The Great インド鯖 Bake Off「おい、誰かおるかー」
「ああ、どうしたのかね」
昼食から数時間後、夕飯の仕込みに取り込んでいたエミヤはドゥリーヨダナの声に答えた。
「おお、エミヤか。わし様、童達とティータイムするゆえ、何か甘味をご所望する」
「ふむ、甘味か…残念ながら作り置きがないから、今から作る事になるが…少々待っていただけるかね?」
そういうとドゥリーヨダナはすぐ側にいたナーサリー、ジャック、ボヤジャー、太歳星君は「待つよー!」と元気良くエミヤに言う。
エミヤは仕込みを終えるとさっさと菓子作成を始めた。その様子を興味深そうに覗くドゥリーヨダナに気付き、エミヤは声をかけた。
「君もやってみるかね?」
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そろそろ夕飯の用意を始めなくてはいけなく、ビーマは急々と厨房へと向かった。
カルデアに召喚されて、自慢の弟(達)に再会し、新たな仲間や友を作り、趣味の料理もできて、人理の為に槍を振るう、そんな第二の生を謳歌していたビーマ。
食堂に入ると目の前の光景が信じられなかった。
あの憎き宿敵、ドゥリーヨダナが厨房に立っていた。
まるで自分のお気に入りの場所を土足踏み躙った気分で、苛つき舞う。
「ドゥリーヨダナ!!テメェ、何してやがるッ!!」
まるで今から宿敵を討つ勢いでビーマはドゥリーヨダナの方へと向かった。
「待て、落ち着くんだビーマ」
「!」
ビーマを止めたのは厨房仲間のエミヤだった。
「ドゥリーヨダナは私の菓子作りの手伝いをしてくれているのだ。彼は何もしていない。」
「エミヤよ、構わん。」
厨房から出て、ドゥリーヨダナはエミヤの所へ向かう。
「わし様が興味本位で頼んだのだ。生前にした事がないからな、新しい事を試してみたくなった、ただそれだけだ」
「ただそれだけ…?」
ビーマの声に苛立ちを感じる。その静かな怒りに敏感に感じたドゥリーヨダナ一瞬は狼狽えると、はぁと溜息を吐いた。
「……そんなに嫌かよ」
諦めとどこか悲しげな小声を零すと、男は背中を見せてその場から離れた。
「良くないわ、風の王子様」
ビーマの膝よりも背の低い少女、ナーサリーライムは叱る。
「ここは皆使ってもいい場所なのだから、独り占めはダメよ」
その言葉に少し固まり、先ほどの自分の行動を思い返す。頭に血が登っていた所為か、自分の言動が少し霧かかっている。
仕方がないのだ
生前、あの男は自分達、兄弟に散々酷い事をしたのだ
だから自分の平穏をまた壊しにきたかと、ついカッとしてしまった。
あいつの日頃の行いの所為だ。
エミヤは一つ、菓子を小皿に添えて、ビーマに見せた。
「これはドウリーヨダナが作った焼き菓子の一つだ」
とても綺麗で可愛いらしい焼き菓子だった。
ティーパーティーに参加する客人達(子供鯖)に合わせてパステル色のファンシーなデザインされ、苺ジャムが入ったバニラカップケーキの上にはピンクのストロベリーアイシング、そして精巧な飴細工で作られた花とホワイトチョコに金色が塗った王冠。
これを全部あの男が作ったのか?と考えが過ぎったが、頭を振って霧散させた。
きっとエミヤが殆ど作業をし奴は偉そうに大声で指示をしていただけであろう。
あんな自己中心我儘性悪悪徳王子、きっと厨房に立って何か仕掛けたかもしれない。何か盗んだのかもしれない。何か壊したのか、穢したのか、
また毒を盛ったのか
ビーマはその焼き菓子に触れる事すらせず、ただただ睨むだけだった。
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そんなビーマの拒絶を配慮して、ビーマが周回でいない間はドゥリーヨダナに焼き菓子の手伝いをしようとエミヤは頼んだ。彼の他に子供サーヴァントも頼んだお陰か、ドゥリーヨダナはそれを了承した。
