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    hisui0331

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    hisui0331

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    景穹

    女々しい穹くんの景穹が見たくて書き始めたけど8割くらい書いたら飽きてしまったので供養……いつか書く気になったら続くかもしれない。

    #景穹

    無題「穹」

    穹の名を呼びながら、頬を撫でてくれる大きな手に擦り寄れば、その目が細められた。
    愛おしくて堪らないというような、愛をたっぷりと含んだその柔らかい微笑みが、穹は大好きだった。

    「景元」

    穹がそう名を呼べば、景元は手を広げ抱きしめてくれた。その温もりがじんわりと伝わってくるのが心地好くて、口元を緩めながらそっと目を閉じる。
    心から、幸せだった。






    □□□□□





    「……ッ……う、……おい、穹。」

    自分の名を呼ぶ誰かの低い声と共に、身体を揺すられて意識が浮上する。目を開けば、視界いっぱいに丹恒の顔がうつった。

    「う……たん、こ……?」
    「もう昼になる。いい加減起きろ。」
    「う、う……ん……」
    「全く。起きたなら顔を洗ってラウンジに来い。……二度寝するなよ。」

    どうやら丹恒は穹を起こしに来たらしい。
    丹恒は穹が目覚めたことを確認すると、部屋から出て行った。その後ろ姿を見送って、穹ははぁ……とため息をつく。

    ある日、穹は景元への恋心を自覚した。きっかけは些細なことだった気がする。
    その日から、穹は毎日のように景元と共にいる夢を見るようになった。

    いつの間にか、景元を目で追うようになっていた。メッセージがくれば、綺麗なゴミを見つけた時よりも喜んだし、嬉しかった。
    景元がその美しい瞳に自分をうつしてくれるだけで、心が満たされた。会えば会うほど、言葉を交わせば交わすほど、この気持ちは膨らんでいくばかり。

    けれど、穹はこの恋を叶えられるとは思っていなかったし、気持ちを伝える気も毛頭なかった。
    だって、あまりにも身分が違うのだ。
    将軍という、絶対的地位に属している景元と、星核の器である、人間ですらない己。ましてや、自分と彼は男同士。
    到底、この恋が叶うわけがなかった。

    だというのに、気持ちを自覚した日から穹は毎晩のように景元との幸福な夢を見るようになってしまった。
    夢とは、己の願望を表すこともあるらしい。叶わないと思っていて、抱いてはいけない恋慕だと頭では分かっていてもなお、やはり穹は景元のことが好きだった。

    手を繋いだり、抱きしめてもらったり。キスをしてもらったこともある。夢の中の己はとても幸せそうに、彼からの寵愛を受けている。
    けれど同時に、現実との差を比べて惨めな気持ちになってしまうのだ。だって。

    「…俺と景元は、そんな関係じゃ、ないのに。」

    ぽつりと呟いたその言葉は、誰にも聞かれず、空気に溶けて消えていった。










    □□□□□




    穹は景元を避けるようになった。

    自身の恋心を自覚した途端、顔を合わせるのが恥ずかしくなってしまったのだ。元々顔が良い男だとは思っていた。
    きっと、羅浮の女性という女性に「景元将軍はかっこいいと思うか?」という質問をすれば100人中120人がはいと答えるに違いない。
    好きになってからは更に拍車をかけて綺麗な顔だと思ってしまうになった。重傷である。

    彼と目を合わせるだけで顔が火照ってしまう穹にとって、平然を装って景元と共にいるのは難しかった。
    昨日も、景元からのお茶会に誘うメッセージに、「ごめん、忙しいんだ」と断ってしまった。本当は会いたかったけれど、仕方なかった。相手はあの景元。聡い彼は、きっと穹の気持ちに勘付いてしまうだろう。そんなことを考えて、穹は思わずため息をつく。

    あの、全てを見透かしているような瞳。穹はあの目が大好きだけれど、今は少しだけ恐ろしく感じてしまう。
    いつか、自分の気持ちすら見透かされてしまうのではないかと怖かった。

    気持ちがばれて、もし、それを拒絶されたら。きっと立ち直れないだろう。
    拒否されるくらいなら、傷付くくらいならば、
    このまま景元にとっての「列車の友人達」の一人でいるべきなのだ。その方がきっと、互いのためだ。


    ポコン、と穹のスマホが軽い音を立てた。
    どうやら新しい依頼のようだ。場所は、羅浮。一瞬、景元と鉢合わせてしまうことが頭を過ぎるが、大抵は神策府に居るから、そこに近づかなければ大丈夫だろう。
    そんな事を思いながら、穹は上着を羽織ると、自分の部屋を出ていった。








