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    tokinoura488

    @tokinoura488

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    こちらではゼルダの伝説ブレスオブザワイルドのリンク×ゼルダ(リンゼル)小説を書いております。
    便宜上裏垢を使用しているので表はこちらです。→https://twitter.com/kukukuroroooo

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    tokinoura488

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    現在、編集作業中のリンゼル本に掲載予定で書いた【姫と騎士の百年・試作薬の記憶】の本に掲載しなかった没作です。どうしても気になる部分というか、ストーリー展開自体に納得がいかなかったものの為、下記の点に留意して読んで頂ければうれしいです(´·ω·`) モヤッとしたら止めてね

    ●ジェンダーレスへの気遣い

    pixivに同作のリンゼル本に掲載予定のサンプルをアップしているので、比べてみてくださいませ。

    ##リンゼル

    リンゼル本未掲載の没作【試作薬の記憶】姫と騎士の百年【試作薬の記憶】


    姫と騎士の百年【試作薬の記憶】 一聞いて八を知ればよし


     インパから名指しでプルアを訪ねるよう伝えられたのは、姫様が執務のため護衛の任を解かれている午後のことだった。
     彼女の部屋はそこかしこに書きかけの紙が散らばり、飲みかけのカップが置いてある机にはいくつもの底の輪型が残っている。お世辞にも綺麗な部屋とは言えないが、プルアにはすべて正しい位置にあるらしい。リンクは床にも散らばった紙を踏まぬように留意しつつ、声が届くところまで近づいた。
     プルアはリンクの接近など気にも止めぬように、椅子に腰掛けつつ机に踵を引っかけて書き物をしている。声を掛けようと息を吸い込んだところで、ぬっと手が伸びてきた。
    「これが処方箋ですか? 医務官殿の元に赴き、姫様用に作られた試作薬を受け取ってくればいいのですね」
    「そ」
     こちらも見ずにそう言ったプルアの手から紙片を受け取った。難しい言葉が並んでいる。リンクは見てはいけないと思いながらもその羅列された文字を追っていく。