ドゥリーヨダナは聖杯の情報から抜き取ったのか、器用な手付きで飴細工、ケーキの造形、チョコレートのテンパリングなど熟知していた。
そして一度、「ある事」にハマるとそれを完璧にするまで磨くと言う職人魂がこの古代インドの王子にはあったらしい。
彼の菓子は子供鯖達が望む形へと器用に創った。アリスと不思議の国のテーマであったり、宇宙と宇宙船のテーマなど、それはまるで芸術だった
菓子作りをするヨダナを隣にエミヤは思った。
(さすが、「技」のドゥリーヨダナ…というべきかな)
戦う為に呼ばれた英霊である自分達、戦い以外に趣味や生前は成し遂げなかった事を試すことは喜ばしいと思う。だからエミヤはドゥリーヨダナのその真剣で真っ直ぐと「創造」する姿を見て、とても喜ばしかった。それは彼以外の厨房組メンバー達も喜んだ。…彼を除いて
「ビーマ…」
エミヤは厨房から離れた壁際で面白くなさそうに佇んでいる大男に話しかける。
「なぁエミヤ、俺はアンタ達を気に言ってるし、信用してるんだ、同じ厨房組として嬉しいし、色んな英霊達に食事を提供できるのは誇りに思う…だが「あいつ」があそこにいる事が許せねぇ」
あいつは敵だ
俺達、家族を苦しめた元凶だ
「だが今我々は「同胞」だ。一人の主人の下に集いし英霊だ。
君の気持ちは分からないでもない、しかしこの施設は誰でも使える公の場だ。
そして彼はちゃんと使った後はとても丁寧に使っているだろう?」
菓子作りをすればその後の片付けを任されるかと思ったが、意外にドゥリーヨダナはキチンと綺麗に片付けていたのだった。
エミヤの正論にビーマは反論できなかった。しかし自分の想いも蓋できず、物申そうとしたその時に
「はぁ…、そんなに嫌なのであればもうここに来ん」
いつの間にかヨダナが現れ、溜息を吐いた。
「気配を消して来るなんざ、いい度胸だな殺すぞトンチキ」
「お前、馬鹿か。気配なんて消しておらん、そんな必要ないだろうが」
純粋な怒気を表すビーマにドゥリーヨダナは溜息混じりの煽るような返答をする。
「…まぁ、そこまで面倒な事になるのならば、もうここに来んから安心しろ」
「ドゥリーヨダナ…!」
ヨダナの言葉にエミヤは口を挟もうするが、ヨダナはそれを制した
「エミヤ、お主と厨房組には感謝している。ただでさ多忙だと言うのにわし様の我儘を聴いてくれたのだからな。…本当に、礼を言う」
身内にしか見せない笑顔をエミヤに向けるドゥリーヨダナにビーマは怒りが込み上がる。そんなこめかみを深くする宿敵を見てヨダナは今日何度目かのため息をついた。
生前散々苦しめた目の前の宿敵が自分の事を憎むのは当たり前だし仕方がないと思っている。そもそも自分だって嫌いだ。
しかし、
ドゥリーヨダナは別にビーマの全てを否定してるという訳ではなかった。拒絶はするが否定はしていなかったのだ。
ビーマの強さ、美しさ、かっこよさ、正しさ、彼が他人に向ける優しさをヨダナは知っている。自分にはないものを持っているビーマをそれなりに認めているし…実は生前から憧れていた。
これが本物の英雄というもの、御伽噺に出て来るような英雄が身近にいる。
夢のような現実、どんなに手を伸ばしても手に入らない。
それは決して手を取る事ができないと、ドゥリーヨダナはその現実を「今」叩きつけられた。
自分の中で何かがひび割れる音が聞こえて、ドゥリーヨダナは瞳を伏せた。
「これは戦いで決着をつけるべきだワン」
「!?」
「キャット先輩?!」
厨房組の一人(一匹?)、タマモキャットが重力に逆らって天井からひょっこりと頭を出す。
「Newbie達よ、戦士なら戦士ならWarriorらしく、料理人ならChefらしく、お互い競い合い勝負するのだBoys!」
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「さああああーーーー始まりましたーーーーっ!第4回インド系サーヴァントの食戟ィぃぃ!司会をするのはこの私、レオナルド・ダヴィンチだぁ!!」
おおおおおおおお!
