■ Izaack Gaussの一日(新聞記者)AM 5:47|アパートの一室
目覚ましは鳴らない。というより、かけた覚えもない。
俺は大体、夜を越えて記事を書いてる。寝落ちか気絶か分からんまま、朝になる。
コーヒーメーカーは昨日の豆のまま、苦い臭いが部屋に残っている。
灰皿には吸い殻が溢れ、シャツのボタンは外れたままだ。
「……また朝か。昨日の分は間に合ったんだっけか」
パイプをくわえながらタイプライターを叩く。
書くのは、町に紛れた“模造人間”についてのスクープ。
多くは編集部に笑われて、三面に押し込まれるネタばかりだが——
「こいつは本物かもしれない。今度のやつは“記憶”に穴がある」
AM 8:23|新聞社の編集部
編集長に怒鳴られながら、原稿を投げる。
「Izaack! お前また人の家族に“模造”だなんて書きやがって!」
「証拠がある。子供が母親の誕生日を思い出せないって証言してる」
「それは“ただの忘れ”だろうが!」
だが、俺の中ではもう確信に近い。
この町には、何かが「紛れている」。
それを暴くのが、俺の仕事だ。
PM 1:00|ダイナーにて昼食
「チリドッグとコーラ。それと新聞ひとつ」
昼食を取るふりをして、向かいの席に座った“市民”の観察を始める。
話すテンポ、目の動き、指の癖、咳の仕方、どれも「演じられた何か」に見えてくる。
「……Francis、あいつは本物だよな」
静かに呟く。あいつだけは、手抜きがない。だからこそ、時々怖い。
PM 6:42|聞き込みと撮影
カメラを持ち、薄暗い街路裏に入る。
通報のあった“変な動きをする男”がいたというが、姿は見えず。
「逃げられたか……いや、そもそも存在したのか?」
そうして、闇の中で真実と妄想の境界線を何度も踏む。
PM 11:57|アパートに帰宅
タイプライターの前に戻り、紙に打ち付けるように言葉を刻む。
『……だがこの街の朝には、牛乳と新聞が必要だ。
それがある限り、人々は“昨日と同じ日”が来たと信じられる。』
そしてまた、灰皿に火が落ちる。