     重怠さ、鈍痛、酷い眠気――。

     視線を感じて顔を紙片から上げると、いたずらっ子の顔をしたプルアが目をいやらしく細めてリンクを見ていたた。リンクが思わず後退ると、その目は面白げにふふんと笑った。
    「その顔、なんの薬か知りたいって顔」
    「してません」
    「気付いてないんだ……。ま、教えておいてもいいかな。どうせあんた、いっつも姫様と一緒なんだからきっと困る……ううん心配する時が来ると思うから」
     さっきまでの悪人顔がするりと生真面目なそれに切り替わる。いつ見てもこの豹変ぶりには舌を巻く。どういった精神構造なのだろう。やはり自我を表現することが億劫になり、心のなかでざわめく感情を表情筋に伝える術を忘れてしまった自分とは正反対の人物なのだ。
    「これはね、姫様だけに限らないんだけど、ある症状のための薬なの」
     かしこまった声音につられ、リンクも神妙な顔で聞き入る。確かインパの話だと試作薬という話だった。一般にまだ出回っていない薬。それなのに姫様だけでなく、幅広い人々に有用な薬というのはどんなものなのか。
     リンクには想像もつかなかった。
    「……コホン」
     プルアがわざとらしく咳払いをする。
    「女の人特有の症状のための薬……、あんた女の人が月に一度数日お休みすることくらい知ってるでしょ?」
    「知識としては」
    「それは人によって違うの。薬湯とか、お腹を温めるとか、対処療法は昔からあるけれど根本的な薬はない。今回の試作薬は姫様が自らあたしを介して開発を依頼された薬なの」
    「はぁ……」
    「わかってないよーね! つまり、女は月に一度すんごくしんどいのっ! 痛いのっ! 分かる?」
     ものすごい剣幕で捲し立てられ、リンクはうんうんと必死に首を縦に振った。ふっと息を吐くと、プルアは勢いで浮き上がっていた腰を座面にドンと落とした。
    「姫様はね、毎月苦しんでる民を救おうとされているの。自らが実験体となってね」
    「実験体? では……これは姫様が初めて」
    「そ、初めて使うの」
     リンクは思わず処方箋を握り締めた。プルアがコラコラという目でリンクの紙を握り締めた指を見ていたが、止めようとはしなかった。すでに医務官は試作薬を生成済みであり、プルアもまたきちんとしたデータは手元にあるのだ。そして、リンクがいま感じているであろう心配や疑念が手に取るように分かるからだ。
    「ま、大丈夫よ。だいたい症状を緩和させるタイプの薬だし、いままで民間療法で使われていたものをもっと科学的に分析したデータを使ってるんだから」
     それでもリンクは眉間に入った力を緩めることができなかった。
    「ふーっ……。そんなに心配?」
    「心配しない騎士はいません」
    「騎士だから?」
    「……いえ、姫様をお護りするのが俺の役目だからです」
    「ふーん。そんな素直じゃないなら、大事なこと教えなーい」
     無表情のリンクのこめかみがピクンと動く。頭のなかに様々な情景が浮かんでくる。薬の誤用で青ざめる姫の顔色、リンクの腕のなかで苦しげな姫様。浮かんだ妄想をリンクは慌てて振り払った。
    「だ、大事なこと……とは」
    「教えないって言ったでしょ? 何? 聞きたいの?」
     コクンと素直に頷けば、プルアがふっと頬を緩めた。
    「あんたが姫様が心配なのはよーくわかってる。うそうそ、特に大事なことなんてないわ。ただ、効くか効かないかだけよ」
     プルアの言葉にリンクはほっと安堵の息を吐いた。
    「逆に姫様の傍にいるあんたに頼みたいのは、姫様の変化を逐次報告して欲しいの」
    「薬を服用している時、ということですか」
    「そう。時々、姫様の側仕えを外される時があったでしょう?」
     確かに月に数日、新しい遺物の発見情報があっても招集が掛からない場合があった。公務なのだろうと疑問にも思っていなかった。返事をしないリンクの思考を読んだように、プルアがうんうんと頷いた。
    「やっぱり気付いてなかったか。ま、仕方ないわよね」


    「具合が悪くなったら医務官がちゃんと見てくれるし大丈夫よ。ただね、革新的な試験薬だから、体表面的な診察ではわからないこともあるから、別の方面からもいろいろと確認が必要になることだけは言っておく」
    「体表面ではない別の方面とはいったいどこを差すものですか」
     今度の質問をプルアはからかわなかった。ただまっすぐにリンクを見て、ゆっくりと息をして、それから告げた。
    「子を授かる場所を確認してもらう必要がある」
     息を飲む。
    「男と女の違いはどこ? 子を産むか産まないか。そこに尽きる。つまり、この試薬が治したいのは女性だけが持つ器官にまつわる病なの」
     なんと声をあげれば正解なのかリンクには分からない。母は早くに亡くなり、姉妹がいる訳でもなく、女性というものに関わってこなかった。端からリンクを好色な眼差しで見る者はあったが、リンクには一片の興味もなく関わる云々以前の存在だった。
     だからインパやプルアのような同僚以外で、女性というものにほとんど接触してこなかった。なにもかも姫様が初めてだった。体に触れ、髪の美しさに息を飲み、視線を感じてもどうすればいいわからなくなる。出会う者の内、半数が女性だというのに、自分が唯一気に掛かるのはハイラル王女ゼルダ、その人だけだった。
     それが自分の主だからなのか、このハイラルを救いし自分の対となる姫巫女だからなのか、はたまたそれ以外の理由なのか……まだ答えは出ていない。それでもわかるのは、自分の命に代えても護りたい、護らねばならない人であり、ほんの少しの苦しみさえすべて取り除いて差し上げたいと思ってしまう――ということだった。
     姫様も感じているだろう苦しみや痛みを考えていると、ふっとプルアの言葉が脳裏をよぎった。

