Tiny × Tiny 晶は緊張した面持ちのまま、インターフォンを鳴らした。指先が微かに震える。数秒も待たないうちにガチャリと解鍵音が響いた。
「やあ。待ってたよ」
中から出てきた男は不思議な色の瞳を細める。それから、にっこりと綺麗な笑みを浮かべて晶を出迎えた。
「お、お世話になります」
「とりあえず上がって」
「おじゃまします……」
「君の家にもなるんだ。これからはただいまでいい」
男は若草色のふんわりとしたシャギー生地の玄関マットの上を指差して言った。
「これ履いていいよ」
晶は示されたスリッパを履いた。かぽかぽと音が鳴る。
「ああ、ごめんね。やっぱり大きかったか」
男は分かりやすく眉を下げた。
「ここに来るのはむさい男どもだけだからさ。スリッパの購入、忘れないようにメモしておこう」
『スリッパ Sサイズ 購入』と乱雑に書かれたメモをボートに留める。
「荷物はとりあえずそこに置いて…うん。疲れたでしょ?そこ座って」
晶は言われた通り椅子に腰を下ろした。ソワソワと周りを見渡す。部屋は妙に整然としていて生活感がない。反対側の椅子にかけてあるグレーのスーツだけが人が暮らしていることを感じさせる。男は雑にスーツを畳んで腰を下ろした。
「さて、今日から君との二人暮らしが始まるわけだけど」
晶はこくりと頷く。
「それに当たってのルールを決めておこう。まず君、料理できる?」
「一応……」
「じゃあご飯は君に任せちゃおうかな。家事は当番制といいたいところだけど…」
「居候の身なんで、家事はやらせてください!」
「じゃあ、お言葉に甘えちゃおう。あとはそうだな…体調が悪い時はすぐに言うこと。いいね?」
晶はこくこくと頷いてからおずおずと男に声をかける。
「あの……ガルシアせんs……」
男が人差し指で静止を示したので晶はぱちくりと瞬きをした。
「まあ形だけでも家族になるんだ。それに家の中でも先生なのは嫌だし」
「じゃあ、なんて呼べば……」
「そうだなぁ、俺は同居人に様をつけさせる趣味はないし、フィガロで構わないよ」
「フィガロさん」
❇︎
「ただいま…」
帰宅すると彼の趣味とは異なる靴が玄関に置かれていた。しかも二足。
「………?」
不思議に思いながらもリビングへと向かう。
「おや、帰ってきたか」
「おかえり」
耳にしたことがない低音に迎えられる。そこにはとてつもない美形がいた。艶やかな黒髪と透き通った白い肌。身長は彼と同じくらいだろうか。双子なのだろう。鏡合わせのようにそっくりだが、片方はくるくると毛先を遊ばせたヘアスタイルで、片方はサラサラのストレートヘアだ。
「いや、だれ????????????」
よく見るとサクちゃんがサラサラストレートヘアの方(美形)の膝で、すやすやと眠っている。サクちゃんは顔を上げて晶を一度だけ見るとまたゆるゆると顔を(美形)の膝へと戻した。
「おや、あやつ説明しとらんのか」
「我ら完璧に不審者じゃ。困ったのう」
困惑している晶に対して、双子は全然困ってなさそうにくすくすと笑った。その時ガチャリと玄関から解鍵音がした。男が帰ってきたのだろう。
「あ」
男にしては珍しい大声がしたと思えばバタバタと慌てたようにリビングに駆け込んでくる。立ち尽くす晶と寛いでいる双子を見て状況を察したらしい男は「はあ……」と深いため息をついた。
「ちょっと、勝手に上らないでくださいよ。スノウ様、ホワイト様。彼女、びっくりしてるじゃないですか」
どうやら髪を遊ばせている方がスノウで、ストレートの方がホワイトという名前らしい。双子の紳士は「ほほほ」と呑気に笑った。
「いやいや、そなたが説明しとるものかと」
「まあちょっとしたサプライズじゃな」