「君は釣りが趣味なのか。」
家に魚がたくさん在るからと、日下部の家に来てみればギラギラと光る秋刀魚が陶器の皿に整列させられていた。弁当のついでに貰ったのであろう、コンビニの細い割り箸でそれらをひょいと摘んではアルミホイルを丸く折り敷いたフライパンに乗せていく。魚の焼ける匂いがしている。逐一人を頼んでしてもらうのも面倒なので、捌くのも下ろすのも一人でやると言う、存外マメな男なのかも知れない。趣味というか暇つぶしですよ、と彼は言った。
余計な事を考えなくていい、水面に竿を垂らしてるだけで俺の仕事は終わりです。ただ待っていればいいのが釣りですから。余暇があれば思索の時間も増えるのではという気もしたが、彼がそういうならそうなんだろう。あと地方に居れば距離の都合で任務に回されにくくなるというのも理由らしい。小狡い。
「任務前に景気付けで行くんですよ。」
ジンクスっていうかおまじないみたいなもんですがね、1匹でも釣れたら次の任務で死なずに済むんじゃねえかって思うんです。代わりにボウズだったとしても俺は多分任務に行くんですけどね。
「多分とは?」
「今までボウズだったことが一度も無いんで。」
数年前に釣りを始めてからずっとです。目当ての魚じゃ無くても、必ず何か一匹は掛かる。それを持って帰って唐揚げでも塩焼きにでもして食べるんです。恐らく俺はこの先も釣りに行くんでしょう、ずっと。
「焼けましたよ。」
どちらでも好きな方をどうぞ、
平皿の上の秋刀魚と白く濁った目が合った。
( 俺の代わりに誰かが死ぬだけです、結局。)
黒く焦げた腑のあたりを箸でほぐすと、白くて綺麗な身が湯気を立てている。小骨を避けて口に運ぶ、苦い、臓物の味がした。