    『子を授かる場所を確認してもらう必要がある』

     ぞわりと悪寒が走った。自分だって医者に掛かったことがある。当然、姫様もとプルアは言った。そこにある真実にリンクは初めて焦点が合った。
    「医務官は……」
     なんと聞けばいい?
     意味を悟られて不敬と断罪されたら、いやそれよりも真実をまず――葛藤するリンクの心など知らぬと、すでに軽妙な顔つきでプルアが肘ついた手の甲に顎を乗せて答えた。
    「男よ。あんたも知ってるでしょ? 騎士は定期検診あるでしょ」
     ガンと頭をイシロックで叩かれた気分だった。リンクの頭を打ったイシロックは足を生やして逃げ回る。この真実から逃げ出せればよかったのに。腹の底で赤い火が起こった。
     いけないことだ。
     彼らも仕事なのだ。
     たくさんの人々が医務官の手によって助けられている。
     わかっている常識。
     それでも、腹の底から熱く澱んだ何かが生み出されてくるのを抑えようがなかった。これほどまでに自分は浅ましい人間だったのかと、情けなさにうなだれる自分と許されないと叫ぶ自分が混在して、初めてリンクの顔が歪んだ。
    「……」
     じっとプルアがそれを見ていたが、リンクは自分のなかの乱れ狂う感情を整理するのに時間を要した。
    「そんな怖い顔しないの」
     ようやくリンクが深呼吸したのを合図に、プルアが呆れた声を出した。
    「してません」
     やれやれと肩をすくめ、プルアが立ち上がった。
    「じゃあさ、あんたが薬がちゃんと効いてるか、確認する?」
    「え?」
    「姫様の御御足を開いて、女の人の大切な器官を痛めないように、確認する?」
     プルアの言葉を理解するのに時間は掛からなかった。
    「なっっっっっ!!」
     かぁぁっと体中の血が顔に集まってくる。血管を血が流れる音が耳の奥でうるさい。慌てて、何もない空間を手で払う。そこには具体的に想像してしまった姫様の白い太股とめくりあがった巫女服の裾と、上気した頬があった。

     なんで、その服っっ。

     消そうにも頭のなかの画像は鮮明になるばかりで、いくら手を振ったところで消えてはくれない。顔は熱くなるばかりで、リンクは肘で顔面を覆った。
    「じゃ、いってらっしゃい」
     ドンと背中を押され、あれよあれよという間に部屋を出され、リンクは午後の心地よい風の吹く廊下に立っていたのだった。

     *……*……*



    ――――――リンク視点に変更――――――
     また奴が来た。
    「今の時間、医務局は休みだし、残念だが医務官は不在だ」
     無言で押し通ろうとするなど、いくら医務官と懇意だからと言ってもオレは許さない。
    「取りに来ることは連絡済みです」
    「オレには伝わってない」
     確かに医務官から預かっている小箱がある。何も言わずに渡してくれとも伝言されている。医務官はこの女顔の男にかくも甘いのが気に入らなかった。
     オレよりも十は年下だというのに、あのゼルダ様付きの護衛に任命されている。ゼルダ様に「私のリンクが申し訳ありません」と口にして頂けるなど、羨ましいにもほどがある。これではまるでゼルダ様とこの男が一心同体のようではないか。
     確かにその価値がこの男にはあることは認める。伝説の剣を抜き、まだ年端もいかぬ頃から剣の才覚を現した実力。勇者と呼ばれる男とオレの、力量と信頼度の差は明らかだ。
     だからオレがしていることは無駄な行為だという自覚はある。ただ、この澄ました顔が気に入らないだけだ。
    「何用か今、ここで列挙したらどうか」
    「ここで伝えずにせずに済む為の伝言だったので」
     どうにもこうにも理由を伝える気はないらしい。
    「言えば済むことだ」
    「……」
    「まさか、ゼルダ姫に何かあったのではないだろうなっ」
     言い淀む勇者に憤りを感じ、わざと声を荒げた。勇者はどう反応するのか。そんなことはないと怒りを露わにするか、それとも冷静な顔を崩さず否定するか。まぁどちらかだろうと先手の口火を切ろうとした時、変化した勇者の表情に声を失った。

     なんなんだ……その顔は!

