神父と淫魔 №6 穏やかな日差しの中、教会の裏手にある神父達の家の庭で風信神父と慕情がいる。
ティーカップにお茶を注ぎ、木目の綺麗なテーブルの前に座る慕情の前にそれを置いた。
「ありがとうございます」
「お口に合うと良いのですが」
穏やかに微笑む神父に内心半目になりながら慕情もにっこりと笑う。
「いただきます」
美しい所作でカップを持ち上げ一口飲んだ。
「これは……」
「いかがですか」
「美味しいですね」
「お口に合ったようで何よりです」
「とても美味しいですが、はじめて飲んだ味です。これは?」
「街の外れにある畑で栽培されている茶葉で、この街の特産物になる予定のものです」
「そうなのですね」
「私もとても美味しいと感じたのであなたにも飲んで欲しくなりまして用意しました」
「それは……とても嬉しいですね」
表面上はにこやかに話しているが、お互い相手の様子をずっと観察している。
そして二人ともそれに気がついている。
「せっかくですから一緒に食べましょう」
そう言って神父は机の上に置かれていたアップルパイを切り分けて慕情の前に置いた。
別の椅子の前にも紅茶とアップルパイがのった皿を置いて、慕情の向かい側へ座る。
そうして風信はアップルパイを一口食べた。
「扶揺くんのアップルパイはいつ食べても美味しいですね」
「そう言ってもらえると兄としては嬉しい限りです」
ニコニコと笑い合いながらなんとも殺伐な空気が流れる。
「神父様は」
「風信でいいですよ」
「……神父様と呼ばれるのは嫌ですか」
「呼ばれるのがいやというよりは、貴方を名前で呼びたいですね」
「だから自分も名前で呼べと? ……まぁ、いいですよ。ただしそのふざけた話し方をやめるなら」
「ふざけてる……か」
「普段はそんな話し方はしてないんだろう、神父様?」
「ははっ。やっぱりばれていたか」
「話し方が不自然だったからな。いかにもとってつけたようだった。ばれないわけないだろう」
「『初対面』の相手だから気を遣ったんだ」
いやにトゲがある言い方に慕情は思わず眉を顰めた。
「以前どこかで……?」
「さぁな。どうだったかな」
そう言って風信は背もたれに凭れ腕を組み明らかに不服そうだった。
これだけ特徴的な男に会ったことがあるなら忘れるわけがないと慕情は思う。
記憶力には自信がある。少なくともここ数十年ではあり得ない。
――人間の姿が変わるのは早い。こいつが子供の頃なら会っていたとしも分かるわけが無い――
いや、それよりも、もしそうなら、この男は慕情が人では無いことを知っていると言うことだ。
慕情が風信を睨めつける。
その視線をどう受け取ったのか、風信は口を尖らせた。
「お前にとってはどうでも良いことなんだろう」
「…………」
慕情は風信の言葉に半眼になった。
「なぜ私がそんな態度を取られないといけない」
「そんな態度?」
「何に拗ねているのか知らないが、八つ当たりはやめろ」
慕情の言葉に、風信は勢い立ち上がり口を大きく開けたが、何度かそれを開いたり閉じたりしただけで何も言わなかった。
口を引き結んで何やら不服そうな顔をして、どかりと椅子に座り直すと足を組んで膝に肘をつき頬杖をして慕情から視線を反らした。
「言いたいことがあるなら言えばいい」
慕情が呆れながら言うと、風信は小さく舌打ちをして
「言えるものなら言っている」
と慕情には聞こえないぐらい小さく呟いた。