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    NanChicken

    @NanChicken

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    NanChicken

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    一年以上前の書きかけを供養がてらにここに置きます
    未完です

    女審神者が出てきて喋ります
    初期刀は蜂須賀
    初鍛刀は前田

    極修行システムが導入される前の設定となっております

    本丸に遡行軍の小隊が侵入した。


    門の立番だった長曾根は重傷を負いながらも警報を鳴らす。
    すぐさま臨戦態勢を取るが審神者が執務室に居ない。
    長曾根昏倒のため侵入された敵の数が判然としない中、蜂須賀は必死で審神者を探した。

     審神者は、かねてより政府から送られてきている様々な連絡文書と、自らが就任する前の歴史修正主義者の動向、それに対する政府〈保護主義側〉の対応策、ことに刀剣男士の派兵に至る記録を調べていた。資料館代わりに使っていたのは蔵の一つであった。

     不意に警報が轟く。
     資料を戻し、出口へ向かうと、扉は既に破壊されて、一振りの大太刀が開け放たれた戸口にシルエットとなって立っていた。





     剣戟と叫ぶ声の響く中、主の居場所はどこか、と蜂須賀が問い歩くと離れの資料蔵へ向かう姿を前田が見ていた。
    前田と、手近にいた次郎太刀、山姥切国広と離れへ向かい、倒れた数振りの仲間の先で、蔵の扉が破壊されているのを発見。
    走り込むと、大太刀は抜刀せず審神者を組み敷いていた。審神者の白い肌が露わにされかかっている。


    「主から手を離せ!」
    大太刀が何をしようとしているのか、考えたくもなかった。


     時間遡行軍が本丸に侵入する事件は散発的に起こっていた。ある本丸では、両脚を切断されて見動きできない薬研の眼前で、審神者が敵兵に凌辱されたのち斬殺された。
     遡行軍は、少人数部隊で本丸を襲い、雑踏に紛れて噂の形でその被害を流布した。政府軍の審神者に精神的な動揺を与え、戦線離脱する者を増やすことが目的と考えられていた。老若男女を問わず、侵入を許した本丸の審神者のうちの何割かは刀剣男士の目の前でボロ布のように犯され殺害されていき、それは決して無視できる数ではなかった。
     少数で唐突に現れる敵の完全な補足は困難で、被害本丸は減らない。政府は注意喚起のみを淡々と流し、このことを秘匿しようとしていたが、口づてに流布された噂は広がり、蜂須賀の耳にも届いていた。


     敵大太刀は審神者の頸に手をかけた。それは無言の脅迫。
    守るべき主君が人質に取られている。蜂須賀たちは躊躇した。あの手で締め上げられたら人間の脆い体はすぐ壊れてしまう。


     するりと前に出た前田が銃兵を展開した。
    「目標は頭部。絶対に主君に当てるな。撃ち方用意!」
     大太刀はそれを見ると頸を掴むのと反対の手で半裸の審神者の胴を掴んで持ち上げ、土壁にぐっと押し付けた。
    「撃つな!主に当たる」
     山姥切が叫び、ギリギリで銃兵は銃口を下ろす。


     審神者は意識を保っていた。骨を僅かな革で包んだような手で掴まれた脇に、ひりつく感覚。自分の体重がそのまま皮膚を引き攣って、重力に従って落ちたがる肋骨が軋む。打ち据えられた壁が、むしろ支えになった。
    射し込む光が、残った着物を剥ぎ取り始めた敵大太刀の背を照らす。審神者に抵抗する腕力はない。
    これまでか。


    (なに…黒髪…?まっすぐ…)
     不意に審神者は自分を害している敵兵の立ち姿に、二重写しにぶれているような揺らぎを見て取った。駆けつけてくれた刀剣たちに目を向けて気を取られているが、不自然に上半身の膨れた歪んだ巨体はノイズのようにチラついて、見覚えあるシルエットが見え隠れする。長い黒髪。大きな袖。


    「……た、ろうたち?」


     ぴくり、と微かな動揺が、脇腹に伝わる。大太刀はゆっくりとこちらへ向き直った。ブレは一層チラついて、ただ黒い瞳だけがはっきりと見て取れる。そこに宿った感情は驚きだろうか。
    「…兄貴?」
    よく響く声。人垣の向こうの次郎太刀にも何か見えたらしい。
    この大太刀は。
    望みが見えたような気がした。
    「呼んで、次郎!兄の名を!」
    声を振り絞って審神者が叫ぶ。次郎は頷いた。ともに呼ぶ。
    「目を覚ませ、太郎太刀!」
    大太刀は息を呑んだ。
    ややあって、ふぅ、と息を吐き出したとき、その姿はもはや遡行軍のそれではなかった。