いつの間に食堂に集まった英霊達。
「…なぁ、第4回って?」
「ビーマさん達がカルデアに召喚される前にアルジュナとカルナのカレー対決がありました!」
「青チームにいるのは!カルデア厨房組の期待の星!風神の子、パンダヴァが五兄弟の次男、力の英雄、ビーマだあああああ!」
おおおおおお!
眩しいスポットライトがビーマに当たる。
「兄ちゃん、頑張れー!」
「頑張れー…」
ビーマの弟達?のアルジュナとアルジュナオルタが兄を応援する。
「ビーマ!頑張れー!!」
「今回は麻婆豆腐ではなく菓子というのが残念だが、ふむ、偉大なるシェフよ、武運を祈ろう」
そしてその隣には友達の坂田金時、そしてビーマの作る激辛麻婆豆腐が好きな言峰神父が応援の席にいた。
「赤チームにいるのは!どこからともなく現れた謎のパティシエD!百人の弟と一人の妹を持つお兄ちゃん、LittleGirlハートを持つ小物ヴィラン(貴様、良くもわし様に愚弄したな!By謎のパティシエD)!技のドゥリーヨダナだぁーーー!」
おおおおおおおおおおお
「おじ様頑張ってー♪」
「おじさんガンバー」
「頑張れー!」
子供サーヴァントのナーサリーライム、ジャンヌダルクオルタサンタリリィ、ジャック、ボヤジャーとが応援する。
「おいー!よだな、頑張っとーせ!!」
「ヨダナさん、ビーマさん頑張ってくださいー!」
酒飲み&ギャンブル関係で世話になってる岡田以蔵とその友人達、坂本龍馬とお竜も応援していた。
「旦那ぁああーーーー!(500db)」
「ふ、お前は例え天が嘲笑おうとも地に這いつくばりながら汚泥を啜ろうとも返り咲くような男だ、ドゥリーヨダナ(訳:全力応援してますので、最後まで頑張ってくださいね♡)」
「カルナさん、メッっす!メっ!それ褒め言葉でもなんでもないっす!」
同じボックスでヨダナにもっとも近い場所でカウラヴァのアシュバッターマンとカルナ、そしてカルナの親しい友人のガネーシャもいた。
「………」
カウラヴァの二人はともかく、生前に自分達と縁がなかったサーヴァント達が己の宿敵を応援していて、ビーマは密かに不満だった。
「…またお前は無垢な奴らを惑わして…彼奴らがお前の本性を知ったらどうなるんかな」
「……、はぁ…」
「さぁ各者、応援もたくさん貰ってそろそろ勝負をスタートするよ!
この勝負は3人の審判のポイントの合計で勝敗は決まります。マリー・アントワネット、紅閻魔、そして我らが新所長、ゴルドルフ・ムジークだよ」
「みんな〜頑張ってくださいましね♡Viva la France~」
「各者方々、ご武運を祈るでチ」
「…コホン、あー宜しく頼む」
おおおおと英霊とカルデアの職員達は完成と拍手が賑やかになる。
「さて、今回のテーマは「ファンタシー・ティータイム」だ!!各者の解釈でこのテーマに一時間以内にチャレンジしてくれたまえ!」
試合のスタートゴングが鳴ると、ビーマは材料を取りに走り、ドゥリーヨダナはまずテーブルにペンと紙でなにかメモを書き出した。
「はん、なにちんたらしてんだ、トンチキ王子!」
わざと挑戦者に聞こえるように小馬鹿にする言葉を言うとビーマは作業にうつった。
その様子を観客席から見ていたカルナはビーマのその悪態を生前、自分が御者の子の身分でありながらもアルジュナに挑戦しようとした時にビーマに笑われた時を思い出した。
「相変わらずのようだな、ビーマよ。………その傲慢さ、我が友に打ち砕けられるがいい」
「さぁ試合はもう10分を切りました!スタートが遅かったドゥリーヨダナは材料を全て揃えたようで、これから本格的に作業が始まるようです。ビーマはもうすでに何品かが後もう少しで終わるようだ」
ビーマはものすごい勢いで材料を混ぜ、オーブンに何品か入れる。もう後は仕上げを用意するだけだ。
「もう勝負は決まったな、ドゥリーヨダナ!」
