私と貴方と貴方と私④ 嘘ではない。
そう、嘘はギリギリついていない。
魅力的な女性の身体に入ってしまった男性。
少しこの女性が気になり始めているという風を装っただけだ。
「この女性の事について知りたいのだが……」「入れ替わってしまい、いつ戻れるか分からないんだ。知りたいと思っても不思議はないだろう?」「精神は私でも、肉体は魅力的なバーソロミュー嬢ならば、食の好み等、そちらに寄るかもしれないし、寄せた方が肉体的にいいかもしれないしね」「恋人である君のそばならばリラックスするかと思ったのだが、そうでもないね。精神は私だからか」「彼女の事をもっと知りたくなった」
それに対してパーシヴァルは凍りつくような目線と、身体の芯から冷えるような声で対応してくれた。
「貴方が知る必要はないかと」「彼女が魅力的なのは認めるが、今は戻る事に全力を注がれては?」「戻るのに貴方の意見が必要かと意識を奪う事も拘束もしておりませんが、必要以上に彼女の事を詮索するなら仕方なしと判断する」
ちょっとつついただけなのに、癖になりそうである。というか、なっている。
思う存分、楽しんでいれば、部屋の通信機器が鳴る。
因みにこの部屋は“バーソロミュー”の部屋ではない。ドアがパーシヴァルにより壊されてしまった為、急遽、別室をあてがわれたのだ。
キャスターがやってきて、外側からしか鍵が開け閉めできないように魔術をかけた、正体不明のサーヴァントを軟禁する為に急遽こしらえられた部屋である。
通信機器のボタンを押せば、モニターにダ・ヴィンチが映った。
『パーシヴァル、“お客様”の対応中、悪いんだが、管制室まできて欲しい』
「……今でなければいけないのかい?」
『うん至急』
パーシヴァルはバーソロミューを見下ろすと、「彼女の身体に傷一本つけぬように」と言ってドアから出ていった。
ガチャと鍵がかけられ、気配と足音と鎧の音が去っていく。
バーソロミューは音が完全に聞こえなくなるまで待ってから、ベッドにダイブした。
「か、かっこいい〜!」
ゴロンゴロンと転がって、「かっこいい」を連発する。
「なにあれかっこよすぎる! 私のパーシヴァルじゃないのが残念だが、いや私のパーシヴァルに同じ事されたら泣くな、うん! 別世界だから純粋に楽しめる! ちょっと写真とか撮っては駄目だろうか? 持っていけないか、ざんねん!」
しかし引き際は見極めないとな。
帰ってきたらネタバラシを、いや、もう少しだけ。
パーシヴァルの敵に向けるような冷たい表情を思いだしてはゴロンゴロンと転がり、声の冷たさを思いだしてはまた転がり、身体のゾクゾクを発散させる為に思う存分ゴロンゴロンとした後、「おや?」と気がつく。
丸テーブルの上に日記が置いてある。
“バーソロミュー”の日記だ。
そうだと思いつく。バーソロミュー嬢にはこんなにいい思いをささてもらったのだ。パーシヴァルがどんなに“バーソロミュー”を愛しており、私に冷たかったか書いておいてやろう。パーシヴァルの愛情を疑ってはいないが不安に思っていた彼女へのお返しとして。
部屋の戸棚等を開けてペンを見つけ、椅子に座ると髪の毛を一本抜いて鍵穴に押し込む。
カチャと音が鳴って鍵が開く。
最新のページを開き——
「あぁ?」
と、思わず素で威圧する声がでた。
数時間前に“バーソロミュー”の日記を読んだ時にはなかった一文が書き加えられていたからだ。
“私がこちらに来た時、彼の腕の中だったが、彼は紳士的だったので安心したまえ”
落ち着け。
相手はレディだ。私とはいえ、私の身体に入っているとはいえ、海賊なんて治安が終わってる稼業をしているとはいえ、相手はレディ。しかもメカクレを愛する同胞。
なのでこんな安い挑発にのる必要はない。
だが彼女が彼の腕の中で目覚めたのは確かだろう。私は入れ替わる前、彼に今日も抱いて欲しいとせまり、そして寝かしつけられたのだから。
私のパーシヴァルはすぐに入れ替わりに気づけたのだろうか? ひょっとして朝の挨拶として頬にキスぐらいおくったのでは? 私ならば入れ替わりに気づいて、これ幸いと、それ以上求めてもおかしくない。
もんもんと色々と想像してしまい、いつの間にか、カーンとゴングが鳴る。
ペンを掴むと、新たに書き加える。
“耳年増の処女◯◯◯に彼の相手は刺激が強かっただろう?”
まずはジャブで挑発し返せば、相手からもジャブがかえってくる。
“そんな事はないよ。彼は刺激よりも緩やかで和やかなふれあいを求めていたようだしね。毎夜毎夜上に乗られて弛んだ◯◯擦り付けてくるアラフォーの痛いえちおにより、貞淑な処女ムーブの方が気に入ってくれてたよ”
ジャブの後、すぐにボディブローがきた。
ガードは間に合ったが、なかなかの威力だ。
すぐさまフックで応戦する。
“おや我らがパーシヴァルはギャップ萌えだったか。海賊、アラフォー、処女は確かに絶滅危惧種。普通は経験豊富で筆おろしもまだな若者を極上に導いてくれると思うからな。しかし乳も尻も若い時より弛んでいる身体、その上で技術もないのはどうなんだ? 飽きられないか?”
