「これ!浜風にお土産!」
「何だよ急に。」
男性更衣室で、突然浜風に声を掛けてきたのは、スーシィだった。
「ほら、この前社員旅行で俺たち温泉に行ったんだけど、浜風は留守番だったじゃん?浜風たちは、別日に行くらしいけど、寂しいと思って買ってきた!」
「そんな事別にいいのに。」
「はははっ!そんな事言うなって!ほら、開けてみろよ、めちゃくちゃいいの見つけたんだぜ!」
浜風がやれやれと思いつつも、お土産の包み紙をビリッと破く。中にはもふもふの黒い犬のストラップが入っていた。どこかしら、目付きが鋭い。
「見ろよっ!浜風そっくりの犬のキーホルダーだよな!運命的な出会いしたわ!」
「......、俺いつもこんな険しい顔をしてるのか...?」
「おうっ!いつもそんな顔してるぜ!」
「そうか...、ふっ...。」
「お、気に入ったか?浜風?」
「ああ、ありがたく貰うよ。」
そう言って、ポケットにキーホルダーを自分用のロッカーに優しく引っ掛ける。スーシィはとてもニコニコしている。
「俺はこの犬のキーホルダーにしたんだぜ!柴犬の、めちゃくちゃ目がキラキラしてるから買った!」
そう言って、ロッカーの中から柴犬のキーホルダーを出してくる。めちゃくちゃキョトンとした顔をしている。
「げっ、つまりお前とお揃いって事か!」
「ん?ダメか?」
「いい歳したおっさん2人が、付けるものか?普通?」
「んえ?別に気にならないぜ、俺は?」
キョトンとした顔はまさに、スーシィが持っている柴犬のキーホルダーそのものの顔をしていた。呆れつつも、その顔を見た浜風はフッと笑う。
スーシィもキーホルダーをロッカーに戻し、仕事服に着替える。と言っても、普段から仕事服でいる事が多いスーシィは、似たような服を適当に着るだけだ。だらしないぞと言い、服の襟を治してあげる浜風。
「お前はかーちゃんか。」
「...、黙ってろ。」
「はははっ!」
黙々と着替えをする浜風の横で、よいしょよいしょと声を出しながら着替えるスーシィ。
「お前、ご飯食ってない割には筋肉あるよな。」
「うーん、正直腹がぷよってるから何とも言えん。」
「え?それでぷよってる?」
「浜風からしたらそう見えると思うけど、俺からしたらぷよってるんだよ。ほらっ。」
そう言うと、自分の腹の肉をつまみ出すスーシィ。たしかに、若干摘めるが...。
「いやいや、全然問題ないから。てかお前、体重何キロなんだよ。」
「しらね!」
「知らねって...、ほら、そこに体重計あるから乗ってみろよ。」
「うぃ〜。」
面倒くさそうに体重計に乗るスーシィ。数秒後、65キロの数値が出る。
「お前...、その身長で60キロ台とか...。」
「ブーブー言うなよー。」
「正直俺の方があるぞ。」
「別にいいだろー、お前はかーちゃんか!」
「...、黙れ。」
「ルーシィだって50キロ位だから変わんないって。」
「いや、女と男の体重を一緒にするな。」
どうでもいいだろー!と文句を言うスーシィに飯を食えと怒る浜風。それを近くで聞いてたのか、ロッカーの後ろから声が聞こえた。
「ちょっとー、2人でイチャイチャしないでくださいよー。聞いてるこっちが恥ずかしくなりますよー。」
その声は勝海だ。その一言に「俺はイチャついてない!」と大声を出す浜風と「別にいいじゃーん」と茶化すスーシィ。
「今日は2人で巡回ですか?」
「いや、今日は単独だ。たまたまロッカーの着替えタイミングが同じなだけだ。」
「へぇー、浜風さんはそうなんですね。」
「そう言えば、氷河は?」
「ああ、氷河はもう少しでここに来ると思いますよ。」
「そうか、それじゃあうるさいおっさん2人はここから出るよ。」
「おっさんではない、まだ俺は若いぞ浜風!」
「うるさいスーシィ。お前は少し多めにタバコでも吸ってろ!」
「ひっでぇー。」
「え!俺は別にうるさいとか思ってませんよ!?」
「ふっ、冗談だよ、勝海。」
その一言は、スーシィを驚かせる。あの浜風が冗談を言うことに。そして、何故か懐かしさを感じる一瞬であった。その顔を見た浜風は「気持ち悪い顔してんな」と一言。なんだと!と浜風の背後でギャンギャン喚くスーシィ。扉を開けた瞬間、その光景を偶然見てしまい、ドン引く氷河。その後ろではあわあわしている暁。
魚抗の一日はこうして始まる。