週末「ただいま……」
重い体を引きずるように、部屋へと帰ってきた。仕事が忙しいのに加え、人間関係のゴタゴタに巻き込まれ、体力も精神力も真っ赤、あと何ミリレベルだ。
「おかえり……って、疲れてんな、お前」
玄関にへたり込んでいた私は、その声に顔を上げる。恋人のキラウシは、片手にお玉を持ちながら近付いてきた。
「来てたんだ」
「…………まず風呂入ってこい」
キラウシは有無を言わさず私を立ち上がらせると、ぐいぐいと背中を押してお風呂へと連れていく。
「スーツ……」
「俺が掛けておく」
「着替え……」
「用意するから、さっさと入れ」
無理矢理脱がされそうな雰囲気を感じ取り、私は扉を閉めるともぞもぞと服を脱ぎお風呂へと入った。体を洗うのも髪を洗うのも、疲れていると正直面倒臭い。でもやらないとまたキラウシに怒られそうなのでもそもそと緩慢な動きで洗っていく。ようやく湯船に入ると、はぁぁぁと大きく息を吐き出した。忙しいとシャワーだけということが多いから、湯船に入るのは久しぶりだ。そのままゆっくりと目を閉じる。
「ゆっくり入れよ」
着替えを持ってきてくれたらしいキラウシが、ドアの向こうから声をかけてきた。返事をするのも億劫になっていると、ドアが開く音がして、続けて「寝るなよ」とキラウシの声が聞こえた。んー、と答えて頑張って目を開けると、少しだけ開いたドアの隙間からこちらを見ているキラウシと目が合った。
用意されていたスウェットに着替えてお風呂を出ると、今度はソファーへ座らせられる。
「まだ髪濡れてる。ちゃんと乾かせ」
そう言ってキラウシは私に麦茶の入ったコップを手渡すと、
パタパタと足音を響かせドライヤーを取りに行った。待っている間に麦茶を飲む。お風呂上がりだから喉が渇いていたこともあり、一気に飲んでしまった。コップを両手で持っていたら、戻ってきたキラウシがサッと持っていってしまう。
「風邪ひくぞ」
ブォォォとドライヤーの音が響く。キラウシ指が時々くすぐったかった。
ドライヤーが終わると、今度はテーブルに夕飯が並んでいく。それを見ながら、ここ最近、ちゃんとした食事を食べてなかったなぁと思い出した。朝はフレークに牛乳かけて食べればいい方で、酷いときはゼリー飲料。昼はコンビニのおにぎりかサンドイッチ、夜は帰りにお弁当を買って帰れればよくて、今週の半分は会社で差し入れ食べただけだった。
「お前、これ好きだろ?」
テーブルに並んでいくのは、私の大好きなキラウシの手料理。
「ほら、食え」
キラウシと色違いで買ったお茶碗にご飯が盛られる。大好きな料理を一口一口、噛み締めるように食べていく。
「……美味しい」
何故かポロポロと涙が溢れてきた。
「キラウシ、美味しいよ。ありがとう」
キラウシは黙って私の隣に座ると、頭を撫でてくる。
「もうちょっと自分を大事にしろ。心配したんだぞ」
「うん」
「忙しい時は言え。作り置きのおかず持ってくる」
「うん」
「腹一杯食ったら、今日はもう寝るぞ。俺も疲れた」
「うん」
「明日は二人して寝坊しような」
ニカッと笑うキラウシに涙が止まらなかった。