いらっしゃいませ、何名様ですか?「やれやれ、僕は君達の子守りじゃないンだけど。食事くらい二人で行けないの?」
幾度となく三人で出かけた末に至極当然の台詞を叩きつけられたレムナンが、ぽかんと口を開けている。
私の方はといえば、ラキオは今日まで何度も何度も連れ回されてよく着いてきてくれたよなと思うくらいだ。
所謂恋人、と出かけるのなら二人きりだろうと……そんな知識は私にだってある。関係性が変わる前だって二人きりで話したこともたくさんあるのに。
けれどいざ関係性が変わってしまうと、今まで普通に成立していた会話の一割もまともに成立していないような気がして。特にどこかに出かけるなんて、特別普段とは違う事をすれば余計に。
勘のいいレムナンがそれを察知したのか知らないが、いつの間にか出かけようと話が出る時にはラキオがいる前提になっていた。
「えっ……でも、ラキオさん、あの店のミネラルウォーターが一番飲みやすいって……」
「まったく……僕は店が出す水の話はしていない。君でもそれくらいは分かるだろう?」
「………………」
レムナンが私に見せないようにしているだろう、鋭い目付きの不機嫌極まりない顔をしている。その隣にいながら思うところがある。
(――そんなに嫌がる?)
付き合っている、相手と二人で出かけるのは普通のことだと思うんですけど? ……多分。
「…………」
「……レムナンって、」
「……?」
爆弾を落とすだけ落としたラキオが「休憩が終わるから」と去っていった室内の、しんと気まずい空気に……つい、口を開く。
「私と二人で出かけるの、嫌なの?」
「えっ……! そ、そんな訳、ないじゃないですか!」
「ちょっと、声大きいから……」
「……すいません」
それは、即答するんだ。思わず口角が上がる。
「スズさんは……僕と、二人でも出かけてくれるんですか?」
「え? そんなの、当たり前でしょ」
二人で出かけられないかも、なんて心配しているくせにレムナンは結構強引なひとだと思う。常に自信があるように見えるくらいには。
「僕は、ラキオさんみたいに……楽しい話が、できるわけではないですよ」
「話が楽しいかどうかなんて考えたことないけど。何話すかじゃなくて、誰と話すかが大事でしょ」
「…………」
「レムナン?」
「それは…………」
僕が、好きだから。何を話しても楽しいって、言ってますか?
「…………まぁ、解釈は自由だよね」
議論で人を疑う時みたいに険しい顔しちゃって。
別に、意地悪してるわけじゃないけど。
……散々、ずっと、今まで二人で出かけようとは誘ってくれなかったくせに。
――ほんの少し、そう思っている。