     眼前の白い肉体に気づき、ひどく狼狽した彼は手を引いた。
    「…私は…いったい…何を………?」
    審神者が落下するのと、前田藤四郎が飛び込んで来たのはほぼ同時。寸でのところで床へ叩きつけられずに済んだ。
    「主君!こちらへ」
    「これはどういうことだ…太郎太刀!」
    「兄貴、説明しとくれよ!」
     ドカドカと踏み込んでくる刀剣たち。周囲に刃が林立する中、この本丸には未だ顕現していない刀剣男士である太郎太刀は、呆然と己の手を見た。
     と、唐突に顕現が解け、囲みの床に一振りの大太刀が転がる音が響いた。


    「主っ…すまない…俺たちがいながら………」
    山姥切が差し出した布をひったくって審神者を包んだ蜂須賀は、もうその先言葉にならず、ひたすら彼女をぎゅうと抱きしめるしかなかった。
     肩を伝う温かいものが、身を震わす蜂須賀の涙だと気がついて初めて、審神者はどうやら生き残れたらしいことを理解した。冷えた身に体温が戻ってくる。ここに至って、あちこちの痛みと恐怖が蘇る。ガクガクと震えだした身体を蜂須賀は丁寧に覆い直してくれて、主を抱きかかえてゆっくりと立ち上がった。


     倉庫の外から陸奥守の声が届いた。
    「おい、向こうは片付いたぜよ!もう残りはおらん。蜂須賀ここかぁ」
    返り血で染まった長谷部とともに倉庫を覗き込む。
    「こりゃぁいったい…どうしたがだ。主は無事やろうな?」


    「折りましょう!今すぐ!」
    前田は怒りを抑えることなく言い放った。本体を掴んだ手は白く血の気が失せ、握りしめる強さを物語る。
    「主君にあのような辱めを………、、、」
    こみ上げる怒りと涙で言葉に詰まった前田の肩を、脇から抱き寄せ、落ち着かせるように支えながら、山姥切国広があとを継いだ。
    「遡行軍の元で使われた刀だ。このままにはできない。いいな、次郎」
    「そりゃあもちろん、このままにしとくことはできないさ。そんなことアタシだってわかってる。…でもさ、兄貴は自分からあんなことできる刀じゃないってことをアタシは知ってる。折るにしたって、事情だけは聞いてやりたいよ…」
    「次郎様がお出来にならないのでしたら、この前田が!」


    「待って。蜂須賀お願い、止まってください」
    後ろで交わされるやり取りを聞き流すことはできなかった。震えている場合ではない。侵入を許してしまった本丸の責任者として、最後まで始末をつけねばならない。
     審神者は渋る蜂須賀に、下ろすよう指示して、すっぽり布をかぶったまま一同の前に立った。足が小刻みに揺れる。蜂須賀は傍らに跪き主を支えた。
    「生かして話を聞ければ、政府の役に立つかも知れません…。前田、ありがとう。私は大丈夫。」
    「主君、そのように仰らないでください」
    「いえ…私は大丈夫です。皆のおかげでこうして立っています。ありがとうございました」
     深く一礼して、そのまま蹌踉めく。蜂須賀に支えられ起き上がる。
    「もう無理だ」
    「いいえ、まだ。陸奥守…誰かと一緒にその大太刀を錠のかかる箱へ入れて鍛錬所へ運んでおいてください。危険があるかもしれないので一人では作業しないでくださいね。」
    「おう。まかしちょけ。と言いたいとこじゃが、それでいいがか?中から仲間の手引きをされたら、かなわんぜよ」
    「不安はあります。箱に複数の見張りを立ててください。大太刀に立ち向かえる刃選はあなたに任せます。」
    「主、本気で言っているのか。本丸内に敵の刀剣を置いておくなんて、近侍としてとうてい承服できない。」
    蜂須賀が異議を唱えた。前田も大きく頷いている。
    「ずっと置き続けるわけではありません。…必ず何らかの処分をします。それとも虎徹の真作は大太刀一振りに恐れをなすような刀でしたか?」
    「なっ……」
    「私の率いる部隊はそんなヤワと言いたいのですか」
    蜂須賀はそれ以上反論することを諦めた。この主は弱いかと思うととてつもない頑固さを見せることがある。自分が片時も主のそばを離れず、警護するしかあるまい。審神者は指示を続けた。
    「長谷部、被害の全容をまとめて報告してください。政府へ通報することも忘れないでください。敵の刀剣を確保したとわかれば調査団が来るかもしれません。…折れたものはいますか?」
     もし誰か折れていたら、自分のせいだ。審神者はさっきとは違う恐怖に身震いした。
    「報告、お任せ下さい。負傷に関して、今わかる範囲では長曾根と堀川、今剣と秋田が重傷です。幸い折れてはおりません。ほか何振りか怪我していますが中傷程度のものです。見回って負傷者の数もご報告いたします」
     長谷部の返答が最悪の知らせではなかったことに審神者は僅かながら安堵する。襲撃を受けて破壊刀剣無し。これは極めて稀と言っていい。
    「わかりました。怪我したものは手入れ部屋へ。札を使って構いません。」
    「主、まずあなたの手当だ。怪我があるだろう」
    そう言って蜂須賀は審神者を再び抱えあげた。
    「ここはこれまでだ。手の空いたものは長谷部と陸奥守の補佐を」
    金色の初期刀は皆の応諾を確認して歩きだす。
    「薬研の負傷具合はどうかな。動けるなら主の部屋まで来てほしいんだ」
    「わかった。行かせる」
    布を差し出した山姥切からは、俯き加減ではあったがいつもどおり簡潔な返答が返り、蜂須賀は
    「頼むよ」
    と言い添えることを忘れなかった。



