僕が欲しいもの大崩落前から追っていた違法薬物売買グループのリーダーを逮捕した。
重要な証人を大崩落で亡くし、リーダー自身も大崩落の混乱に乗じて名前を変えて顔まで変えて、逮捕に至るまで困難の連続だった。
薬物で多くの人の人生を狂わせたリーダーには、法廷で厳しい罰が下るだろう。
自宅に戻ると兄のダニエルが食事を作って待っていてくれて、
「お疲れさん」
という優しい労いの言葉と一緒に抱き締めてくれた。
それだけで今日までの苦労が報われたような気がする。
「本当に大変だったな、今日は飯食って風呂入って十分に休め」
「うん、ありがとう」
上司からも有難いお褒めの言葉をいただき、特別に一週間の休みをくれた。
だけど兄さんからの言葉の方が、僕にはずっと嬉しい。
「何か欲しいものはないか?欲しいものがあっても時間がなくて買いに行けなかっただろう。俺が買ってやる。何がいい?」
僕の欲しいものは決まっている。
物心ついた頃から大好きだった兄さんが欲しい。
勿論、それを口にする事は許されない。
言ったところで兄さんを困らせるだけだ。
「何もいらない。気持ちだけで十分だよ」
言いながら、僕は泣いていたらしい。
「マーカス、どうしたんだ?」
という兄さんの顔が霞んで見える。
「疲れたんだな。ゆっくり休め」
そう言いながら優しく背中をさすってくれる兄さんに、僕は心の中で詫びた。