狂い咲く花は風を乱吹く15「どうした、ドゥリーヨダナ」
ヴリーコーダラは冷静にしかし優しく自分に剣を振りかざす相手に話しかけた。
「例え若くともお前の実力なら、俺に一太刀くらい浴びせるだろう…なにを躊躇してる」
「ほざけ!!」
若いドゥリーヨダナはぎりっと歯を食いしばり冷静が欠していた。対してヴリコーダラは槍士のビーマと違い、若干に少々歳を取った外見だった。
「…スヨーダナ」
「っ…」
優しく彼の名を呼ぶとスヨーダナはビクンと何かに耐えるように反応する。動きが一瞬止まったの確認すると、風のようにヴリコーダラはやっと会えた愛する想い人の元に駆けつけるとそのまま両手を広げて抱きしめた。
「!!!は、離せ…!!」
「スヨーダナ…!」
暴れるスヨーダナを抑えるように抱きしめると、ヴリコーダラは話し続けた。
「…もし、本当に、本当に俺を殺す事でお前が解放されるのなら、このまま俺の心臓に剣を貫け」
「!!!」
ヴリコーダラの言葉にスヨーダナは硬直した。
「な…き、気が狂ったか!貴様!!」
「ああ、そうだな。アルターエゴではあるが元はバーサーカーだからな。」
「そういう意味ではないわ!!馬鹿者!!」
スヨーダナは大声で容赦なく怒鳴る。その反応にヴリコーダラは笑った。
「…スヨーダナ、我が罪を許せとは言わぬ。…しかしお前の望まない事を強いる黒幕からお前を解放させてくれ」
「!!」
「今回の特異点の根源を根絶やしにした後、もしお前が望むのなら俺を殺して構わない。俺はそれほどお前の事を愛してる」
「…!なんだそれは、なんだそれは…!なんだその腑抜けた様はビーマセーナ!」
「腑抜けてはいない、俺は覚悟を決めてんだよ、「あの時」お前と愛を誓った時から…俺はすべてを「喰らう(受け止める)」事にした。愛するお前と共にありたいからさ」
「……っ」
スヨーダナはヴリコーダラの言葉に言葉を詰まらせる。
そして、男の胸に顔を疼くめて、スヨーダナは声を殺して啜り泣いた。
愛しい花嫁を慰めるようにヴリコーダラは背中を優しくさする。
「スヨーダナ、お前をこういう風に強いた奴等は誰だ、どこにいる?」
ヴリコーダラの言葉を返そうとしたスヨーダナだったが、
ーー-ーーーーーー「う、うああああああああ”あ”あ”あ”あ”ーーーーーーっ」
腕の中の青年は突如断末魔をあげ、苦しみ出した
「?!スヨーダナ?!!」
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「ドゥリーヨダナ!霊核破損94%、95、96…霊核崩壊確認!修復が間に合いませんッ!!」
「霊子データをバックアップしてッ!!早くッッ!!!」
「ま、間に合いませんっ!98、99…」
DATA LOST
無情の文字がモニターに大きく映された。
完成室は一気に静かになる。
「ドゥリーヨダナ、完全消滅…確認…しました」
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「はぁ…はァ…ッ」
「スヨーダナ、スヨーダナ、なにが…」
ヴリコーダラは苦しむスヨーダナを心配するが、青年は男の腕から出てよろよろと歩き出した
「……、ぁ…ラクシュ、マナー……?……」
「?、ラクシュマナー、って確かお前の娘…?」
ヴリコーダラの問いに答える事なく、スヨーダナは全速で走りだした。
「おい!!!」
想い人の行動にヴリコーダラは止めようとするが、空から突如、光が出現して視界を真っ白にした。
「ぐ!!」
(この、臭い…っ)
「以前の特異点」で嗅いだことのあるその臭いに、ヴリコーダラは腹の底から怒りが盛り上がった。
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「ラクシュマナー!!!」
スヨーダナは愛娘の気配がする場所に向かう。
そこで目にした物に、抑えていた感情が再び壊れたダムの様に水が溢れる。
真紅の大きな水たまりがあり、その中心に娘が倒れていた。
そしてすぐ側にビーマが膝をついて青ざめて、こちらを見ている。
「どけぇええーーーーーーーーーーー!!!!」
スヨーダナは神々から授かったその力でビーマを殴り飛ばした。
そして血まみれの娘を優しく抱きしめる。
「ち、父上…?」
「ラクシュマナー…っ」
「申し訳ございません、父上…敵を、討てませんでした…」
きっと「あの神々」、あるいは「あの男」に唆されビーマを打とうとしたのだろう。
大人しく待機していろと言っておったのに
「申し訳ございません父上、申し訳ございません…最後まで、至らない娘で、本当に、申し訳ございません…」
娘は愛しそうにスヨーダナの手を握ると、その瞳から雫が落ちた。
そして娘は金の粒へとなり、儚く消えてしまった。
「……」
沈黙
腕の中にあった愛しい物が消えて、スヨーダナの心は空っぽになった。
それからふつふつと心の深い底からマグマのような熱く烈しい炎を生まれた。
許せない
お前はまた俺のものを壊すのだな
また奪うのだな
しかしどんなに声をあげても、俺の言葉はお前に届かない
届かない
届かない
手を伸ばしても
届かない
届かなイ
ハハ…ハハハ……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