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    たかはし

    @ssayka

    舞い戻ってきたアスカガ民。
    こちらたまの作品置き場です。
    pass:18?(yes/no)+ 記念日

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    たかはし

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    ==Emerald Knight_13==
    開催おめでとうございます。
    二人の出逢いをアスハ邸の窓格子から振り返ったお話です。
    二人がとこしえに幸せに生きていけますように*

    #エメナイ13

    夜陰に乗じて夜陰に乗じて



     天井まで続く大きな窓枠は室内空間の上限に向かって半円と矩形が組み合わさり、その中を格子という白線が何分割かに夜空を区分けする。その少しだけクラシカルな窓は下窓だけが上下にスライドする仕様になっていて、片方だけ動くシングルハングが温暖なこの国の夜風を迎え入れる。窓越しの空はいわゆる“夜の帳が下りて”いて、赤道直下の国では永々と変わらない日の入り姿が――そこに帰ってくる者をどことなく安堵させる。  
     アスランは窓格子を眺めながらその先にある夜空までを視界に入れると、日没から目ばたきの間ごとに藍色深まる光景に…少しだけ懐かしさを感じた。昔こうして同じようにこの部屋で同じ人を待っていた思い出は、アスランの心を再び…強くする。
     するとその形の良い耳は廊下の気配を広い、その歩幅に癖のある早足は――心地よいテンポでアスラの脳内に響き渡る。
     「待たせたなア…ザラ一佐」
     ドアを開くと同時に声を掛けたカガリの息は少しだけ上がっていて、そこに先程の歩幅のテンポを掛け合わせると――その答えは“急ぎ足”の当人という解答が導かれる。
     「いや…いいえ、その間別のタスクを処理していましたので」
     カガリはお前は働きすぎなんだよとぼやきながら、ソファでいいか?と目配せと共にそこに座ると、それはどことなく…まるで数ヶ月振りに直接会った心と体の齟齬のように――アスランからほんの少しだけ目線を逸らした。そして小さく溜息を付くと、それもまた目ばたきの間のうちにスイッチを切り替えたように――そこには政治家の顔をしたカガリが佇んでいた。
     「報告を」
     「はっ」
     アスランは書類をガラス製のローテーブルに並べると、分厚い報告書の見出し毎に要点を掻い摘みながら補足を説明していく。
     「ターミナルから提供された情報を元に東アジア――主に北京近郊を査閲して参りました。ブレイクザワールドで壊滅した市内は…」
     カガリは自身の膝に肘を立てながら険しい表情でアスランの報告を受領し、そこには自邸に帰還しても尚…その緊張感のようなものは途切れることを知らず、カガリは凛とした姿を携えている。
     「――状況は分かった。しかし、極東にもやはり裏資金が流れていたか…相変わらず巧妙だな」
     「ええ、足が付かぬよう現金での送金を中継しており、送金先がより複線化されていて追うのに苦労しました。とはいえ、一度その手立てを掴んでしまえば彼らもそう簡単に新たな手法を生み出せないでしょう。尻尾を掴んだのも同然です」
     ブルーコスモスはファウンデーションとの大戦のあとも尽きることなく、一続きに世界各地で武力テロを続けていた。オーブは先の大戦からの戦勝国として世界の中でも存在感を示していたが、少なくともそれは世界を統べるための偉を備えたいのではなく、その力はウズミからの悲願であるこの時代の“軍縮”を先導するために――カガリは匆々たる日々を送っていた。アスランも引き続きターミナルに属しながらオーブ政府もといカガリ・ユラ・アスハ直々の依頼を請け負っていて、現地での調査も要するため普段は殆どがオンラインでのやりとりだが、三ヶ月に一度ほど…それは色々なものを補うように、こうして直接私邸にて報告を上げていた。
     「まぁ…推測通りモルゲンレーテから東アジアへの輸出時は精査が必要だな。ありがとう、裏付けが取れてこれで明確に指示が出せる」
     「この資金繰りから見るに荒廃した地域を利用して兵器の隠匿、リカバリーを行っている可能性は大いにあります。ご注意を」
     カガリはアスランから報告書を受け取るとその表紙に記された名前の綴りを暫く眺めていた。その表情は先程の険しいものにほんの一握りだけ柔和なものが混じっていて、カガリはこの分厚い資料のなかに含まれた――それは互いの大義とは別の…個人的な、彼の努力みたいなものを感じ取っていた。
     「…」
     「…」
     ファウンデーションとの交戦のあと、各々が大切に胸元に仕舞うアイテムとほんのひと匙の本音を――二人は交わし合った。そしてあの日の美しい太陽を目に焼き付けながら、カガリは直ぐに膨大な戦後処理に身を投じ、アスランはそのような混沌とした世界情勢の実態を明らかにすべくターミナルにて情報収集に努めた。二人が畢生の仕事以外の時間を直接共にするのはそれから片手で数えられるほどで、そんな二人の間には報告を終えたあと少しだけ…沈黙が走った。
