さまさぶD/S 隣に寝ているのは紛れもなく少年だ。無理矢理パートナーにしてきたのはコイツだがそれでも罪悪感に駆られる。俺が合歓を助けたい一心で天秤にかけ落とした一郎の弟。その事実をコイツは知らないようだが知ればパートナーの解消どころかブッ壊されるかも知れない。お兄ちゃん命のコイツのことだから当然だな。
(スリルは嫌いじゃねぇけどコイツが傷つくのはいただけねぇよな。)
三郎をリビングの床に転がしたままキッチンへと移動する。無理矢理でもなんでもパートナーになってしまった事で情は移ってしまった。三郎には見せないがかなり信頼もしているし可愛いとも思うようになった。恋愛感情ではないにしろ世話焼きの性分はだいぶ発動している。今も起きた時に腹を減らしてるだろうからとキッチンで料理を作って振る舞おうとしているのだからもうだいぶ絆されている証拠だ。
そもそも恋愛感情を持ったことはない。利害だけで人間関係を作ることはないが恋などという甘い人間関係を築こうと思ったことはない。愛情は合歓に全て注いでいる。友情はそれなりに築いたが手酷い別れが何度も訪れ心がガタガタになるのが恐ろしくなりその後慎重になってしまい今は友人と呼べる人はいなくなった。仲間はいる。友人などというぬるいものではなく同じ目的を持つ同士だ。そこにかける信頼は厚い。
(略)
手はフライパンを器用に扱い米を炒めている。材料を何も買っていなかったから冷蔵庫の余り物を出したら炒飯くらいしかできそうになかったからだ。卵の中華スープと並行して作っていると匂いに釣られたのか三郎が目を擦って体を起こし始めた。
「もうちょっとで出来るから待ってろ。」
そう言うと三郎はコクンと頷いて大きなあくびをした。
出来上がった炒飯とスープをリビングのテーブルの上に置いてやる。三郎の目がキラキラしている。そんなに腹減ってたのかと思ったが十代の腹はいつでも減ってるもんかと思い直す。
「ちょーいいにおい……」
炒飯を目の前にして三郎は鼻をヒクヒクさせている。「いただきます。」と手を合わせて一口食べると「お店屋さんのみたい!」とパクパクと口に運んでいく。あれよあれよと言う間に皿の中は空っぽになった。
「おかわりあんぞ。」
と言えばまたパッと顔が明るくなって皿を持ってフライパンのところへダッシュする。
「左馬刻料理上手なんだね。」
「料理ってもんでもねーだろ。」
「えー?こんなに美味しいのに?」
「別に普通だろ。」
他愛無い会話。若頭になってからは軽口をたたく相手はほとんどいない。仲間も多少砕けた口調になることもあるが基本は大人としての会話。何年か振りの何の意味もない会話がむずがゆい。合歓がいた頃には良くしていた。一郎は可愛がってた頃でさえずっと敬語だったのに三男坊は一切敬語を使わない。
「なんだよ。あんまこっちばっか見んな。」
「いや、よく食うなと思ってな。」
「だって美味しいもん。」
「お前の兄貴は遠慮しいだったからよ。」
「……。僕は一兄じゃないから仕方ないだろ。」
「俺は悪いなんて一言も言ってねえ。」
変なとこネガティブだなと思う。一郎とは全く違う。三郎は一郎を崇拝している機雷があるから一郎との違いがイコール劣等感になるのかもしれない。
「でもよかった。」
「?何がだ。」
「もういつもの左馬刻じゃん。僕お役御免。」
精神の安定のために銃兎に呼ばれたといっていた。心地よく穏やかな時間はもうすぐ終わりを告げるらしい。寂しさに襲われゾッとする。
「そうだな。飯食ったらとっとと帰れ。」
「言われなくてもそうするよ。今度来た時はもうちょっといい子になれよな。」
「⁉︎なんだと!」
三郎はケラケラ笑いながら「ほら、少しはコントロールできるように腕に付けときな。」とcollarを目の前に垂らされた。いつのまにか外されていたらしい。
「首に付けてたら何事かと思われるからね。その手首のじゃらじゃらと一緒に着けときなよ。」
そう言って手首を指差される。確かに普段から御守りの数珠やブレスレットを着けているからcollarを二重にしてつけりゃ目立たない。そう思いながらcollarを見つめていたら「別に間に受けなくてもいいよ。」とまた笑い出す。しまい直そうとするから
「とりあえず、預かっとくわ。」
と言って取り上げた。すると三郎は大きな目を更に大きくしている。
「んなに驚くことでもねーだろ。」
意味はわかっている。服従への同意をしたつもりではないがそんなような意味がある。
「まあ、それならお守り代わりにでも持っててよ。プレイしたくなったら遠慮なく呼んでね。萬屋ヤマダをよろしくお願いします。」
と指で輪を作って代金請求するからと言ってきた。なかなかドライだ。こっちが絆されそうになるのをバッサリ断ち切って来る。
「世話んならねーから安心しろ。俺様をみくびるんじゃねえ。」
「はいはい。じゃーね。」
スニーカーを玄関でトントンすると子供らしく手を振って出ていった。
(俺の手首いくつ御守りくっついてんだよ。)
と我ながら呆れる。