夏だからこれも仕方ないこの時期になると盛大に開かれるというカルデア総動員のフェスとやらが、また今年も催されるとついこの間宣言されたばかり…スタッフとサーヴァント達も賑やかに準備を進める光景があちらこちらで見られ、それはもう全体的にテンションが高めとなっている。
「…どうした、用件を言え」
「カドック、助けて!今度のフェス、どういう衣装がいいと思う!?」
「何だよ、その質問…」
その中心にはやはりというか彼女、立香が当然いるわけなので騒がしくなるのも無理はない…今もドタバタと勢いよく部屋に駆け込んできたかと思えば、仕立ててもらう予定のドレスが決まらないから困っているとのことだ。
「僕に聞くな、巻き込まないでくれ…」
「えぇっ!?そんな冷たいこと言わないでよ、イジワル!」
「イジワルって…関係ないだろう?」
「関係なくない!君も参加するんだからね、絶対に!」
いつの間にやら勝手に決められていたのはもはや諦める、そもそもここにいる以上無視できるものじゃないから…ただしなぜ彼女がこんなに必死なのか、正直に言って面倒だけれど多少なりとも気にはなる。
「候補が多すぎて選べないの、それで相談したのに!」
「だったらいっそ、全部着ればよくないか?」
「適当!せっかく着るなら、君の好みに合わせたいんだもん…」
そうこうしているうちに何とも健気な答えが返ってきた、そんなにまっすぐな言葉で告げられたら無視するわけにもいかなくなり…というありきたりな言い訳もかれこれ何度目であろう、そんな彼女に甘い自分が意外と嫌いじゃないのでそこは仕方ないか。
「裾がヒラヒラしていたり、フワフワしたデザインとかあるんだけれど…」
「抽象的すぎる、写真でもいいから見せてくれ」
「やった!あのねあのね、アクセサリーも作ってくれるらしくて!」
「落ち着け…ほら、データあるんだろう?」
僕が話を聞いてやるとわかったからか、ちゃっかりベッドに座りながらニコニコと締まりのない笑顔を見せる立香…相変わらず警戒心がなさすぎる彼女に対して心配を通り越した何かがこみ上げたものの、今はひとまず抑えよう。
「ふぅん…いや、本当に多くないか?」
「でしょう?あの二人、いつも以上に張り切っていてさ…たくさん選んでいいよって」
「なるほど、これは一苦労しそうだな…」
彼女の隣に僕も腰かけながら、一緒にラフスケッチを眺める…それは別にいいけれど、端末の画面を覗き込むためとはいえいちいち距離が近くなるせいで妙に気が散ってしまうのはたぶん不可抗力ってやつだ。
「この色、僕はけっこう好きだぞ?淡い黄色というか緑というか…」
「どれどれ…あっ!わたしも、可愛いなって思ったやつ!へへっ、嬉しい♪」
「…スカートは、短すぎるけれど」
「もう、またそんなこと言って!君、お母さんみたいだよ?」
無自覚な立香からは不服すぎる肩書きをつけられて若干イラッとしたものの、そこはどうにか上手いこと誤魔化しながらのんびりとした時間を過ごしている…今すぐ緊急事態が迫っているわけではないにせよ、驚くほど平和すぎて怖いくらいである。
「たまには大人っぽいやつも着てみたいな、わたし…そういうやつ、選んでくれない?」
「わかったわかった…なら、これが合うんじゃないか?白と黒のバランスがいい」
「おぉ、素敵!さすがカドック、センスある!」
「子供っぽさが抜けないし、せめて着るものだけでも…痛っ!おい、叩かないでくれ」
良く言えば裏表がない、単純な思考ですぐムキになるところがあると言えば火に油を注ぐだけなのについつい口走ってしまったが…一通り彼女の好きにさせてから本題へ戻り、あれやこれやとくだらなくも何だか楽しくもある議論を繰り広げた。
「大体定まってきたけれど…なぁ、こんな感じでよかったのか?」
「いいに決まっているじゃん!二人も喜びそうだし、さっそくお願いしてみるね!」
「そうか…役に立てたのならいい、選んだ甲斐もあるよ」
最初は文句を垂れながら、本人の希望もあって僕好みに着飾られた彼女が見られると思えばどうってこともない…しかし今さらよくよく考えてみれば、ただの独占欲丸出しのようで気恥ずかしくなってくる。
「カドック、ありがとう!君のおかげだよ!」
「…別に、礼を言われるほどでもない」
「いいの、わたしが言いたいだけ!そうだ、選びながら思ったんだけれど…」
そんな僕の小さな葛藤なんて知る由もないまま、また彼女が何か余計なことを考えているらしい…大抵はしょうもない方向へ発展するので引き際が肝心なのだが、反対に調子を狂わされることがほとんどだ。
「ねぇ、君ってさ…『セクシーなの?キュートなの?どっちが好きなの?』」
「な、何をいきなり言い出すんだ!?」
「あははっ、ビックリした?これ、小さい頃に聞いた歌のフレーズなんだよ…ふ、ふふっ」
「おまえ…笑いすぎだっての、まったく…」
案の定してやったりな表情を浮かべる立香に色々と我慢の限界を迎え、僕は彼女の腰にそっと手を回して…瞬時に形勢を逆転されて何事かと見上げてくる、期待と不安が入り交じった相手の表情がコロコロ変わる様子に悪戯心が芽生えてしまう。
「逆に聞くぞ…どっちも、と言ったら?」
「ふぇっ!?そ、それって意味が違ってくるんじゃ…あの、カドック?」
「察しがいいじゃないか…つまり、こういうことだ」
「ま、待って!わたしは何も…うひゃあ!?」
身体をこちらへ引き寄せ、驚きのあまり間抜けな声を上げた彼女をやや強引に押し倒す…さすがに短絡的すぎやしないかと自嘲しつつ、恋人である男の部屋にノコノコやってきた相手も悪いと責任転嫁した。
「さて…もし無理なら、ここで終わりにするけれど?」
「ひどい、乙女心を弄ぶ悪い人だ…」
「僕、いい人ぶった覚えもないんだが…まぁ、許してくれ」
以前と比べれば積極的になってきたものの、未だに照れや羞恥が勝るらしい彼女の頬にキスを落として…流されるがままその気になってくれたらいいのにと、強く視線をぶつけ合う。
「おまえのドレス姿、楽しみにしている…それは本音だぞ」
「う、うぅ…じゃあ、ちゃんと褒めてくれる…よね?」
「はいはい、立香は可愛い可愛い…で、合意ってことでいいんだよな?」
「雑!やだやだ、何して…カドックのエッチ!」
抵抗らしい抵抗もしてこないから嫌がっているわけじゃないにせよ、彼女が少し怯えたように瞳を潤ませるものだから…きっかけさえあればあっという間に高揚してしまう自分の方こそ単純と言えるけれど、今さら止めるつもりはない僕なのであった。