     「…アスラン」
     「…なんだ?」
     「…今日…泊まって…いくか?」
     「は?…へっ?」 
     突然のそのような提案に、アスランはまるで雷に打たれたようにたじろぐと…どこの言語にも属さないような発語を繰り広げた。するとカガリはその誘い文句が別の意味をも表現してしまうことに気が付き、身振り手振り、慌ててその齟齬みたいなものを否定した。
     「わっ、違う!そ、そういう意味じゃなくって!」
     これほど世の老獪と腹の探り合いを重ねてきた筈なのにこの言葉選びは痛恨のミスだろうと…アスランはその濃紺の前髪を掻き分け、額を掌で覆いながら顔を伏せた。それはもし想い人たちがそれぞれの国々だったら…その一言で一国が傾いてしまうほど、それは含蓄のある特別な意味を醸成してしまうかもしれない。アスランはその赤らめた顔を上げながらも、やれやれと言った様子でカガリの方向へ居直した。
     「…分かってる。カガリも…疲れてるだろう?今日は…宿舎のほうで寝るよ」
     「いや…そういう意味でも…ただ…」
     そこには明らかに“政治家”から“一個人”に舞い戻った女性が佇んでいて、本日の出合頭と同様…カガリは少し頬を染めるようにアスランから目を逸らした。その姿はアスランの目にはいとおしく映り――本当は久しぶりの再会に冒頭から多くの理性を導入していたアスランは、先程宣言した『宿舎で寝る』という言葉をセルフに棄却したくなる。別に、共に夜を過ごすだけのことは決して悪いことでも何でもないし、どちらかと言えば彼女へ向ける感情が己の理性をいつかは浸食するだろうという予見から…それはアスランだけの軍事境界線のような、未だ見たことのない大きな“欲”への警戒によるものだった。ただ、今日のカガリはどこか少し――自分に対して何かを渇望しているような…そんな雰囲気を醸し出していて、そういうことならば先程までの一人善がりの矜持は意味を成さず、それは過去の自分を顧みるように…彼女に寄り添いたいとアスランは思った。
     「…最近、ちゃんと寝れてるのか?」
     カガリはアスランからその言葉を聞くと、その表情は図星のような、もしくはまるでお前はエスパーかとでも言いたいように――その大きくて丸い、透き通る琥珀を見開いた。
     「あっ、うん…そう…なんだ。最近上手く寝れてなくて…多分日中に頭、使いすぎちゃうんだろうな。寝つきが悪くてさ…」
     アスランは初見から気になっていたカガリの目下の隈を見つめながら、自分のそれも人の事を言えたものではなかったがーーきっと鏡越しにそのひどく疲れた自身の顔を見ても、そこに映るのは国や民のことなのだろうと…アスランはそんな彼女の思いの濃さを慮るように恭しく微笑んだ。
     「…俺が居たら…逆に寝れないんじゃないか?」
     最近カガリは俺の事を避けるからなと付け加えると、それは何か自覚があるようにカガリは耳まで赤くなった。自覚は…確かにあるとカガリは思った。それは一緒に過ごしていた頃とは異なった鮮明な感情によるもので、あの頃と今と…寝具を共にする意味はカガリにとって全く異なるものに育っていた。アスランを避けてしまっていたのも誤りはなく、彼への愛情を自覚すると同時に…その一挙一動がカガリの心を支配し、それはまるで粉物を捏ねるように…引っ張ったり、押し潰したり、その原型を留めぬよう姿かたちを変えていく。ただ、今日はそんな緊張の糸を覆すほど『一緒に居たい』という気持ちがカガリの中で導き手となり、それは胸の辺りに溢れるように――どこかくすぐったいような浮わついた感情を上書きしていく。
     「…わかんないけど……帰るなよ」
     その瞬間、カガリと同じように…アスランの胸の辺りもズキンと大きく収縮した。それは“痛み”とは異なった心臓を大きく縦に引っ張られたような感覚で、その早鐘を纏った甘い痛みは全身に走るように――アスランは言うなればドキドキした。このように自分の体に類稀なアクションを与えるのは…後にも先にも、カガリだけだとアスランは思う。
     「君という人は…本当に…」
     そう言うとうん?と上目遣いでこちらをみるカガリが――アスランの心にさらに追い打ちを掛けていく。
     「…わかった、ここにいる」
     「…そう、してくれ」
     「今日は君がよく眠れるよう…羊でも数えようか」
     「何言ってるんだ、寝るんだよお前も!その顔鏡で見たか?隈すごいぞ」
     先程心のうちで思っていたこととまるで同じことを言語化されたアスランの、そのきょとんした表情にカガリは小さく吹き出し…クスクスと笑っていた。
     「あはは、フリーズしてるぞ。さて…と、お前、お腹空いてないか?私はいよいよ腹と背中がくっつくかもしれない」
     だから食事にしようとカガリは立ち上がると、お前も来いというようアスランに手招きをした。カガリに食欲がある事は良い傾向だと思ったアスランはその意欲が少しでも活気付くよう…共に部屋を後にした。

