縹渺たる暗き地が広がっている。地平の果ては見通せず、ただ凍てつく静謐と暗闇に満ちた虚のような場所だった。
そこにひとつの声が灯る。
「死はすべてに等しきもの」
声は続ける。誰に告げるともなく、己に告げるともなく。
「ああ、まさに真理。避け得ぬ終焉。如何なる生命も終わる。健やかなる者も病める者も。貧しき者も富める者も。猛き者も脆き者も。
故に等しく生とは価値がない。冥府へ至る事実に抗えるものはいない。死から見れば生きたときの歩みなど誤差のようなもの。
去りし歩みに思い馳せることは生者の灯火にはなろう。されど、死は死としてそこに在るのみだ。決して損なわれることはない」
なればこそ。
声を止め、ほんのわずかに目を細めながら異形の神は翼を広げ、空を叩き飛び立つ。
447