    □□□□□




    景元の屋敷の縁側に、2人は腰掛けていた。庭では銀杏の葉が風に揺れ、舞い散っている。
    穹は自身が手に持っていた茶を見つめていた。ゆらゆらと揺れる水面に、己の顔がぼんやりと写っている。

    「穹」

    ふと名を呼ばれ、横に座っている男を見上げた。穹と目が合うと、景元はふ、と微笑んで、穹の茶器を手に取り盆の上に置いた。

    どうしたんだろう、とぼんやりと見つめていると、景元の顔が近付いてくる。
    頬に手を添えられて、反射的に目を閉じる。確かな温もりと柔らかさを唇に感じ、それは少しして離れていった。
    そっと目を開ければ、鼻先が触れそうな程近い距離に景元の端麗な顔がある。

    「……穹」

    低くてあまい、あまい声。そんな声で名前を呼ばれるものだから、穹の顔にじわじわと紅が差していく。そんな愛らしい反応をする穹に、つい景元の口元は緩んでしまう。

    「けい、げん……」
    「ふふ、照れているのかい?愛いな。」
    「きす、きもちいいから、もっとして……?」
    「ああ、もちろん。」

    景元は穹をそっと押し倒して覆い被さり、穹はそれに応えるように、腕を伸ばして景元の首に抱きついた。

    「愛している。私の、穹。」











    □□□□□



    ぱちり。穹は目を覚ます。
    視界に投げ出されたスマホがうつる。どうやら、ベッドに寝転がってゲームをしている途中で寝落ちてしまったらしい。

    穹は熱くなっているスマホの電源を切ってその辺に放ると、仰向けに寝転がり真っ白なシーツに顔を埋めた。
    目を閉じれば、先程まで見ていた夢を反芻してしまい、じたばたと足をばたつかせる。

    「はぁぁ……外行こう……。」

    気分を変えたくて、穹はベッドを降りて脱ぎ散らかしていた靴を履き、列車を降りて行った。





    羅浮に降り立ち、ぼーっと歩いていれば、いつの間にか長楽天にある宣夜通りまで来てしまった。
    これからどこへ行こう?
    仙人爽快茶でも飲みに行こうか。
    そう自問自答していた穹の耳に、ふと前方から声が聞こえてくる。

    「あら。穹様ではありませんか。」
    「え、あ、予衿」

    名前を呼ばれて顔を上げる。
    狐族特有の尻尾を揺らめかせながら、穹に声をかけてきたのは、洋服屋、広雲袖の女性店主だった。

    「よろしければ、お洋服を見ていきませんか?」
    「いや、俺は……」
    「あぁそうそう。最近、アクセサリーなどの小物も取り扱うようになったんですよ。」
    「アクセサリー?」

    少しだけ気になって聞き返せば、予衿はふわりと微笑みながら頷いた。

    「はい。天然石などを使っているので、多少値は張りますが、とても上等な品ですよ。」

    そう言って見せてくれたのは、色とりどりの髪飾りや指輪、耳飾りなど。
    本当にどれも綺麗で、穹は目を奪われた。

    「綺麗だな……」
    「ふふ、そうでしょう。全て職人が一つ一つ手作りしているんですよ。」
    「ふーん」

    相槌を打ちながら、アクセサリーが入っている箱を見渡していれば、ふと一つのアクセサリーが穹の目に止まった。

    「あ、これ……」
    「あぁそれは、簪ですね。手に取って見てもらって構いませんよ。」
    「いいのか?」
    「はい、どうぞ」

    そう言われて簪をそっと手に取ると、小さいものの、思っていたよりも重みを感じた。質の良い金属と天然石で出来ているらしいから、当然である。

    先端には翠色の石で作られた葉と、トパーズの石で作られた花があしらわれている。シンプルだが、気品のある簪だ。そんな簪が、何故穹の目に止まったかといえば、その理由は花を模している天然石の色にあった。

    (この石の色、景元の瞳の色と似てる……)