     
     夜半から昇った月は何も遮るもののない晴天に白く光り、その柔らかい光の特性から、輪郭がぼんやりと滲んでいる。窓から差し込む月明かりはベッドに格子の影を残していて、波打つシーツに掛かる場所だけその影を歪ませる。二人はあれから食事を嗜んだあと、各々軽く湯を浴びてここに横になった。アスランは客人用の夜着を借り、その細くも筋肉質の脚に格子の影が差し掛かっている。アスランが頭の後ろで手を組みながら格子越しのその光景を酷く懐かしく追想すると、その光景はもう――遠い昔のように感じた。しかしながらあの時感じていた思いはまるで戒告のように…それを一生忘れてはいけないとアスランは自身を戒める。幾多の夜、カガリの涙を抱擁で受け止めることしか出来なかった自分は…自分よがりであの時大きく選択を誤ったにも関わらず、こうしてまた彼女の近くに息づくことを許された。そうして繋がれた生きる意思はこの先、この世界の和平と彼女自身に…惜しげなく注いでいきたいとアスランは思った。それはあの時とは異なった穏やかな感情で、踠いても踠いても触れることができなかった彼女の芯部に今は――手を伸ばせば触れることができるような気がした。

     「…寝れないんだろう…?」
     「……バレたか」
     窓に背を向いていたカガリの小さな寝息はいつのまにか止まっていて、アスランがそれを指摘するとカガリはゆっくりと仰向けに体を直した。
     「少し前から…起きてた?」
     「うん…狸寝入りしてた」
     互いに仰向けになった二人は視線を交わさず遠目に同じ窓格子を見つめていた。シングルハングの窓枠は少しだけ解放されていて、その数センチの隙間から入ってくるオーブの夜風に…レースのカーテンがふわりと舞う。静かな夜、カガリもきっと――自分と同じようにこの光景に懐かしさを感じているのではないかと…アスランは静かに推し量った。
     「あそこ…天井」
     「…ん?天井?」
     アスランはゆっくりと自身の腕を持ち上げると、その指の先に――小さく光るものがある。それは主に子供の部屋などに装飾される蛍光タイプの小さな星形のシールで、カガリのベッドの真上に…蓄光したそれがぼんやりと光っていた。
     「あぁ…あれな。そのまんまだよ」
     それはアスランがアレックスだった頃に施した仕掛けで、閣議の資料に決済書類…『ずっと下を向いたままなんだ』と、そこに何度万年筆を走らせても積まれた書類の高さの変わらないカガリがふと、星を見たいと小さく呟いたことが始まりだった。当時は短い時間でも私用の外出もままならず、資料を読むにもサインをするにも姿勢は首を垂れていき、それに伴ってカガリの肩も内に入ってしまい心なしか呼吸も浅くなっていた。追われるように肩幅の小さくなっていくカガリに、アスランは屋内で“星”が見える場所を提供した。街の玩具屋で購入した子供部屋用のそのシールを施すと、それはまるで子供騙しだったが――カガリはベッドに入る前にその夜空を見上げていた。
     「久しぶりに…上を向くことが出来た」
     そう言ってカガリはやつれた表情を少しだけほぐすと、そのまま仰向けになり…暫くその星空を眺めながら入眠していた。
     「お前を…思い出しちゃうから、殆ど撤去したんだけど――最後の一個が…剥がれなくて」
     カガリは遠巻きにその最後の言葉のニュアンスを変えながら、アスランが去った後もこの空を拠り所にしていたことを吐露した。そうしてアスランはカガリの思いを改めて知り――胸が熱くなっていくのをやにわに感じる。
     
     「羊…」
     「…うん?」
     「その…羊でも…数えるか?」
     「それ、昔も…数えてくれたことあったよな。でもアスランが数えると、眠くなるどころか頭の中に羊がどんどん溜まっていって…」
