監督の部屋、殺風景だったから……、と松山がロードワークの途中で積んできた花を賀茂に渡そうとする。も、ひょいっとその手は後ろへ引っ込められてしまう。
「なんだ?くれるんじゃないのか?」
愛おしい歳下の小僧の子供っぽい仕草により一層、胸をくすぐられ笑いを漏らす。
「ただじゃ……あげませんよ」
そう言うと背伸びの松山の唇が、賀茂の右耳たぶに近づいてきた。耳元にかかる吐息から緊張が伝わる。らしくないことをしでかしているせいだろう。そのほんの数センチの空間だけが別世界のように熱い。軟骨に遠慮がちに触れてくるキスが一瞬で賀茂の体温もあげ、首から上を真っ赤に染めた。
「なっ………、なに……、、、珍しく積極的だな」
必死に大人の余裕を取り繕う人を前に、松山もまた、これ以上自分を見失わないよう努めていた。
「……たまには。いつも……みなとさんにやられっぱなしだから」
こんなところで負けず嫌いを発揮しなくとも、と賀茂は目の前の恋人の手首をぐいっと掴み、手にしている花共々その身体を抱き寄せた。
「みなっ……」
「くれるんだろう、俺に」
花も、お前も。
「……………ハア」
観念の甘い返事を吐き、白旗の代わりに白い花を右手にしたまま首筋に腕を回すと、今度は賀茂が松山の耳たぶにキスを落とした。