    そう。理由は、見覚えのある色ーーー景元の瞳と同じ色の天然石に惹かれたからだ。
    儚く美しく、力強い。そんな黄金色の石。

    景元の事を考えないようにとここまで来たのに、やっぱり考えてしまうなと穹は眉を少し下げた。

    「それが気に入られたんですか?」
    「いや、知り合いの目の色に似てて……。」

    穹がそう言えば、予衿は口元を押えてふわりと微笑んだ。

    「あら、うふふ。その人は、きっと貴方にとって特別な人なんですね。」
    「そうなのかな、はは……」

    特別な人。そうだ、景元は穹にとって、特別な人であり、特別になってはいけない人だ。
    穹はちくりと痛んだ胸に見て見ぬふりをして、誤魔化すように曖昧に笑った。

    「ああ、そういえば。実はこの間、かの将軍も店の簪を買ってくれたんですよ。」
    「……え?」
    「オーダーメイドで作ってほしいと依頼されたんです。穹様は将軍とお知り合いだからご存知だと思いますけど、あの人、物とかに無頓着でしょう?だから、自ら物を欲しがるなんて珍しいなぁと思ったんです。
    物欲のないあの人が自分のものをわざわざオーダーメイドで頼むとも考えられないですし。
    もしかしたら特別な誰かに渡すのかもしれませんね。」

    頭が、真っ白になっていく。将軍に、簪を贈るほどに特別な人が、いるのか?
    そんな考えが頭に過る。
    突然穹の様子がおかしくなったことに気付いた予衿が、心配そうに穹を見上げた。

    「あら、穹様?顔色が悪いですが…大丈夫ですか?」
    「あ、……あぁ、ごめん、大丈夫だ。……ちょっと、用事思い出したから、帰るね」
    「そうですか、わかりました。またいらして下さいね。」

    「うん」と返事をしながら、持っていた簪を返すと、穹は走り出した。
    己がどこへ向かっているのかわからない。けれど、今はどうしても早く1人になりたくて、走らずにはいられなかった。










    □□□□□




    人気のないところを探して、無心で走って、走って、走り続けて。気が付けば、穹は丹鼎司にまで来てしまっていた。
    ここは人が少なく、静かだから、今の穹にとってはとても居心地が良い。
    人も魔物もいない場所を見つけると、壁を背にずるずると座り込んだ。自分の膝に顔を埋めて、腕で膝を抱える。


    ……そうか。景元には、特別な人が、いるのか。恋人、なのだろうか。簪を贈るほどの人なのだから、きっと、そうなのだろう。

    よく考えたら、景元はあんなにも格好良いし、恋人がいない方がおかしい気がしてきた。景元の歳を考えたら、もしかしたら恋人どころか伴侶がいるかもしれない。
    景元の写真が女性に特に大人気で、良く売れると以前停雲が言っていたことを思い出す。
    顔も知らない女の人に笑いかけている景元の姿を想像し、胸が苦しくなった。

    「はは、俺って、自分で思ってたよりも景元のこと好きだったのか……。」

    知らなかったな。
    穹は自嘲しながら呟いた。滑稽だ。あんなにもこの想いを無かったことに出来たらいいのにと思っていたのに、不必要だと思っていた心だったのに。この恋心は絶対に、絶対に叶わないのだと分かっていたのに。

    いざ現実を突き付けられてしまったら、失恋してしまったら、泣いてしまうなんて。

    穹の心を表すかのように雨がぽつぽつと降り始めていたが、穹はそこを動こうとはしなかった。否、動けなかった。
    髪や肩がじわじわと濡れ、体温が奪われていくのに気付いていた。けれど、軒下に移動することも、列車に帰る気にもなれなかった。

    頭を伝って、顔に雨の雫が流れる。そしてその雫は、穹の涙と混ざり合いながら膝を濡らしていく。

    寒くて、悲しくて、苦しい。
    そんな気持ちが穹の胸を支配した。

    「う……っ……」

    穹は小さく蹲って、ただただ泣いていた。











    ◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎




    最近、避けられている気がする。気がする、というか、ほぼ避けられていることは間違いないだろう。
    以前は茶会にも、星陣棋にも、誘えば二つ返事で「いいよ!」と言ってくれていたのだが、今は全てやんわりと断られてしまう。

    街中で姿を見つけて声をかければ、何だか挙動不審で、目を合わせてくれない。何かしてしまっただろうか、と過去の自分の言動を振り返ってみても、何も心当たりがない。

    「ふむ。どうしたものか……。」

    景元はそう呟きながら、自分のスマホに視線を落としていた。
    端末画面には、穹とのメッセージ画面が表示されている。その画面をしばらく見つめてから、景元は電源を落とし、端末を懐へとしまった。

