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    k_ikemori

    遙か7メインで過去作ポイポーイ。

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    遙か7_長七未満。花吐き病にかかった長政様。あのお口からゲホゲホ花を吐いてもらいたかったんや…

    ##遙か7

    ケホリ、
    ここの所、喉の奥に何か引っかかるような感覚を感じていて長政は喉に手を当ててさすると柳眉を顰める。
    戦国の世に戻り次第、薬湯を煎じるように申し付けようと決め、長政は目の前のコップへと手を伸ばす。そこから香る芳しい匂いを肺一杯に堪能し、喉の奥へと流し込んだ。
    各々が好きに過ごす束の間の安寧の場。
    ここは令和の世の天野家。そして手の中には龍神の神子手ずから入れてもらったコーヒーがある。
    長政がこれを気に入っていることを知った七緒がこの家に来るたびに、気遣うように入れてくれるこのコーヒーの芳しさと甘さに顔の強張りが緩む。
    (フン、らしくもない)
    そう思いながらコーヒーを一口喉の奥に流し込むと同時に再び、ケホリと咳が出た。
    「…まったく」
    「長政さん?」
    ちょうどリビングへ現れた七緒が長政が零した呟きと咳に反応するように小首を傾げて声を掛けてきた。
    「今、咳してたようですけど風邪ですか?」
    「心配性だな、神子殿は。なに、少々違和感がするだけだ」
    くつくつと笑い長政は尊大に手を振る。
    その様子に納得のいかないように怪訝な眼差しで覗ってくる七緒は、でもと食い下がる。
    「風邪を侮ってはいけませんよ。…それで、こちらでも何人も亡くなってたりしていますし、戦国の世ともなればこっちよりもっと…」
    表情を曇らせた七緒の憂いた顔に長政は内心、舌打ちをして柳眉を寄せた。
    「心配せずとも、向こうへ帰れば薬湯を飲む。お前がそんな顔をする必要はない」
    そう言って長政は再びコーヒーへと口をつける。
    その長政の言葉にようやく安心したのか七緒の表情もホッとしたように緩んだ。
    そして訪れた一瞬の静寂を七緒の「あっ」という声が破る。
    「そうだ、長政さん、薬湯を飲むつもりならいいものがうちにもありますよ。今持ってきますね!」
    「おい」
    静止の声も聞かず、鉄砲玉のようにリビングを飛び出していった七緒に長政は何度目とも知らぬ溜息を零した。
    「…まったく、猪のような童女だな」
    呆れたように笑うと長政はまたケホリと咳をした。
    そうして持ってきた七緒が言うところの『いいもの』とは生薬を潰しただけではないかと云わんばかりの濃厚な飲み薬で、長政はそれを根気ですべて喉の奥へと流し込むと、げほげほと盛大な咳を零して心配した七緒に背中をさすられるという醜態を見せてしまう事となったが、七緒のあまりにも焦った顔が面白く、長政は声を上げて笑った。
    束の間の安寧ではあるがこの地で過ごすことが長政は心地よく感じていた。

    その足元へどこから来たのか分からぬ藤の花弁がひとつ、二人の朗らかな声を受けていた。



    ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨

    「ッ、ゲホ、ゲホッ、ッグ、ゥ…!!」
    口元を抑えて長政は人がいない場所で一人咳き込む。
    手のひらへと散ったそれに長政は柳眉を顰めると、ぐいと口元を拭う。
    「チッ」
    症状が出始めたころに、手の者に内密に探らせようやく最近その正体にたどり着いたところだった。
    「これから戦という時に忌々しい」
    正体を知った時は馬鹿馬鹿しいと激昂したものの、調べれば調べるほど長政の症状と合致し、やがては受け入れざる負えなくなった。
    知らせを持ってきた者へは口を噤むよう厳命し、これを知るのは長政とその者だけ。
    父にすら報告を上げておらず、少し前にこの地を後にした龍神の神子たちにすらこの事は言っていない。
    ──言えようはずもない。
    これに触れれば感染するという不確かな情報まである。長くはないが濃い旅路を共に過ごした仲間とも思えるような者たちに知られる訳にはいかなかった。特に、龍神の神子には。
    治療法すら分からぬこの病に、長政は苛立ちをぶつける様に手のひらをグッと握り込んだ。

    幾重にも重なった藤の花が手のひらの中でぐしゃりと歪んだ。



    ───花吐き病───
    恋い慕う相手へと伝えられぬ思いが花となって吐き出される病。
    花に触れると触れた相手も同じ病を患う事があるという記述があるが、罹患したものは極めて少なく不確かな情報である。
    今現在治療法は分かっていない。
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    k_ikemori