     勇者の顔はにわかに赤く染まっていた。マズイと思ったのか、すぐにまだ赤みの残る頬を手の甲で覆うようにして横を向いた。
    「ゼルダ様が……俺のためにと所望されています。渡して頂けますか」
     急に下手に出る。オレは半ば呆然として準備されていた小箱ごと勇者に押しつけた。軽く会釈し、まるで何もなかったかのように無表情に戻った顔がドアを出て行く。
     無才の姫と呼ばれ、冷ややかな目に晒されることも多いゼルダ様。その御身を支えたいと思うのは目の前の勇者だけではない。このオレだって。だが到底届きはしないのだと思い知らされる。あの小箱に何が入っているのか、どういう経緯でゼルダ様が依頼されたのかも分からない。あの鉄仮面を赤く染めるなど……何があったか知りたくもない。
     ただひとつわかるのは――。
    「くっそっ! リンクめ、羨ましいぞっ」
    ――――――――――――





     *……*……*

     すでに夕刻の光が差し込み始めた石の廊下をリンクは姫の部屋へと歩いていた。手には渡しそびれた処方箋と小さな紙袋。中にはプルアと医務官とで試作した薬が入っている。

    『姫様はね、毎月苦しんでる民を救おうとされているの。自らが実験体となってね』

     プルアの言葉が耳に蘇る。リンクは丈夫で、多少の怪我は放置しても治るほどだった。痛みに強いという自負がいまはとても不要のもののように思える。痛みに強い分、痛みを感じているひとの気持ちが理解できないのではないか、それは姫様が女神や精霊の声を聞けずに苦しんでいるのに似ていると思った。
     こんな小さな迷いと一緒にされては不敬だろうと思う反面、自分にも姫と同じ感覚があったことがうれしくも思えた。
    「……医務官はたしかお年だと言っていた」
     プルアが教えてくれた医務官の人となりを思い出した。思慮深い紳士で医学への想いが強い研究熱心な医師。まだ火照る頬にようやく冷えた手の甲を押し当てながら、リンクは仕方ないのだとようやく思えた。
     姫様は神聖な方だ。みだりに触れてはならない方。それでも女神でも精霊でもない。地に足を付き、歩き、学び、息をしている人なのだ。だから体を治療したり診察したりすることは必要なのだ。そしてその役目を自分がかわることはできない。魔物から命を護ることはできても、病から姫を護ることはできないのだから。
     落ち着いてくるとふっとあの妙にハイテンションな顔を思い出された。さっき、不在の医務官の代わりに薬袋を手渡してくれた助手の男の顔だ。
     リンクは急にその男の存在が気になり始めた。
     年はいくつくらいだった?
     助手になって何年だ?
     助手が医務官になるにはどんな手順を踏むのか、それはいったいどのくらいの期間なのか……。

     リンクは青くなった。足は無意識に止まっていた。医務官はひとり。初老の名医。城にはかならず医務官が必要となる。助手は彼ひとりだったように思う。だとしたら数年も経てばあの助手は医務官になるだろう。その時、姫様もまだうら若き美しき姫のままであったとしたら……。
     自然と歩き出した足は重く、想像したくない――いや、してはいけない絵面を頭のなかで真っ黒に塗りつぶす。
     彼を医務官にしないよう働きかける権限もなければ、道理もない。あの目は姫様をどんな風に見ていたのだろう。