    翌日。
    「折ってください」
    警戒する刀剣男士たちの前で、再び顕現されると、審神者の顔を見るなり太郎太刀は囁くようにそう漏らした。
    「あなたのお話を聞かせてはいただけませんか」
    「操られていたとはいえども、神に使える身でありながら、女人にあのような行ないを…赦されるべきことではありません。どうか私を折ってください」
    もともと色白の大太刀の肌は、薄暗い鍛錬所のぼんやりした灯りの中でもはっきりと白かった。縄を打たれ項垂れる彼を見下ろし、蜂須賀が言った。
    「あなたははじめから遡行軍の刀であったのか。そうでないなら、なぜこの本丸を襲ったのか。俺はあなたを許すつもりはないが、そのように言うくらいなら、せめて返答で主の役に立ってもらいたい。」
    「………私には答えられません。その答えを持ち合わせていないのです」
    「遡行軍にあくまでも忠誠を誓うということか!」
    「蜂須賀。待って。持ち合わせていない、というのはどういう意味ですか、太郎太刀」
    「言葉どおりです、審神者殿。私は…ここへ来るまでの覚えがないのです。誰かに揮われていたのでしょうか」
    「あなたの…今代の主は誰ですか」
    「……わかりません…」
    「遡行軍に属する審神者ですか」
    「……申し訳ありません…わからないのです…」


     こんのすけが呼ばれ、遺失届の出されている太郎太刀の検索が指示されたが、結局彼がどこで誰に顕現されたのか、判明しなかった。微小文字で本体に刻まれた個体識別番号が潰されていたのである。


