まるで優雅な気分に今日も今日とてマイルームでの撮影会を開催中のわたしに、まだ続くのかと若干カドックは呆れているけれど…何だかんだ最後まで付き合ってくれるのは知っているから、セットを前にワクワクと心を弾ませていた。
「準備完了!今日のはね、ホテルのスイートルーム風だよ!見て、すごく広いの!」
「へぇ…かなりのリソースを割いているんじゃないか、無駄に」
しかし空間の設定はどうなっているんだと一言聞かれ、よくわからないので適当に誤魔化しつつ…細かいことはいいからと話を切り上げて、まずはフカフカのソファーへと腰を下ろす。
「お金持ちのお嬢様になった気分、かも」
「今の格好だけで言ったら、おまえでもそんな風に見えなくはないぞ」
「だ、だけって何か余計なんですけれど!?」
「怒るなよ…いつもの立香と比べたら、ってことだからだいたい合っているし」
小馬鹿にしたような態度はさておき、今日の礼装へチラリと視線を落とす…リボンの付いた白いブラウスに膝下丈の青いスカート、スッキリしたデザインも含めてお気に入りの一つだ。
「いいや、要は似合っているってことなんでしょう?素直じゃないぞ、君」
「…さぁな、そんなことよりも撮影だろう?」
「待った!ねぇねぇカドック、一回これ着けてみてくれない?お願い!」
おもむろに小道具セットから取り出したのは、初日にも見かけたシンプルなサングラスである…ちなみに彼は手持ちが少ないからと言って普段の礼装なので、ちょっとだけアレンジするくらいのワガママは許してほしい。
「ひとまず着けたけれど…これでいいのか?」
「うん!テーマはね、【お嬢様とボディーガード】で!あっ、執事でもいいよ?」
「“お転婆”を忘れているぞ、おまえ」
「ムッ?わたしだって、お上品にできるもん!」
売り言葉に買い言葉ってやつだろう、ニヤついた顔で挑発してくる彼にカチンと来てしまって…それらしい振る舞いや言動など、思いつく限りで見せつけてやろうと息巻いたその時だった。
「気取らずに、飾らないところも大変魅力的ですよ…立香お嬢様?」
「ッ!いきなりなんて、卑怯…なのだわ」
「これはこれは…てっきりお喜びになると思い、僕の本心をお伝えしたまでのこと…」
スッとわたしの手を恭しく取りながら、おもむろに跪いてみせる彼…驚きのあまりぎこちなく取り繕ったわたしを見上げた、その表情はずいぶんと楽しげである。
「では、あちらへと参りましょうか?よろしければ、僕がご案内いたしますので」
「け、結構ですの…この手、何!?」
「もちろん、お嬢様をお世話するために…さぁ、遠慮せず」
「カドック!?近すぎる、もうおしまいにしていい…きゃあっ!?」
完全におふざけが入っているし、こっちが立ち上がるとさり気なく腰に腕を回しながら不敵に笑う彼…妙なところでポテンシャルの高さを思い知らされて、わたしの負けは確定した。
「ご満足いただけましたかね、マイレディ?」
「うぐっ…欧州男子の本気、怖すぎる…」
「フッ…お気に召したようで何よりだが、二度とやらないぞ」
「わたし、ただ遊ばれただけじゃないの?あっ、目逸らした…図星なんだね?」
冷静になったのか彼もだんだん恥ずかしくなってきたらしく、よく見てみれば耳まで真っ赤に…それにつられるわたしもさらに頬が火照りだしてきたし、二人して本題そっちのけで照れ合うという変な時間が流れる。
「よしっ!そろそろ、撮影を始めなきゃ!」
「あぁ…待て、僕はやらないと言ったが…おまえもやらなきゃ、フェアじゃないよな」
「そんな…主従を逆転する、ってこと?」
ここでまさかの提案、上手いこと躱そうにもさせてくれる雰囲気なんかじゃなく…その切り替えの早さは何なのと思いながら、わたしも頭をフル回転させた。
「えっと…お、おかえりなさいませ!なんて呼んだら…カドック坊ちゃま、とか?」
「…なるほど、それも悪くないと思う」
「へへっ…やってみたら面白いかも、にゃん?」
「そのポーズは何だ、あざといからやめろ」
日本にあったメイド喫茶って確かこういう感じだったかも、そんなうろ覚えの知識だったけれど意外にも好感触という…ちょっとだけ、彼がノリノリでやってくれたのがわかったような気もする。
「お食事にされますか?それとも、お風呂…は微妙に違う、よね?」
「別にいいぞ、全部立香とするなら」
「か、かしこまりました…いやいやいや!それって、どういう意味!?」
「驚くな、つまり“そういう”意味だろう?」
ついうっかり口走ったことを真に受けて、というより絶対わかった上で再び彼が近づいてくる…冗談とはいえ言質を取られたわたしに、逃げ場などないに等しかった。
「今は我慢しておいてやる…ただし、夜は僕のところに来いよ?」
「はひぃ…職権乱用、パワハラ坊ちゃまだ…」
「好きに言えばいいさ、何とでも…じゃあ頼んだぞ、僕の可愛いメイドさん」
これまでの撮影会を含めて、散々付き合わせてしまったお礼もできていないし…アリかもだなんて、ほんのちょっぴり期待に胸を躍らせたことがバレていませんようにと願う。