     考えたくない。

     それがいまリンクにできる精一杯の答えだった。
     必死に有象無象の思考から脱した時、リンクの体は姫の部屋まで来てしまっていた。通い慣れた道。思案の海に意識が沈んでいようとも、足が勝手に運んできてくれたらしい。
     ノックの音に心地よい声が入室の許可を下さる。リンクは恭しく開く前の扉に一礼しノブを握った。半分ほど開けば、入り込んだ飴色の夕刻の風に若草色のカーテンがなびいている。その前で正装姿の姫が手招いていた。
     それだけでささくれだった気持ちが凪ぐのがわかった。この方の傍にいるだけで、自分の存在意義が示されているような気分になる。どんな好奇の目も異端の眼差しも、暖かな森の色に見つめられればそれだけで心の海は静かな波を届けてくれた。
     呼ばれるままに姫に近づき、今度は深々と頭を垂れた。そんな大仰な挨拶は不要ですと、ちょっと膨らます頬が愛らしい。無意識に目が細まっていくのを慌てて目尻に力を込めた。
     入室を許可されたものの、姫はリンクの訪問に心当たりがないように首を傾げた。まだお耳に届いていないのだろうか。リンクは薬袋を差し出した。
    「これを」
     受け取っても姫はなにが入っているのか分からない様子だった。仕方ない。なんの特徴もないただの茶色の紙袋。持てばカサカサと鳴り重くもなく、薬袋紙の重なった不思議な触り心地に姫は今一度首を傾げた。
    「プルアから頼まれました試作薬です」
    「え」
     手渡したものがなんであるか告げただけなのに、姫は短く悲鳴に近い声を上げ息を飲んだ。顔面は一瞬蒼白になった。今度はリンクの頭に疑問符が浮かぶ番だった。その疑問符を吹き飛ばすほどの声で、姫が叫んでいた。
    「ええええっ」
     どんな反応をすればいいのかあっけにとられている間に、姫の顔色は青白さが一変し、真っ赤に染まっていく。
    「いかがされましたか?」
    「リ、リンクが……ど、どうして。わ、私はプルアに頼んでいて」
     姫の言葉からリンクにもようやく姫の反応の意味が理解できた。
    「その方がいいとプルア女史から」
     プルアの名を出せば安心して下さると思っていたが、そうはならなかった。素早くリンクの手から薬袋を奪うと、姫は風に舞ったカーテンのなかに隠れてしまった。姫の行為の意図を読み取れず、近寄ろうとすると布越しに姫が制止の声を発した。
    「どうか下がって」
     どうしてこんなに鈍いのだろう。
     姫は恥ずかしいのだ。
     さっき自分も固辞しようとしたことを、瞬時に忘れている。情けない。気持ちをすぐに切り替え、リンクは深々と頭を下げた。
    「申し訳ございません。聞かなかった、知らなかったことに致します」
     謝罪の声は届いているはずだが、姫はカーテンから出てこない。リンクはそれ以上の深追いを止めた。薬はすでに姫の手のなか、もう自分のいる意味はない。このまま退散すればいい。それが正解だとわかっているのに出て行くことができなかった。医務官は性別関係なく病あれば治し、その兆候がないか調べるのが仕事だ。あの姫に卑しい感情を抱いてそうな男ですら医学に通じる者なのだ。その領域には、勇者であっても入っていけるはずもない。
     ぐっと拳を固く握る。
    「姫様は不在でしょうか」
    「……」
     布越しに戸惑った輪郭が蠢く。
    「どこに行かれたのか」
     疑問符を付け、リンクは独り言を続ける。すぐに退出するのが正解と知っていても、伝えたい言葉があった。窓の方へと声を出しながら歩く。暗に姫へと自分の接近を伝えるための行為。
     そして姫の形にふくらんだカーテンの前で、そっと呟いた
    「きっとお護りします。厄災からも、魔物からも、周囲に満ちる負の感情からも」
    「……」
    「ですから、……病からも、俺に護らせて下さい」
     カーテンの上から、姫様の輪郭をした膨らみをそっと抱きしめた。布目をすり抜けた熱い吐息がリンクの首筋に当たる。
     もっとぎゅっと抱き寄せたい。
     沸き上がる欲求を理性で押し込め、ゆっくりと惜しむように体を離した。わずかにカーテンが揺れる。開かぬ窓の拭くはずのない風にゆらぐそれを目の端に残しながら、リンクは一礼して扉を閉めた。
     この扉の奥に入ることを許されている。それだけでいまは……いまはいい。

     ぐっと握り締めたのは渡しそびれた処方箋。シワだらけのその小さな紙片に、気持ちは確かに記憶された。


     了



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