    「個を奪い、記憶を奪い、使役する。これが彼らのやり口なのですね」
     喉元にまだ青黒い痣が残る審神者の声は、深く沈んだ海の底から聞こえるようであった。
     倒すべき敵の中に、味方であるべき刀剣男士が混じっているということ。兄弟刀と、縁のある刀と、殺しあっているのか。
     それは暗澹たる事実であった。
     執務室の隣に設えた軍議のための小部屋には、本丸運営の中心的な者たちが集まっていた。
    「一見、他の太郎太刀と違いはわからない。だが、記憶操作ができるなら、遡行軍の兵として使役するためのスイッチもどこかに仕込まれていると考えるのが妥当だろうね」と蜂須賀。
    「そうろうね。事実、あいとはここへ侵入した敵大太刀ながやき。のう、主。消された記憶を語らせるのは、いかんじゃーないががか?」と陸奥守。
    「確認した範囲では、こちらの戦力たる刀剣男士で、本体を敵に刃物として利用された例はあっても、あのように付喪神としての肉体までを敵兵として利用された例は見つかりませんでした。審神者様、ワタクシめは政府への移送を提案いたします」とこんのすけ。
    「折るのは容易いですが、審神者様のお考えどおり、敵のやり口を調べるよすがになるように思います」
    「こんのすけ。迂闊に送って、政府内の情報を盗まれたち、大へごなことになるぞ」
    陸奥守の心配は尽きない。
    「いくらなんでも、政府はそれほど間抜けではないとは思うが、俺はやはり最終的にここで折るのが良いと思っているよ。したことのケリはつけて貰う必要があるからね」
    そう口にしながら、蜂須賀はまだ生々しい記憶を反芻した。
     したこと。
     主への狼藉。
    (贋作とはいえ)虎徹を名乗る物への破壊行為。育ちの良い蜂須賀は、悪口雑言で罵ることはないが、業腹が収まってはいなかった。できることならあの場で折ってしまいたかった。本丸の殆どの刀剣が同じ意見だろう。
    「あれが、あの太郎太刀でなければ、被害はもっと甚大だったかも知れぬな」
    「三日月、どういう意味だ?」
     三日月宗近は、内務はあまり担わないものの、この本丸では高練度の太刀として重用されて来ていた。昨日は折悪しく遠征に出ており、戻って状況を知らされたうちの一振りである。
    「大太刀がもし本丸内で本気の殺戮をしたら、被害刀剣はもっと出ただろう。長谷部がまとめた、あの日の敵の動きの記録では、資料蔵までの道のりで大太刀に出くわしたものは短刀と脇差ばかり。皆払い飛ばされているが、重傷や折れたものは居らなんだ。膂力に勝る大太刀が、先頭に立ってお前たちを斬り伏せる役に回らなかったというのも違和感がある。」
     審神者が頷いて、後を継いだ。
    「そこです。敵は、彼を完全には洗脳しきれなかったのではないでしょうか。遡行軍の指揮命令には従って動いていましたが、無意識に仲間の破壊を避けたのでは…という気がします」
    「推測かい?俺は性善説は採用できない。俺たちはヒトではなく道具。揮う者の心が破壊を良しとするなら、応じるのが当然だからね。
    それともあなたは霊力で何かを感じたのかな?…そうだ、俺はあのとき、あなたがどうして彼を太郎太刀だと見抜いたのか不思議だったんだ。俺には敵にしか見えなかった」
    蜂須賀の疑問も無理からぬものである。
    陸奥守が重ねて聞く。
    「主は、太郎太刀を知っちょったがかえ?」
    「なぜでしょう…見えた、としか…。太郎太刀は、先輩の本丸の近侍を任されていますから、何度も会ったことはありました。次郎太刀も気づきましたね」
    「先輩?ああ、ときどき主が出向いているあの本丸の。なるほど。そういえば太郎太刀の話を少し聞いたね。随行はいつも前田に任せていたから気にしていなかった」
    「次郎は縁があるから、というこらぁな。俺はその場を見ちゃーせんからわからんが、さすが主だな。…それにしたち、まっじき蔵に向かうというのもへごな行動だなぁ。主の居場所まじゃーわからなかったと思うけんど」
    「まっすぐ蔵へ…」
     三日月が反芻する。
    「蔵には通常何がある?資源と…」
    蜂須賀と審神者はハッと顔を見合わせた。
    「こんのすけ、今まで襲撃された本丸では、蔵の刀剣が盗まれていたのでは?調べられますか」
    「おそらく非公開ですが…見てみましょう」
     こんのすけの前に展開、投影されたモニター画面を、データの羅列が流れていく。これだけの本丸が被害を受けているのかと、あらためて一同からため息が漏れた。
    「ああ、やはり情報は限定的です。政府関係者でも閲覧権限を付与された者しか見ることができません。日付と事件番号のほかは審神者の生死と、破壊刀剣の数、その後の本丸継続の有無…あとは敵の大まかな数くらいのものですね。盗難刀剣についてはわかりません」
    敵の数は、具体的な数字に混じって、数え切れないほど多かったことを示す「夥」と少ないことを示す「寡」の表示。生存率の低い現場では数など把握できないのはしかたない。
    夥しい数を前に絶望的な防衛戦を強いられた本丸の無念を思うと、胸が痛んだが、意外にも少数での侵入が多いということに気づく。
    「殲滅目的とは思えぬ事件があるようだな」
    「生死不明の審神者も僅かながらいるようですね。焼け野原で見つからないのか、拐かされてしまったのか」
    「…あるいは寝返ったかの」
    「え?三日月、それはいくらなんでも」
    「無いとは言い切れない。顕現前の刀剣を盗み出して、敵方の審神者に顕現させれば、主が誰かわからない刀剣男士の出来上がりだ。きっと盗まれているだろう。はじめから強盗目的ならば」
    その言葉を受けて、陸奥守が下を向いたままボソリと呟いた。
    「のう、まさか、あいつらが合戦場で落としていく刀剣の出処は…?」
    「いえ、それは違います。」
    こんのすけがはっきり否定した。
    「政府が行った調査で、敵を倒したあとに残された刀剣は新規シリアルナンバーのものと判明しています。各本丸で鍛刀されるのと同じ機構が働いて、倒した敵兵から得られた資源をもとにランダム生成されているのです。なぜそうなるのか、未だはっきりとはわかっていませんが、皆様方が纏う審神者様の霊力と、合戦で生まれた動的エネルギーが関与していると言われています」
    「審神者の霊力が効いているなら、うちへ来るべき物達ということだね」
    「おっしゃるとおりです蜂須賀様」
    ならば、問題はやはり太郎太刀のように敵に使役されている物達に絞られる。とはいえ。
    「どれだけの刀剣が敵の手に渡っているかわからない…」
    「ことはうちばあの話じゃーすまないがやないがか」
    しん…と沈んだ空気を打ち消すように、部屋の外から声がかかった。
    「蜂須賀。戻ったぞ」長谷部の声だ。
    すっと戸を開けて入ってきた彼は、目を剥いた。
    「主、起きておられて大丈夫なのですか!まだ傷が癒えておられぬでしょう。蜂須賀、貴様がいながらどういうことだ」
    審神者の肋骨にはひびが入っていた。
    「私が無理を言ったのです、長谷部。こうして寄りかかっていれば問題ありません。それより、政府からなにか口頭での指示はありましたか」
    「は。失礼致しました。ご指示どおり担当の係官に報告書の付属書類をお届けして参りました。太郎太刀の身柄をいかにするかも含め、後ほど沙汰があるそうです。それまでは厳重に管理せよと」


