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    Nora_Ma13

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    Nora_Ma13

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    ワードパレット『午後6時』sgdz小説 進捗
    ワルツ 子猫 軽やかに

    白猫の献身 吾輩は猫である。すでに名前はあるが、一人しか呼ばない。
     さて、このように先達の語りを真似するのはここまでにしておこうと思う。どうやら、住処にしているこの図書館には、その先達と暮らしていた人間がいると、人間の言葉を話すネコに教えられたからである。
     名前を一人しか呼ばないというのは色々な呼び名はあるが、自分の気に入っているものをつけた人間が、名前を他の人間の前では呼ぼうとしないからである。だから、呼ばれた時は精一杯返事をしてやろうと決めている。
     その気に入っている人間——周りの人間たちからはダザイと呼ばれている人間は、とても危なっかしくて、この弱肉強食の世界で生きていけるかわからない。狩りができないから餌も取ってきてやらないといけないし、手が冷たいからあっためてやらないといけない。だから、そばにいてやらないといけないのだ。

    「……ねえ、ちょっと。おおーい……」
     中庭のベンチで読書をしていると、最近図書館の中庭に住み着いた白い子猫が、膝の上に乗り上げてきた。そこまでは、よかった。ただ、ネクタイにじゃれつくのまでは許容していない。視界の端でちらちら白い小さな手がシャカシャカ動くので、太宰は本に集中できなくなってそっと栞を挟み、子猫から遠い位置に本を置いた。
     それから声をかけているが、一向にじゃれつくのを止める気配がない。あんまりじゃれつかれると締まって、ちょっと苦しいんだけどなあ、と苦笑いして小さく猫の名前を呼んだ。
    「ナオ、それ以上はだめ」
     にゃおん。
     子猫は賢いのか、名前を呼べば一言鳴いて、それ以上はじゃれついてこない。太宰はぎこちなく子猫の前足の下に手を差し入れて、膝の上で抱き直した。
    「相変わらず、変わった鳴き声。普通、にゃあとかじゃないの」
     にゃおう。「そんなことない」とでも言いたいのか、子猫はまた一言鳴いた。
     この白い子猫と出会ったのは、一ヶ月前。今日のように中庭のベンチで読書をしようと歩いていたら、羽織がはためくのが魅力的にでも見えたのか、じゃれついてきたのが始まりだ。その頃はまだ、両の手に収まるくらいの大きさで、踏み潰しそうになって慌てている太宰など知ったこっちゃないとばかりに足の間や周りを駆けずり回っていた。パニックになった太宰は、踏まないようにするのに必死で、駆けつけた織田から「一人で妙ちきりんなワルツでも踊ってたんかと思ったわ」と大笑いされた。苦い記憶である。
     それからというもの、中庭に行くたびにじゃれつかれ、対応にも慣れてしまった。この子猫はかなり構ってほしがりなようで、虫を捕まえては見せに来たり、太宰の手が空いていれば身体を擦り寄せて撫でるように要求したりと人懐こかった。
    ネコは子猫の言っていることが分かるらしく、時折、太宰と子猫の様子を見て「いつもご苦労にゃことだ」などと言うが、こちらに混ざることはなかった。
    「お前も、物好きだよな。もっと猫好きで、世話をするのが上手な人達だっているのに」
     子猫の小さな肉球をむに、と指で押すといやそうに手を引っ込められる。撫でて欲しいところを撫でられないと鳴いて催促する割に、こういうことは許さないあたり、やはり猫である。
     白いふわふわした毛に、ヘーゼルアイの美人。織田と共に相談をもちかけた時に金沢の猫好きな文豪がこの子猫を称した言葉である。だが、太宰はその眼の色が光の加減で緑が強まることを知っていた。
    「……ナオ」
     にゃおう。呼ぶ度に、鳴き声が返ってくる。色合いで連想してしまった相手からとったせいで、なかなか人前で名前を呼んでやれない。なのに、毎度律儀に返事をしてくれるので子猫には申し訳なく思っていた。
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