【るろ剣】だいきらいなひと【夢】 人は私を小町と呼ぶ。もちろん本名ではないのだけど、いつの間にか定着してしまった。親しみが込められた呼び名だし、嫌なわけではなかったからそのままにしている。
どうして小町なのか。理由は単純。私が蕎麦処で働く小町娘だから。ただ真面目に働いているだけなのに、蕎麦小町なんて呼ばれるようになっていた。率直すぎて素直に喜べないけれど、町に溶け込めているならそれでいい。
「はい、天ざる二ツ、お待ちどおさま」
「ありがとうねェ、小町ちゃん」
私が働く蕎麦処は小さな店で、寡黙な店主、店員も私ともう一人だけだ。もう一人の店員である静さんは初産を控えていて、いまはお休みを取ってもらっている。なのでいまは実質二人でこの店を切り盛りしていた。幸いというかここは大通りではないし、お客さんも気心の知れた常連さんばかりなのでなんとかやれている。私が蕎麦小町ともてはやされた頃はご新規さんもたくさんいたけど、何度も繰り返し通ってくれるのは親父さんの蕎麦にこそ惚れた人だけなのだ。
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