葡萄/菊田何度目かのお家デート。今日は彼女の家で夕飯をご馳走になった。そして食後のデザートにと食卓に並んだのは、葡萄。もうそんな時期か、と大振りな実を眺めた。
「スイカじゃなくてごめんなさい」
彼女はそう言って向かいに座る。気にするな、といって葡萄に手を伸ばすが、彼女が俺の好きなものを覚えていてくれたのが何だか嬉しい。
「今は一年中なんでも手に入るが、やはり旬のものが一番旨いからな」
一粒皮を剥き、口へと放り込んだ。瑞々しい甘さが口の中に広がる。
皮を剥く手間があるのと手がベトベトになるのがなぁ、と思うが、スイカもたいして変わらない事を思い出し、用意されていた濡れタオルで手を拭いた。
「葡萄といえば、三国志に出てくる曹丕って人が葡萄が好きでね……」
葡萄の皮を剥きながら、彼女が口を開いた。俺は歴史には詳しくないから、彼女の話を時折相槌を打ちながら聞いている。好きなことを話す彼女は楽しそうで、その顔を眺めていると俺も嬉しくなってくる。
「ホント、お前は詳しいなぁ」
彼女の話が終わったタイミングでそう言うと、彼女は何故かごめんなさいと謝った。
「何で謝るんだ?」
「だってつまらなかったでしょう?」
「いや、そんなことないぞ」
いつの間にか手も止まってしまっている彼女の隣へと移動する。
「前にね、お前の話はつまらないって言われたことあって」
自嘲気味の笑みを浮かべた彼女の頭をポンポンと叩いた。確かに彼女は色んな事を知っていて、驚かされることも多い。だからといって知識をひけらかすような感じはしないし、聞いていて楽しい。なにより楽しそうに話す彼女がキラキラと輝いている。
誰に言われたのか知らないが、馬鹿な奴もいたもんだ。
俺は葡萄を一粒剥くと、彼女の口へと押し当てた。少しだけ開いた唇の間から葡萄を中に押し込むと、指先が唇に触れる。ふにっとした感触に劣情が刺激された。
「俺は好きだけどな、お前の話。話してる時は
楽しそうな顔してるし」
俺の言葉に照れたのか頬を染めた彼女に笑いかける。そして彼女の手首を掴むと、その手を引寄せた。
「菊田さんッ」
彼女の持っていた葡萄を口に運ぶ。摘まんでいた指先を舌先で舐め、ちゅっと音を立てて離した。
驚きに目を丸くし、先程よりも顔を赤くした彼女を更に引寄せると、葡萄より甘そうなその唇に囓り付いた。