    「彦卿」
    「なに?将軍」
    「丹鼎司へ出かけてくるよ。」
    「それなら、僕も行こうか?」
    「白露の所に顔を出したら、すぐに帰ってくるから平気だ。」

    景元がそう言えば、「あぁ、いつもの診察か。」と彦卿が呟いた。景元が白露の元へと赴くのは、よくある事なのだ。

    「わかった、気をつけてね。」
    「あぁ、ありがとう。行ってくるよ。」

    景元は彦卿に丹鼎司へ行く旨を伝えると、神策府を出ていった。








    「……まさか、また抜け出しているなんて……。」

    景元は、白露に会うためにここまで赴いたのだが、その白露は今、丹鼎司を抜け出して何処かへと行っているらしい。それを聞いた景元は思わず苦笑してしまった。
    景元が思うに、おそらく金人港にでも行っているのではなかろうか。

    「ふ。でも、あの子らしいか。」

    あの子が元気ならばそれで良いと、景元は神策府へと帰るために踵を返した。

    「……おや。」

    しかしその時、先程までは晴れていたはずの空から少しずつ雨が降ってきた。顔を上げれば、いつの間にか厚い雲が空を覆っていた。
    雨は段々と強まり、景元の身体をしとどに濡らしていく。

    丹鼎司には海があり、それによって雨が降ることは特段珍しいことではない。しかし、あまりにも急なそれに景元は少しだけ驚いた。だって、少し前までは快晴だったのだから。

    丹鼎司は元々人が少ないというのに、雨が降れば本当に誰もいなくなる。
    人の気配を感じないまま、景元はゆっくりと歩き出した。どうせもう大分濡れてしまっているから、今更軒下に避難しようとも、急いで帰ろうとも、対して変わらないだろう。
    せっかくだから、雨中を散歩するのも良いかもしれない、と景元は考えたのだ。

    「……うん?」

    しかし、少し歩いた所で人の気配を感じた。
    気配がある方向を見るものの、そちらは普通、人が行くような場所ではない、建物の裏側だ。
    何か、引っかかる。
    景元は少し警戒しながら、気配を辿り建物の裏へと足を進める。しかし、目に映った気配の正体に景元は警戒を解いた。

    「……穹?」

    そこには壁に背を預け、蹲るように座っている穹の姿があった。そこは軒下ではなかったため、穹は雨に濡れてびしょびしょになってしまっていた。景元は穹に近付くが、穹は俯いたままだ。一体、こんな所で何を。

    「穹」

    景元がもう一度名前を呼んだ刹那、ぐらり、と穹の身体が横へと傾いた。しかし、咄嗟に抱き込むように支えることで、地面とぶつかることは避けられた。やはり、様子がおかしい。

    「……失礼」

    そう言って穹の様子を確認するために、濡れて額に張り付いている前髪をかき上げれば、ようやく穹の顔が見れた。思った通り、穹の瞳は固く閉ざされていた。けれど、呼吸は乱れもなく、正常だ。おそらくただ眠っているだけなのだろうと推測する。

    しかし、こんなずぶ濡れで、こんな所で、何故寝ているのか。そんなことを思いながら、景元は穹の膝裏と背中に腕を回し、抱き上げる。思っていたよりも遥かに軽いその体躯に、思わず眉を顰めてしまう。

    「ふむ。目覚めたら、何か食べさせようか。」

    ゆっくりと歩いて帰るつもりだったが、状況が変わってしまった。
    景元は身体が冷え切っている穹をしっかりと抱きしめて、早足で神策府へと戻って行った。







    ◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎




    「……ぅ、穹。すまない、起きてくれ。」
    「ん……」

    景元の声に、穹の意識が覚醒していく。

    「起きたかい?このままでは風邪を引いてしまうから、湯浴みをしてあたたまろう。」

    なんで景元がいるんだろう?ぽやぽやした頭で考える。景元は最近避けていた訳で、自分の所にいるはずがない。つまりこれは夢なのだ。
    どうやら今日は、彼と一緒にお風呂に入る夢を見ているらしい。
    そういえば、この前もそんな夢見たなぁと考えながら、景元の顔をぼんやりと見つめる。

