『来年出したい本の出来てるところだけ』一 花、落つ
初夏の昼下がりに、一仕事終わりの一服は実にすがすがしい。三日月宗近は、畑仕事の後に少し早い八つ時を過ごしていた。青い風が開け放した屋敷を通り抜けて心地よい。傍らには適度に温かい茶と黒糖饅頭とくれば、文句のつけようもなかった。
安寧を楽しんでいると、足音が聞こえてくる。ごく小さな、音というよりは気配と言ったほうが正しいような静かな足さばきで速足に、こちらへ向かってくる。その音の主を思い浮かべて、休憩はどうやら終わりそうだと悟る。
「また此処に居たのか、三日月」
思った通り鶴丸国永が角を曲がって現れた。相手の不意を突けるからと、突く必要もない常日頃からむやみに気配を殺して歩く刀である。その表情がやけに期待に満ちていた。仕事の話では無いようだ。
15713