     それからの数日は目まぐるしいもので、特定されてしまった本丸の座標変換と緊急メンテナンスが行われ、審神者は審神者たちのための人医のいる政府の直営病院へ搬送された。
     本丸を離れないと言い張ったが、薬研が「俺っちの手には負えねぇぜ」といい、長谷部と蜂須賀二人がかりで説得した。例の如く前田が身の回りの世話を任されて付き添い、長谷部は見送った後でたいそう悔しい顔をした。


     湿気のこもった半地下の部屋までは日の光は届かない。部屋と言えども土間である。柵で区切られた小さな牢で、虜囚は一人静かに座っていた。
    「兄貴」
    「次郎。ここへ来るべきではないと、言ったつもりでしたが。」
    「アタシは見咎められるようなヘマはしないよ」
    「そういう意味ではありません」
    「…まだ自分が暴れるかもって思ってんのかい?」
    返事はない。
    「これさ、握り飯。来る途中に歌仙がこっそりくれたんだよ。兄貴にって」
    「…」
    「捕虜に対して人道的扱いができないような軍は主の時代には一流とは呼べないからね、って。ね、少しお食べよ」
    「…」
    「兄貴…神様んとこでずっと暮らした兄貴には隠し事はできないって、アタシはわかってるよ。でもさ、なんか些細なことでもいいんだ。思い出したらさ…アタシに教えとくれよ…ね?」
    「…」
    「ここ置いとくよ。蜂須賀に見つかると歌仙が叱られちまう。残さないでね。また来るよ」






    (未完)
    そのうち仕上げるかも…
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏💞
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    Replies from the creator

    NanChicken

    MOURNING手入れバグ回の、漫画にならなかった部分の切り落とし詰め合わせ供養。単純に時系列で並べ直してあります
    いつかの遅刻組本丸
    審神者がいます
    文章の切れっぱしを単純に時系列にしただけで、小説にもなっていませんが、漫画の前後のことが入ってます。読まなくても良いあれこれ。
    ある数日間の余録審神者は決して大人しく泣き寝入りする男ではなかった。かつて、この本丸への途絶したルートを、力づくで再開通させた男である。
    一報を入れた古今伝授には、「すぐ修理させるから歌仙の身体の安全を確保しろ」と伝えた後、政府の設備管理サポートを行う部署へ猛然と食って掛かった。
    決して安くはないコストを負担して、他の本丸ではそうそう受け入れないという政府純正の定期メンテナンスを受けてきた。このトラブルの少し前にも保守点検が行われ、完了報告を受け取っているのだ。
    「とにかく一番腕の立つ技師を寄越してください。ボンクラは要らない。前回のメンテでどこか狂ったのは明らかでしょう。
    大事な初期刀を失うような事態が、政府の手落ちで起こるなんてことが許されるはずもない。我々審神者は軍属とはいえ一国一城の主。国家賠償の訴訟も辞さないつもりでおりますが?」
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