    少し歩いて着いた先は脱衣所のようだった。ぼんやりと辺りを見ていると、景元は穹をそっと降ろして、棚に置いてある何かが入った籠を指さした。

    「あの中に、タオルと着替えが入っている。着替えは私のだから少し大きいかもしれないが、帯で調整すれば平気だろう。」

    それじゃあ、あがったら教えてくれと言う景元に、穹は不思議そうに首を傾げた。

    「……?景元は、一緒に入らないのか?」
    「私?私は、君が入った後に入ろうと思っていたんだが……。」

    景元と一緒に入るのだとばかり思っていた穹は、その言葉に驚いた。そしてその衝撃で少しずつ、ふわふわとしていた意識がはっきりとしていく。違う、これは、夢じゃない。紛れもない現実だ。そう理解した途端、穹の頭が急速に冷えていく。

    「……え、あ、え。……けい、げん?なんで、ここに、ここ、は?おれ、おれは……」
    「穹、どうかしたのかい?大丈夫だから、落ち着いて。」

    夢じゃ、ない。ならば、何故ここに、今目の前に、景元がいるのか。そもそもここは、どこなのか。何故、自分はここにいるのか。何もかも分からなくて混乱してしまう。
    狼狽える様子の穹に、景元は少し屈んで目線を合わせると、優しく声をかけた。

    「すまない、説明をするべきだったね。私は、雨の中眠っている君を見つけて、私の屋敷まで連れて来たんだ。君は今濡れていて、このままでは風邪を引いてしまう。だから、湯浴みをして、身体を温めなければ、」
    「……いらない」

    己に視線を向けているであろう景元の顔が、見れない。目線を、合わせられない。思わず目線を下げて、拒否の言葉を投げる。

    「……ごめん、俺、帰る」

    そう一言だけ呟いて、穹は景元の返事も待たずに屋敷を飛び出した。丹鼎司ほどではないが、外はまだ雨が降り続いている。
    けれど早くここを離れたくて、濡れるのも構わずに走り続ける。

    優しくしないでほしかった。これ以上、叶わぬ恋を抱いていたくなかった。もう、好きになりたくなかった。
    景元が優しいことはよく知っている。だってそこが好きなのだから。だというのに、今は景元の優しさが恨めしかった。
    どうして、景元を好きになってしまったんだろう。じわじわと涙が出てくる。

    景元には、悪いことをしてしまった。厚意を振り払うようなことをしてしまった。顔を見れなくて表情は分からなかったが、きっとびっくりした顔をしていたのだろう。嫌われてしまった、だろうか。雨の中を走りながら、穹は溢れ出る涙を手で乱暴に拭った。

    そう、手で拭ったのだ。その際に視界が塞がってしまい、前を見ていなかった。
    そのせいで、穹が踏み出した1歩は地面を踏みしめる事が、なかった。

    「……あっ?」

    穹の身体がぐらりと前方に傾いた。その際に腕が外れ、穹はようやく自分が今どこにいるのかを認識した。
    目の前には、見渡す限りの一面の海が広がっていた。そこは断崖絶壁の崖だった。

    ここは普段、転倒しても海に転げ落ちないようにと転落防止用の柵が張られているのだが、それの一部が最近魔物によって壊され、今は張られていなかった。
    その、張られていなかった部分に、たまたま穹が突っ込んできてしまったのだ。

    崖を踏み外した穹は重力に従って真っ逆さまに落ちていく。





    続きのプロットだけ

    この後様子がおかしいと心配して追いかけてきた景元さんが海に落ちていく穹くんを見て慌てて海に飛び込んで助ける。海岸まで引き上げてみたら穹くんが気を失ってて人工呼吸。
    数度繰り返して目覚めた穹くんに景元さんが安堵の息を吐く。穹くんはぼんやりと景元さんの顔を見ている。

    「……どうして俺を助けたんだ」
    「どうして?……友を助けるのは、当たり前のことだろう。」
    「海に飛び込むなんて、自殺行為にも程がある。なんで俺なんかのためにそこまで……あぁ、そっか。俺みたいな使い勝手のいい駒、失うには惜しかった?」

    助けてくれてありがとう。
    ただそう言いたかっただけなのに、穹の心は荒れ果てていて違う言葉しか出なかった。

    「君を駒扱いしたことなんて一度だってない」
    「じゃあ、なんで俺なんか助けたんだ。下手したら、二人とも死んでた。」
    「……そうだね。君となら、死んだって良かったかもしれない。」
    「は……?」

    「さっき、君はどうして助けたと聞いたね。私は友を助けると言ったが、ほかにも理由があるんだ」
    「り、ゆう……?」
    「それはね、君を愛しているからなんだ。」


    この後誤解とけてハッピーエンド。ちなみに穹はずぶ濡れになったから翌日熱が出て景元さんの家で寝ることになる。

    実はこう
    💫→→←←←←🦁


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