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    MousoubousouK

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    七夕の藤トワ
    去年書いた奴をうっかり消してしまったので再掲です。

    #藤トワ

    お星様がそう言ってる夕方に差し掛かっても和らぐ事のない暑さとジメジメした湿気に顔を顰めながら出勤したトワは、エアコンの効いた涼しい空気を想像しながらルーストの扉を開けた瞬間に目に入った薄緑色に足を止めて目を瞬いた。
    薄暗い店内で空調の風にさらさらと揺れている細長い葉をもつそれは笹か。
    その側ではレイとジュンコ達がわいわいと賑やかにテーブルを囲んでいる。
    「あ、トワ」
    トワに気付いたレイが手招きをしてくるので寄っていくと、アラタが数枚の折り紙を差し出してくる。
    「トワも手伝って」
    「何、これ」
    「何って笹飾り作ってるのよ」
    ホナミが手を動かしながら言う言葉に首を傾げる。
    「笹飾り」
    「商店街で用意してたのが1本余ったからってくれたんだよ、折角だからルーストでも七夕祭りやろうと思って」
    と言いながら店の奥から出てきた店長の手にも色紙の束がある。
    「ほら、トワも見本見ながら作って」
    と、レイが渡してきた本には簡単な物から難しそうな物まで色んな飾りの作り方が書いてある。それをぱらぱらと見ながら、つい、アイツこんなの作るの苦手だろうな、と不器用な同居人の顔が浮かぶ。折り紙に苦戦する顔を想像して内心で面白く思いながらレイの隣に腰を下ろす。本の中で目に付いた星を作ってみようと赤と白の折り紙を手に取った。


    「わー!いいじゃない!急いでやった割には良い感じに出来たんじゃない?」
    ジュンコが手をパチパチと叩きながら嬉しそうに声を上げ、ホナミとアラタも楽しそうに笑いながらうんうんと首を振っている。
    「七夕と言えば、後はこれよね」
    レイが長方形の色紙を出してきて全員に配っていく。
    「お客さんにも配って書いて貰いましょ」
    「見られたくない人もいるかも知れないから封筒も一緒に渡してあげてね」
    「はーい」
    「アタシ達も書きましょ」
    3人がきゃあきゃあ言いながら短冊に何か書いていくのを横目に見る。
    「トワも何か書きなさいよ」
    レイが短冊を差し出してくるが、トワは眉を顰めて首を傾げる。
    「書くって何を」
    「そりゃあ七夕なんだからお願い事でしょ」
    「別にない」
    にべもなく首を振るトワにレイが呆れたように息を吐く。
    「別にたいしたことじゃなくて何でも良いから、ほら」
    と手に短冊を押しつけられて、しぶしぶ受け取りながらレイを見上げる。
    「大体七夕で願い事って、誰が叶えるって言うんだ」
    「んもー屁理屈言わないで、おほしさまよ、おーほーしーさーま」
    「おほしさま……」
    胡乱げに目を細めるトワにめんどくさそうに手を払いレイは立ち上がる。
    「もー、何でも良いから書いて、そろそろ開店時間よ」
    「はいはい」
    適当に返事をしながらトワは短冊をポケットに雑に仕舞い立ち上がった。



    夜もすっかりと更け、金曜日の夜のルーストは客が多く賑わっていた。店員から短冊を受け取って書いては吊していくのを横目に見ていたトワはドアベルを鳴らして入ってきた姿に目を瞬いた。
    スーツを脱いでネクタイも外してワイシャツのみの軽装の藤枝がカウンターに腰を下ろす。
    グラスを下げてきたトワがカウンターへやってくると、トワをみて緩く目を細める。
    「藤枝」
    「トワお疲れ」
    「うん。お前も」
    言いながら藤枝の手元を見たトワが眉を寄せる。
    酒が入ったグラスの横に赤い短冊がある。
    「それ」
    「ああ、これか。さっき和泉さんに渡された」
    ペラペラと振ってみせるそれはまだ白紙だ。
    「そういえば七夕だったな、短冊とか、久しぶりだ」
    久しぶり、と言う言葉に首を傾げる。
    「お前も七夕祭りとか参加した事あるのか」
    「小学校では定番じゃないか?笹飾りを作って短冊を笹につるしたり」
    そうか、と思うが、自分自身がどうだったかは良く思い出せない。
    無表情で短冊を見下ろす藤枝を見ながら、
    「願い事とか書いたのか?」
    と聞いてみると、苦笑いが帰ってくる。
    「書いたよ。叶った試しはないけどな」
    「そうか……」
    何を願ったのだろうか。叶わないと知りながら願い事を書いた短冊を笹の葉につるす幼い少年の事を思う。
    黙ってしまったトワに藤枝がふと笑みを浮かべてトワを見る。
    「トワはもう短冊書いたのか?」
    「いや、貰ったけど、何を書いたらいいか分からない」
    ポケットからよれた短冊を取り出して見せ、自嘲するように笑う。
    「願い事とか、今までした事がないし、願い事が叶うとも思った事がない」
    誰かの欲望を叶えてきても、自分自身の願いなど考えた事もなかった。
    恐らく藤枝も同じだろう。そうだな、と酒に口を付けながら小さく頷いたのだが、でも、と言いながらグラスを置いた藤枝がペンを手に取るのでトワは目を瞬いた。
    「今年は叶うような気がするんだ」
    言いながらさらさらと短冊に文字を書いていく、トワからは何を書いているのか見えなかったが、書き終えた藤枝がペンを置いて短冊をトワに渡す。
    読めという事だろうか、と困惑しながら短冊に目を落としたトワはその内容に目を見開く。
    『今夜セックスがしたい』
    「叶うと思うか?」
    しれっとした顔で酒に口を付けながら藤枝が言う。
    「お前……」
    普段ならしないような事に驚いて思わず短冊を人に見られないように手で隠してしまう。
    「どう思う?」
    重ねて聞いてくるので、なんとなくしてやられた気分になって口を尖らせながら
    「叶うんじゃねぇの」
    と言った。
    その言葉に藤枝が眩しい物でも見るようにトワを見上げて笑う。
    「そうか」
    そして首を傾げてトワは?と言う。
    「短冊に書く事ないのか?」
    とペンを差し出してくるので、一瞬考えた後それを手に取る。
    簡潔に、一言だけ。
    「じゃあ、これ」
    藤枝の顔の前に差し出すと、それを見た藤枝が目を見開いた。
    『一晩中ヤる』
    「お前……」
    眉を下げて苦笑いする顔を覗き込む。
    「叶うと思う?」
    トワの言葉に、酒に口を付けながら肩を竦め。
    「たぶんな」
    と言った。
    思わず吹き出しそうになるのを堪えながら、藤枝とトワの短冊を重ねて封筒に入れる。
    「つるしてくる」
    「ああ」
    ついでに店長に早上がりさせて貰おうと考えながら笹の所に行くと、気付いたレイが声をかけてきた。
    「二人とも願い事書いたの?」
    「ああ」
    短冊をくくりつけるトワにレイが目を細める。
    「そ、叶うと良いわね」
    紅白の星の笹飾りの間で揺れる短冊を見上げながら小さく笑って頷く。
    「たぶん叶うって」


    お星さまがそう言ってる
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