味があるのかもしれないと、そんな些細なことですら億泰は嬉しく思ってしまう。

     「億泰」
     低く穏やかな声は、その名前を呼ぶ時だけやたら優しさや愛しさを感じる。
     「あ、承太郎さん!」
     仕事の合間に休憩しに来たであろう承太郎は、他のテーブルが空いていても、さも当たり前かのように億泰のテーブルへとやってきては椅子に腰掛けた。
     「おう、先生。邪魔するぜ」
     「……どうも」
     康一は承太郎とふたりきりだと無言になってしまって緊張し、その空気に居た堪れなくなるという。露伴はそんなことはなかった。あまり承太郎とふたりで会うこともないからなのかもしれないが、別に気にやしない。しかし今、やけに含みのある顔や声色で挨拶をされた気がしてならなかった。
     「先生もこっちに来いって誘ったんだけどよォ~、意地でも来ないんだぜえ」
     「意地を張っているんじゃあない。パフェを奢らされたくないんだよ」
     「そんな誰彼構わずパフェねだったりしねえよ!」
     事実、とも言い難い。本人にその気はなくても、メニューを見て「ンまそ~っ」と溶けた顔を見せられてしまうと、つい注文しては、料金はその相手が支払っていた、なんてこともしばしば。それはすでに幾度となく露伴もやられているし、その罠に自らハマりに行くのはジョセフ・ジョースター。そして──
     「今日はパンケーキにするか、億泰」
     空条承太郎である。
     「えぇ?!いいのォ?」
     「たくさん食う女は嫌いじゃあねえ。いや、お前の食べる姿を見るのが好きでな」
     平気で『好き』と言葉に出す承太郎。そして、露伴にちらりと目線を向けていた。──なんだ、その意味深な目線はっ!
     年上で頼り甲斐がある人とはいえ、あまりに挑発的過ぎる行動に、露伴は見なかったフリを決め込んだ。そうして、不快と湧き上がる怒りから、余計なことまで言ってしまうのが岸辺露伴という男なのだ。
     「意地汚い女だな」
     「……じ、自分で払うよォ」
     「億泰、男には男のプライドってえのがある。この空条承太郎、好きな女に代金を払わせるなんてことはしねえ。なあ、先生。アンタもそうだろう」
     だが、目的が分からない。承太郎が自分に挑発的な視線と言葉を投げる意味が。露伴の億泰への想いに気付いている可能性は高い。それでいて挑発させてくる意味は、果たして揶揄なのか、それとも警戒しているのか。
     もし揶揄なのであればこの岸辺露伴、相手が承太郎とはいえ、誰かの思惑どおりに動かされるのだけは絶対に嫌だ。しかし、もし後者なのだとらしたら。これはなかなか手強い相手である。だが、どちらか分からない以上どう出るべきなのか。
     出方を思案する。億泰には冷たくしたいわけではない。むしろ惚れているから優しくしてやりたい。それなのに、素直に言葉は出ないし、喜ばせてやる行動も出来ない難儀な性格。
     「そうですね、そりゃあもちろん。僕だって惚れている相手にはいくら金を遣ったっていいと思っています。惚れている女にはね」
     「うげぇっ、センセー貢ぐタイプかよォ~」
     メニューを広げながらウエイターに、ホイップクリームがたくさんのったパンケーキをオーダーしていた。そうして、人気漫画家は金銭感覚が狂っていると改めて実感させられたと怪訝な表情。しかし、億泰の機嫌が次第に悪くなっていくのは、ただそれだけではなかった。
     「ふんっ、恋も知らないガキの分際で知ったようなこと言うなよなっ!惚れた女が心の底から喜び、綻ぶ笑顔というものは、限りなく輝いて美しいものなんだっ。その為なら金も惜しまないって話さ。貢ぐだなんて言葉で片付けるんじゃあない!」
     「っんだよ、ムキになっちゃってさ~。そういうセンセーだって恋とかしたことあんのかよォ~」
     「何も知らないガキにとやかく言われたくないからだよ。恋ならしているぜ、今現在進行形でな。リアリティーは視覚や感触だけじゃあなく、感情も大事な材料だからな」
     「ふーん、結局漫画の為の材料に過ぎねえんだな。あんたにとってその相手はよォ~」
     かわいそ~ と言われて言い返すことが出来なかった。
     確かに虹村億泰を好きだと自覚した時は『いい材料』だと思った。なかなか自分には見せてくれない可愛い笑顔をもっと見せて欲しい、他の女より低くてしゃがれた声でも自分はずっと聞いていたいと思うし、康一からの情報によれば料理が上手いと聞いて億泰の手料理を食べてみたいとも思った。全てに興味がある。その興味が恋だと知った。好きなところを十個上げろと言われても十個じゃ言い足りないくらい好きになってしまったのに。漫画家としてじゃなく、岸辺露伴という男が虹村億泰に興味があり、愛しいと感じている。今、間違いなく言えることは億泰を漫画の『いい材料』だとは思っていないということ。
     「……キミはそう思うだろう。けれど、僕は今までに感じた事がないくらい愛しいと思ってるんだよ」
     お待たせしましたと、ウエイターが億泰の前に生クリームたっぷりのパンケーキを乗せた皿を置く。本来ならば目を輝かせるはず。しかし、そこに億泰の笑顔はなかった。
