いつも僕は恋するんだろう2 それからと言うもの、気軽に触れてくる手に触られるとたまらなくなった。何よりも、汚い俺を思い知らせる手。俺は明智に触られるのを自然と避けるようになって、それに反比例するように視線は彼を追いかける度合いが増えた。目が合いそうなタイミングは避けながら視界のどこかに必ず彼がいるように。視線でさえも汚しそうな気がしたけれど、遠くから見るくらいは許してほしいと心のなかで言い訳をした。
それでも、できうる限りは抑え込んだつもりだ。自分が無表情気味なのも手伝って、周りにはほとんど違いなどなかったはず。何度となく明智に会っても、指摘されることはなかった。けれど、探偵の目には明らかだったらしい。
俺は気づかなかった。頻繁に目が合いかけるのは、それだけ明智が俺を見ているからなのだと。自分の焦燥感と罪悪感に手一杯で、日に日に切迫していく視線の熱さに、真正面から見ることのなかった明智の表情に、気づけなかった。
明智がルブランを訪れたのは宵の口のあたりだった。営業中にコーヒーを飲みに来ることはあれど、こんな遅くに何の連絡もなく押し掛けてくるなんてことは初めてで、俺は驚きながらもコーヒーを出してやった。立ち上る湯気越しの彼は思い詰めた顔をして、目の前のカップを敵みたいにじっと見つめている。
「……何か、あった?」
「何か……そうだね、うん」
明智が思い詰めるなんて余程のことがあったに違いない。そう思って話を促せばやっと重たい口を開いた。
「いや、緊急事態とか、そんなのじゃないんだ。…………でも、ある意味緊急かもしれないかな」
「何だよ」
「間違いだったら申し訳ないんだけど、もしかして、僕のことが好き……なのかな」
それはまるで断罪のように重々しく響いた。俺を見つめる視線は真直ぐで痛いほどだった。疑問形でもない、ほとんど断定した口調で放たれたそれにとっさにごまかすことができない。それは同意と同義語で、二人の間で、ぴたりと時が止まったようにさえ感じる。
「ごめん、いきなり。気になっちゃったものだから。本当、なんだね」
「……そんなにわかりやすかった?」
「そうじゃないんだけど……僕が君を、よく見てたから、かな」
じっと見つめられて鼓動が速まる。その言葉は、期待する甘さの奥にどこか白々しい響きを持っていた。言葉を探して押し黙る俺に、わざとらしく身を寄せた明智が穏やかに笑いかけた。
「ねえ、付き合おうか?」
そう言った明智の瞳には、白々しい甘さの奥に確かな失望が滲んでいた。けれど、どうしても与えられた機会を手放したくはなくて、気づかないふりで手を取った。感情の制御が効かない。叶うはずのない恋心が寄る辺を見つけたように暴れている。俺はゆっくりと微笑み返す。
「嬉しい。よろしく」
「うん」
手袋越しのぬくもりと、久しぶりに感じる明智の香り。今後どうなるかわからない。いいようには変わらないかもしれない。後悔をする日が来るかもしれない。それでも、一度はあきらめたこのぬくもりを手放せそうにはなかった。