ないしょとヒロさん ヒロさんのことをテレビで初めて見た時私はびっくりしました。だってヒロさんとはバーベキューもしたし、鬼ごっこもしたし、雷が怖い夜にいっしょに寝てもらったりもしたからです。
私がパパとママにすごく怒られた日、こっそりヒロさんに電話して会ってもらいました。ヒロさんはきっと忙しいのに、ファミレスへ行って一緒にご飯を食べて話を聞いてくれました。
『ヒロさんのうちのこどもがよかったなぁ』
なんて冗談で言ったら怒った顔なのに声は泣きそうになって
『そんなこと言わないで』
って。
私たちはなんだか悲しくなってデザートも頼まないまま店を出ました。帰り道でヒロさんは、
『久しぶりに手をつないで帰ろうか』
と言って手をつないでくれました。私はすごく嬉しかったです。歩きながらヒロさんはパパとママの話をしてくれました。私はヒロさんがするパパの話がすごくすき。
『ヒロさんはパパのことすき?』と聞くとうん、とヒロさんはすぐに答えました。
『私もほんとはね、パパのことすき……ママももちろんすき。仲直りできるかな?』
『うん』
ヒロさんは大きくうなずくとぎゅっと手を握ってくれました。
だっこはいい? うん。もうはずかしい。
『あのね』
『なぁに』
『私はヒロさんもすきだからね』
『ありがとう』
ヒロさんは私の頭をなでました。ヒロさんの手はパパほど大きくなくて、パパにはあるギターのマメがない。ママとパパは楽器する人の手だけどヒロさんの手は違ってる。ヒロさんはなんの楽器するの?って昔聞いたら歌を歌ってくれました。頭を撫でてもらってるうちにその歌を思い出して口ずさんだら、昔みたいにヒロさんも歌ってくれました。私にしか聞こえない声で、小さな声で。内緒話みたいにこの歌はねパパが作った歌だよ、って教えてくれたのいつだったかな。
『ほら、パパだよ』
駅につくとパパの車がありました。ヒロさんを振り返るとウインクしてバイバイって。私はさっきまでヒロさんとつないでいた手でパパの手をひっぱりました。
『ごめんね』
『パパより先に謝りなさいってヒロさんに言われたのに……』
パパは私の手を握って
『ヒロと何はなしてたの?』
と聞きました。
『ないしょ』
私のはじめての秘密はヒロさんでした。ヒロさんと歩いた夜のことはずっと誰にもないしょにしたいなと思っています。
おわり