そんなドゥリーヨダナは下拵えした材料を丁寧に並べ整理したり、全てを慎重に綺麗に作業をしていた。今焼くべきものを全てオーブンに入れると、今度は先ほど作った熱く熱した飴を取り出しそれをまるでガラス細工のように綺麗に細かく加工し始めた。
「おっと?これはすごい!ここでドゥリーヨダナ氏は巨匠たる職人技で美しいシュガーデコレーションを作り始めたぞ」
「あ?!」
ビーマはヨダナの方を見ると、こちらかでも見える美しく輝かしい飴細工が作られていた。それらを並べて、時間通りに焼き上がった品をオーブンから取り出すと、熱したフルーツリキュールやバタークリームでそれらを包み込んだ。
飴細工を熱から安全な場所に移動すると、今度は溶かした3色のチョコレートをだした。
「これはダーク、ホワイト、そしてルビーチョコレートのようだ。テンパリングするのかな?」
ルビーチョコレートに糖分が結晶化することで、まるで小さな宝石が散りばめられたようなエフェクトをだしたシュガーブルームを起こし、それを容器に入れ出し固め、美しい桃色の宝石のような殻を作る。そしてその中にラズベリームースとカスタークリームなどを入れて再びチョコレートでそれを閉じた。そのような作業を他のチョコレートでもしたり、ベーキングシートの上にチョコレートを流してデコレーションを作る。
ドゥリーヨダナ側に作られる美しく、技術力が強い品々に、ビーマは焦りを覚えた。
「45分経ったよ!」
ダヴィンチの言葉に追い詰められる。
ドゥリーヨダナは計画通りに時間内に全て終わりそうだと安堵を覚え、ふぅとビーマの方を見た。
「……なにを、…やってるんだ?…アイツは」
もうビーマの方は品々が完成しているというのに、なにやらまた一品を作ろうと先ほどまでの余裕は失くし、慌てた様子で溶かしたチョコレートを素手で練り始めている。歪な形になったチョコレートを必死に整えようとした。
「あーくそ…!指紋が着いちまう…いや待てよ、なんで上手く固まらねぇんだ?…ああ、そうか手の体温か!」
すると風神の力で冷風を起こしそれを己の手に包める。
「くっ…!!!冷てぇ…っでもこれなら…!」
ーーーーーーーーーーーー「良い加減にしろ、この大馬鹿者がッ!!!!」
宿敵の怒鳴り声が食堂に響いた。
ずんずんとドゥリーヨダナは物凄い怒気を帯びて、ビーマの手首を強く掴む。凄まじいその圧にビーマは固まった。
「飽きた。わし様もう飽きたから、試合放棄する。もう厨房には立たん、もう二度とだ。これで良いだろう、ダヴィンチよ」
「あ、ああ…えっと、試合放棄により。勝負はビーマの勝ち…!」
ざわざわと騒めく食堂を後にして、ビーマの手を引っ張ってドゥリーヨダナは廊下へとでる。
「て、…てめぇなにを勝手に!なに勝手に試合放棄してんだ!逃げんじゃねぇぞ!」
「黙れ!この、クシャトリヤ(戦士)の恥晒しがッ!!!」ーーーー
ビーマは黙った、いつもなら怒鳴り返せるのに何故かこの圧力、兄を思い出した。
「貴様は確かにここでは料理人でもクシャトリヤであろう!!趣味を満喫するのは構わんが、第一にマスターを守り使える戦士であろうがッ!!英雄ビーマセーナがこんな馬鹿な事で身を削るとは何事かッ!!!戦士としての自覚はどうしたッ?!!」
「ば…馬鹿な事じゃ」
「そんなに自分の場所にわし様を入れたくないのであれば、もう二度と来んわ!!」
「あ…」
言う事を言った後、ビーマの腕を強く引っ張ってドゥリーヨダナはビーマを医療室へと無理やり連れて行くと、そこに置いて行った。
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医神に処置をしてもらい、幸い軽い冷傷で包帯を巻かれると、ビーマは食堂へと戻った。試合で残した片付けをしなければと思ったが、もうすでに食堂は綺麗に片付いていた。
特にドゥリーヨダナの方は、どうやら本人が戻ってカウラヴァの友達と共に綺麗に片付けをし、作りかけではあったが、ほとんど完成していたそれを子供サーヴァント達とティータイムを好むサーヴァント(主にマリーとフランス系サーヴァント)達に分け与えたという。