“前も後ろも使い込まれて黒く変色してるよりはいいだろう? 開発されつくして、◯輪はでかいわ、◯◯◯は赤黒く変色してるわ、◯◯は縦に割れてるのは童貞に引かれなかったか?”
ここまではまだ、軽妙洒脱な伊達男をなんとか被っていた。すでに放り投げそうになっていたが、指先には残していた。
だがもうそんなものは投げ捨てて、取っ組み合いが始まろうとしていた。
“お綺麗すぎて手を出されないよりマシ”
“一回り違う年下より性欲強すぎるアラフォー引く”
“いまだに◯◯◯破ってもらってない奴に言われたくない。純粋に魅力がないので避けられてるのでは?”
“際どいプレイまで付き合ってくれて開発してくれるのが魅力なのか? 大事にされてないのでは?”
“処女◯◯◯”
“淫乱”
“耳年増”
“男狂い”
“垂れ乳”
“まだ垂れてないが!? ぎり! そんなこと言い出したら、オマエだって若い頃より角度が低くなってるだろう!”
“私のは今後、使われる予定がないのでかまわない”
“じゃあ腹回りと尻! 弛んで垂れてきてるだろうが!”
ただの悪口の応酬となり、互いにダメージが入っていく。
ヒートアップしていき、相手が、
“ならばこのご自慢の身体でパーシヴァルを誘惑してやろう。処女のまま中◯◯まで体感できる機会なんて、早々ないからな”
と書いてきた所で、ドアの前にサーヴァントの気配が。
慌てて日記を閉じてペンを置き、テーブルから離れてベッドに腰掛けた。
数秒してドアが開き、入ってきたのはパーシヴァル。
笑顔を浮かべず真顔であるが、出ていく前の冷たさはない。
あれ? と思っていれば、パーシヴァルは日記を手に取ると、バーソロミューの元まで歩いてくる。
おもわず身構えれば、パーシヴァルは「失礼」とバーソロミューの髪を一本抜いて、鍵穴に差し込んだ。
「え」
なんで開け方を。
あぁ、軟禁部屋というのなら、何かしら監視カメラ的なにかがついていたか? それとも気配遮断できるサーヴァントがはじめから部屋に? 連絡はどうしたのか。マスターとの念話か?
バーソロミューが考えている間に、パーシヴァルが横に座ってくる。パーシヴァルは日記を一ページ目からパラパラと流し読みぐらいの速度で読み始めた。
黙々と、悩みが赤裸々に書かれた日記を。
自分のではないがなんだか居た堪れなくなって「紅茶でも淹れよう」と立ちあがろうとした。
だがそれは「横に座っていてくれ」という言葉で叶わなかった。
パーシヴァルは最後まで読むと、ペンを持ち、書き込んでいく。
“バート、浮気かい?”
その言葉を見て、「ひぇっ」とバーソロミューは短い悲鳴をあげた。
“違うんだ”
との返信があったきり、相手からの反応はない。
パーシヴァルは無言で日記を見つめ、無意識から威圧感を放っている。
耐えきれず、バーソロミューは声をかけた。
「あ、あのパーシヴァル?」
「なんだろうか?」
声は冷たくないが、約一時間前とは違う固さに冷や汗が流れてしまう。それでも“違うんだ”と書いたきり、返信がない私をフォローしなくてはと口を開く。
「売り言葉に買い言葉、彼女に浮気するつもりはないという事を伝えたくてね」
「……並行世界のバーソロミュー。貴方に問いたい。貴方が彼女の立場になった時、『この機を逃す手はない! 私の身体じゃないからね! 減るもんじゃないし練習!』とならない自信は?」
「………私の身体でパーシヴァル相手だからノーカンでは?」
どこに問題があるのか。処女ならともかく、すでに何十回と身体を重ねているのである。
しまった入れ替わってパーシヴァルの冷たい態度にゾクゾクしている場合ではなかった。まずは彼女に釘を刺さなければならなかったか。
パーシヴァルは短くため息をつき、日記に視線を落とす。
「それにしても返信がおそ……おや?」
新たな書き込み。
それはバーソロミューの文字ではなかった。
“そちらに私のバーソロミューがお世話になっているようで、迷惑をかけていないかい? こちらの見立てでは明日の朝には解消されるそうだ”
パーシヴァルの文字。
文字とはいえ、自分のパーシヴァルに久しぶりに触れた気がして、バーソロミューの頬が自然と弛む。
さすが私のパーシヴァル、文章からも律儀さが伺えるなぁと思っていれば、続く文字に血の気が引いた。
“貴方のバーソロミューはとてもいい子にしているよ。大切にする意味を勘違いして不安にさせている愚かな恋人に浮気を疑われても、私が悪かったんだ誤解を解いてくれと泣いて訴えてくるほどにいい子だ”
あ、これ私のパーシヴァル怒ってらっしゃる。
バーソロミューの耳に、カーンと第二回戦のゴングが鳴る音が聞こえた。