     カガリは何かを思い出したのかのように吹き出すと、アスランは天井に向かってひとり釈然としない表情をした。
     「あの時君は…寝るどころか結果的に大笑いしていたな」
     「だって…お前の声、落ち着くんだけど一回気になっちゃうと――頭ん中にどんどん蓄積されていくんだ」
     その評価は良し悪しどちらとも取れるニュアンスで、アスランは冷やかすように羊が…と呟くと、カガリは辞めろよと言いながらクスクス笑った。
     「はぁ…なんか久しぶりだな、こういうの」
     カガリは笑い声の末尾をそのような言葉に変えると、数センチしか離れていない二人の距離が――それは拳一つ分を動かせば触れることが可能なその距離を…二人は何だか永遠のように感じた。あの時必死に掴み合っていた手を…今は敢えて掴まないという選択。それは二人が得ることのできた“信頼”から生まれるもので、いつか掴み取る未来のために、物理的なものでは測ることのできない信頼の距離というものを…二人は知ることが出来きたのだった。
     「アスラン…」
     その呼びかけにアスランが反応すると、衣服が擦れる音を伴いながらカガリは窓側に向き直し、トップスから伸びるその華奢な腕を胸前に折りたたんでアスランを見つめていた。アスランもそれに応えるように…左の肘をシーツに突きながらカガリのほうへ向き直す。
     「…なんだ?」
     「…アスラン」
     「…なに?」
     「…ふふっ、アスラン…」
     カガリはアスランの名前を何度も呼びながら、ほぐした綿花のように朗らかに笑っていた。その表情はどことなく彼女の心の軽さと等しいように――カガリはケラケラと屈託なく笑っている。アスランはカガリのその笑顔が率直に美しいと思い、そんな彼女を心から――いとおしいと思った。
     「…カガリ」
     「…うん?」
     アスランの右腕は気が付くとカガリの頬に伸びていて、まるで宝石に触れるように…そのきめ細かい肌を撫でた。そして大きな瞳の下にある影を第二関節でなぞっていくと、まるでそこに心があるように――カガリは長いまつげを揺らしながらゆっくりと目を閉じた。
     「…寝れそう?」
     「…うん、動悸がしてたけど、落ち着きのほうが勝ってきた」
     「動悸?大丈夫か?…病気かストレスなん…」
     不穏な単語を耳にしてアスランは持ち前の小言を繰り広げると…カガリはアスランの唇にそっと自身の人差し指を添えて塞いだ。それはいわゆる『シー』のジェスチャーで、カガリはその地球も宇宙も関係ない万国共通の手振りでーー心配することなど何一つないことを表現した。それはまるで先程の拳一つ分の距離のように…それ以上は言わなくても分かる、二人のすべてのをも表しているようだった。
     カガリはお道化たように口元にあった指を上昇させると、月明かりの差し込んでいるアスランの鼻をやさしく摘まんだ。
     「お前は…鼻筋も綺麗だよな。摘まむのが申し訳ないようだ」
     「やめへ…くへないか…」
     「ふふっ…アスラン、おかえり」
     少しだけまぬけな表情を見せてしまったことに溜息をつくも、カガリらしい展開と会話にアスランもどこか安らぎを与えらえたようだった。そして彼女のその手振りのように、アスランは今この瞬間は…甘いふれあいみたいなものは必要のないように感じた。いつか、自分はこうして借りぐらしではなく、正々堂々と彼女の隣に立つために…アスランはここで…この身を費やしていこうと改めて思った。そうしてずっと――この綿花のような朗らかな笑顔を守っていきたいと…アスランは心に誓うのだった。
     「――ただいま。カガリ」
     二人はそうして向き合ったまま、互いに触れていた手はいつのまにか繋がれて…そこから感じる相手の脈拍と体温に安心しながら、久しぶりに深く眠った。