そしてビーマの方は実は厨房組の者達が既に片付けをしてくれていた。なにもやる事がなくて唖然としていると、紅閻魔がビーマの方へと向かった。
「ビーマ…料理人として厳しい事を言うでち」
紅閻魔はビーマの方をまっすぐと奥を見透かすように見ていた。
「相変わらず作る量は多く、そして美味しいでチ。バナナパウンドケーキ、アップルパイ、シュークリーム、腹を満たす素晴らしい出来でチた。」
「あ、ああ、ありがとうな」
「しかし、今回のテーマは「ファンタシー・ティータイム」でチ。ティータイムに出すメニューではないし、「ファンタシー」ではないチね」
「…う」
「それに比べてドゥリーヨダナはファンタシーはもちろん、ティータイム用に大盛りではなかったでチ」
「…」
「前にも言った筈でチが、料理を提供する時はちゃんと相手の気持ちを理解するのでチよ」
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あれから数日間、ドゥリーヨダナは厨房に立たなく、対してビーマはいつも通りに厨房に立っていた。
「……」
あれからドゥリーヨダナは食堂に来なくなったし、ビーマを避けているのか、会う回数も前よりもかなり少なくなった。
生前殺し合った宿敵と顔を見合わせない事をビーマは望んでいたのだが、謎の虚無感を感じていた。どこか心在らずのビーマは笑顔を貼り付けて今日も料理を提供する。
「風神様、こんにちわ」
ナーサリーライムと子供サーヴァント達がビーマに話しかけてきた。
「ああ、こんにちわ、注文はどうする?」
貼り付けた笑顔を出すと、躊躇するようにナーサリーライムは言葉を紡いだ。
「風神様はもうお花のおじ様にお菓子を作らせてくれないのかしら?」
お花のおじ様とは…とビーマは思考するまでもなく、宿敵の顔がチラついた。
「…それは……もうアイツはしないって言ってたからな。なにか作って欲しいなら作るぜ!」
「えー、でも私達、おじサンのお菓子食べたいー」
「ジャック!」
「…………」
困った。
そもそもドゥリーヨダナは子供達為に菓子作りを始めた。
それを自分の想いでそれをこの子達から奪ったのだ。
ドゥリーヨダナが作ったあんな技術の高い菓子、今の自分ではきっと時間がかかるであろう。
「…それじゃ風神様とお花のおじ様一緒にお菓子を作れば良いと思うのだわ」
「え」
「どうして一緒に作らないの?お花のおじサン嫌い?」
「……俺は」
嫌いと言えば嫌いだし、憎いといえば憎い
生前に奴の犯した罪を許さない
しかし
>>>
ドンドン!ドンドン!ーーーーーーーーーガチャああああ
「おいコラトンチキ王子、ツラ貸せ!」
「もう嫌だこの森ゴリラ!人の部屋に勝手に入るの止めてくれない?!」
部屋のドアをぶっ壊したビーマにドゥリーヨダナは後ろに下がった。
「…俺は、…俺はお前が許さねぇ。俺や家族にした事全部、絶対に許さねぇ。」
まぁそうだなとドゥリーヨダナは思う。
たとえ第二生と言われたカルデアでも生前からの関係は変わらない。
「だが、今俺たちは同じマスターに仕えている。なぁドゥリーヨダナ、ナーサリーライム達の為に菓子作りの手伝ってくれるk…」
「……無理はせずとも良いぞ、ビーマセーナ」
ドゥリーヨダナは言葉を紡いだ。
それはどこか愛しむような、今までビーマが見た事がない表情だった。
「お前のその気持ちは正しい。わし様への憎悪は正しいのだ。だからそれを覆い隠すな」
「……ドゥ」
「…はぁ、勝者くせに、何故お前は俯く?…本当に敗者である我らに不敬である。
もうちっと顔を上げろ、このクソ森ゴリラッ!!」
ぐいっと大人しかったドゥリーヨダナはビーマの胸ぐらを掴んだ。
「このドゥリーヨダナに、カウラヴァに勝てたのであろう!!俺達の屍を踏み潰したのに、なんだその態度は!!!それでも大英雄か!!」