    DONE天文台で毎夜星を眺めてる長政さん超エモいなと思って荒ぶったけど自分で書くとそうでもないなと冷静になった…この冬の時期に七緒が出勤して初めに行うことは、分厚い上着を掴み取る事から始まる。
    裏口から入るのでそこからは望遠鏡が置いている部屋と、望遠鏡の前に陣取る人影がきっといるのだろうが、生憎とここからは見えない。
    小部屋にはそれほど大きくはない机と仮眠が出来るようベッドが置いてあり、部屋の隅にミニキッチンが付いている。凍えそうな夜はそこでコーヒーかホットココアを入れて寒空の下、それを飲みながら観測する事が至福のひと時である。
    小部屋に入って、壁に掛けてある上着が自分の物とは別にもう一つ残っていることに気付いて七緒はキュッと柳眉を寄せた。
    「…もう」
    手早く自分の上着を着込み、もう一つの上着を腕に抱くと七緒は小部屋を後にした。
    ある程度厚着をしているだろうが、分厚い防寒着があると無しでは雲泥の差だと七緒は思っている。
    小部屋のドアを閉めるとシンと静まりかえったこの場所によく響く。
    七緒が出勤した際にドアを開け閉めした音に気付かぬ人ではないのだが、放っておくと明るくなるまで望遠鏡の下から動かないような人だということを思い出す。
    ゆっくりと望遠鏡の下まで辿り着き、七緒が傍まで来たのに微動だにしない 3117

    k_ikemori

    MOURNING2015年に書き始めて放置してた景望ログを見つけました。タイトルは「まつり」ってあるのでたぶんこれから一緒にお祭りに行きましょうという話にしたかったハズ…。お祭りすら始まっていなかった…。供養供養。書簡を届けに行く道すがら、景時は馬の背から空を仰ぎ見る。
    澄んだ青空に幾つか雲が浮かび、夏らしい強い日差しが地上を照らし付ける。
    「いい天気だなぁ…」
    そう呟き、景時は暫くぶりにある休みを早々に奪取する為、馬の腹を軽く蹴って駆け出した。

    「朔ー? 朔ぅ?」
    彼女たちに宛がわれている部屋へ赴き、ひょいと覗き込む。
    連日動き回っている神子はいないだろうとあたりを付けてはきたが、妹である朔の姿がそこに無く、景時ははてと首を傾げた。
    「どこ行っちゃったのかなぁ…」
    けれど、館の外には出て行ってないようで先程まで裁縫でもしていたのか、しっかり者の妹にしては珍しく片付けもせずそのまま放置されていた。
    その時パタパタと軽やかな足音と共に咎める声が掛かる。
    「兄上! 女人の部屋を勝手に覗くなど、恥ずかしい事なさらないで下さいまし」
    「ああっ、ごめんごめん。朔いるかなぁって思ったし、戸も開いていたし…」
    妹の厳しい物言いに景時は肩を落とす。
    「もし着替えている途中だったらどうするのです」
    「いや、もう陽も高いしそれもないかなぁ…って」
    「例え話です」
    「ア、…ハイ。すみません」
    朔は大きく溜息を零すと 6990

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    k_ikemori

    CAN’T MAKE遙か7_兼七。前半はTwitterに上げててそれと対になる様にとED後のやつも書きたかったんだ…合歓木


    長雨が続き、しばらく道中の宿にて逗留を余儀なくされていたが、数日たった今日、ようやく雨が上がった。
    足元は雨上がりのためいいとは言い難いが、本来の行程を歩むべく一行は宿を後にした。
    しばらく歩き続けたそんな折に、ふと山際へと視線を向けて歩く兼続に気付き、七緒は不思議に思って横へ並ぶと声をかけた。
    「兼続さん?なにか気になることでもありましたか?」
    「ん、神子殿。ああ、大したことではないのだが…」
    そう言いつつ、つい、と指を木々へと向ける。
    「陽を浴びて新緑眩しいこの時期に、撫子色のアレは目を惹くなと思ってな」
    兼続がいうアレとはいったい何なのかと、指さす方へ視線を凝らせば、確かに緑の中にちらちらとピンク色の綿毛のようなものがあり、七緒は納得の声を上げる。
    「ネムノキですね。確かに、この時期に木に花が咲くのってあまりないからついつい目が留まってしまいますね。ふわふわの綿毛みたいで可愛いですよね」
    「……ああ、その通りだな」
    くつくつと笑い、兼続はちらりと視線だけで七緒へ視線を合わせるとにんまりと口角を上げて笑う。

    「神子殿に似て、愛らしいと思って見ていたんだぜ」





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