    ***


     今宵も月が晴天に昇り、その光は真夜中なのに“燦燦”という言葉が似合うほど――真っ白な光を放っている。そしてそれは月明かり特有の朧げを少しだけ纏っていて、窓枠に差し込まれる光はどこかふわふわと…まるで綿の花のように輪郭がまどろんでいる。アスランは少しだけ体を傾けながらその窓格子を眺めると、月明かりが二人分の脚と波打つシーツを照らし、窓格子の影はそれを柔らかく投影している。
     「…寝れないのか?」
     「…あ、いや…」
     アスランに抱きしめられながらカガリがそう切り返すと、アスランはあの時と同じように――右手の第二関節でカガリの頬を撫でた。
     「…羊でも…数えるか?」
     「だーかーらー、寝られないんだよお前のそれは」
     「俺が数えると頭の中に羊が溜まっていくんだろ?」
     「うーん、何でだろうな。お前が数えると残像というか…何だか羊が浮き彫りになっていくんだ、メーって」
     「じゃあ無機質なものならどうだ、…ハロが一体、ハロが…」
     「アハハッ、余計にダメだ。頭のなかが何かのパズルゲームみたいだ」
     カガリはそう言うとあの時と同じようにケラケラと笑いながらアスランに腕を回し、何も纏っていない自身の肌を擦り寄せた。
     夜半に昇った月はあのときと変わらず輪郭がぼんやりと滲んでいて、その月明かりは二人分の肌を照らしている。二人は一つの寝具に収まりながら笑い合っていて、時折り、どちらかが嵌めている指輪が月明かりに反射した。
     「…眠れそう?」
     「…うん…暖かい…アスランは?」
     「…あぁ…今日モルゲンレーテから…ずっと…移動で…」
     「……アスラン?」
     つい先程まで会話をしていたのが嘘のように、アスランはカガリを抱き抱えたまま夢の国に行ってしまった。
     「…よく寝るよな、ホントに」
     あのとき焚き火が反射していた頬に、今は柔らかい月明かりが差している。カガリはその寝顔に十六歳の彼を重ねながら、まるで小動物が体を丸めるように…彼の腕に収まった。
     この部屋の窓越しの夜空はいつも同じ時間に沈み、窓から見えるそれは姿を変えず…夜陰に乗じてずっと二人を見守っている。それは二人があの日出逢ってから生まれたもののように、昔と今――そして未来、ずっと変わらず…そこに在った。

     
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