     「ごめん、承太郎さんっ、俺、なんか、急にっ、食欲無くなってきちまって……でも、捨てるの勿体無いよな、持って帰るかなぁー」
     いつもと様子が違う億泰を横目に見遣れば、大きな瞳からぼろぼろと涙を流している。頬に伝う綺麗な涙を拭ったのは承太郎の大きな手。自分が泣かせてしまったのかは分からない。けれど、億泰を慰めている手が自分の手ではないことに悔しさが募る。
     「先生」
     露伴を呼ぶ承太郎の声はいつもと変わらず落ち着いている。しかし、涙を流す億泰に戸惑ってしまい返事は出来なかった。
     「遠回りも悪いとは言わねえが、相手を考えたほうがいいぜ。可愛い相手なら尚更だ。好きなのは先生だけとは限らねえからな」
     やはり空条承太郎は分からない。背中を押されているようにも聞こえるし、またはライバル視されているようにも聞こえる。
     「億泰、ケーキは先生と食べな」
     「ふえぇッ?!ヤダよ、ひでぇよ承太郎さぁんッ!」
     泣きながら訴えるが承太郎は耳を貸さず、露伴に「勘定頼んだぜ、先生」と一言残して、行き交う人混みの中へと溶け込んで行った。
     「先生も帰れよォ……金は、自分で、払えるからぁ……」
     露伴は立ち上がると、億泰のテーブルへと移り、頬に描かれた涙が通った筋を見て眉を顰めた。
     「なんで泣いてるのかがサッパリ分からない。けど僕は、目の前でお前が泣いてるのに放っておくようなことはしたくないんだよ」
     どうしたらいいのか分からず、パンケーキですら億泰を笑顔にさせられないのだから、露伴には尚更な無理だろう。それでも助けを求めるように目線をパンケーキに移す。
     「なあ、食べろよ。案外元気になるかもしれないぜ」
     パンケーキを挟むように並べられたナイフとフォークを手に取り、器用な手先で一口大にカットしてやる。そうして億泰の目の前に差し出した。
     「ほら、美味そうじゃあないか。君の好きなたっぷり生クリームに、苺ソースもかかってる。食べないなら僕が食べるぞ」
     けれど、億泰は見向きもしない。しゃくりを上げて涙を流し続けるだけ。
     泣き続ける女を慰めるなんて面倒なことは避けるのだが、相手がアホの億泰なら話は別だ。
     「ぼ、僕が食っちまって良いのか?君が頼みたくて頼んだんだろう」
     しかし億泰は、泣き止むどころかキッと露伴を睨みつけてきた。けれど、潤んだ瞳で睨んでくる表情は、何故だか切なくて心が痛かった。
     「せんせえの、そういう、急に、優しくしたりするとこ……好きでもない奴には、しないほうがいいぜ」
     ああ、なんだ。そうだったのか。
     承太郎の言葉にイラつき、ざわついていた心は、すとんっと欠けていたピースがハマったかのように落ち着いていた。さっきまでのモヤモヤが消え失せて清々しくなった途端、急に笑いが込み上げてくる。
     「ははっ、なんだよ億泰お前、僕のことが好きだったのか!」
     はっはっはっと笑いが止まらない。そんな露伴に億泰は我慢ならないと、立ち上がりその場を離れようとするが、そんな簡単に逃がしはしない。すかさず億泰の手を掴んだ。
     「最低だぜ!嫌いだバーカッ!離せよ、セクハラ漫画家ァ!」
     「そうか、僕はお前が好きだぜ?僕は好きでもない奴が泣こうが喚こうが構いやしないんだからな」
     どんな馬鹿でも伝わるように『好きだ』と言った。掴んでいる手は拒むことなく固まったまま。それに、顔を真っ赤に染めて信じられないと言った表情を見せられれば、もう逃げることはないだろうと露伴は安心して手を放す。
     「ほら、座れよ。今日からは僕の奢りで食えるんだ。良かったな」
     「せんせ、今、俺のこと好きって言った……?」
     「おい、これ以上公の場で告白するのは勘弁だぜ。あとでいくらでも、……いや、その、もう一度だけ言ってやるから、今はさっさとケーキを食べちまってくれよ」
     「せんせ、俺に貢いでくれんのォ?」
     「うるさいぞ、早く食べろ」
     惚れた女の笑顔は美しい。それは事実だが、億泰に想いを告げた後、改めてその言葉を思い出してしまえば、顔が燃えるように熱くなってきた。それをどうにか誤魔化そうと、億泰にケーキを促していく。
     「せんせぇも食べる?」
     そう言って目の前に出されたのはフォークに差された真っ赤な苺。可愛く頭に生クリームを乗せている。
     「おいおい、ケチな君が好物の苺をくれるなんて、今日は雹でも降るんじゃあないのか」
     「そういうとこほんっと可愛くねえよなぁ。すきな人に好きなモンあげるのにケチとか関係ねえのっ」
     「……まあ、僕の金だしな」
     「先生さっきから金のことばっかだな」
     互いに想いを告げ、好き合っている者同士とは思えない会話だが、それでもふたりは幸せそうに笑っていた。
     
     
     

     




     

     
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