桜花爛漫 春。遊歩道を挟んで両脇に整然と咲き誇る桜が満開の盛りで、花吹雪が視界をその鮮やかな桜色でいっぱいに染めている。
日差しに照り返る、白に近い花弁が眩しくて目が眩むようだ。
ふいに、聞き覚えのある声を耳にした気がして足を止めた瞬間、こちらへ勢いよく飛び込んでくる影が視界の端に映り、振り返って咄嗟に抱き止める。思いもよらない重量に重心を調整して耐えると、大きく見開かれた蜂蜜色の瞳が収まった目と視線が交わる。
「ごめん!夏油先輩、怪我してねえ?!」
晴れ空の下吹雪く桜と同じ色で輝く髪色が美しくて、返事も忘れて抱き抱えた少年——虎杖悠仁に、傑は返事も忘れて見惚れてしまった。
「にいちゃん大丈夫?」
ちょうど悠仁が飛び降りてきた木の影から、小学校低学年くらいの子供がそろりと身を現す。
「お兄さんに助けてもらったから大丈夫。ほら、気いつけて持ってな。紐くるって手に巻くといいよ」
悠仁は傑に抱き抱えられたまま器用に身を捻り、木の上から取り戻したらしい赤い風船の紐を小さな手に握らせた。
子供は「ありがとう!」と元気な声を上げると、助けてくれたにいちゃんをなぜか抱っこしたままの傑に、一瞬だけ不思議そうな目配せをして駆けていく。
「先輩、もしかして俺のせいでどっか痛めた?動けない感じ?」
体幹が良いので、抱かれている間にも負担にならない体勢で傑に捕まっていた悠仁が申し訳なさそうに頭を掻く。
「ううん、悠仁が上手に飛び込んできてくれたから平気だよ。ただ君が……」
綺麗すぎて。
傑は切れ長の目をいっそう細めて、腕の中の桜のような少年を見つめる。
ぱちぱちと瞬きをした悠仁は、みるみる頬を赤く染めて、ああそれも綺麗だなと思っていたのに、すぐに身を屈めて傑の肩に顔を埋めて隠してしまう。
「なにそれ、恥ずいし……」
むずがるように掠れた声色だった。きっとその頬はより赤みを差しているに違いない。
傑が思わずくすくすと笑い声を上げると、両足をぶらぶら揺らして「平気なら降ろせよな〜も〜」と、愛らしい抵抗が返ってきた。