■「Off-White Morning」──Francisの休日、Izaackの訪問午前九時。
珍しく時間に追われない朝。

Francisはシャツの袖をまくり手元のカップに温めたミルクを注いだ。
休日にコーヒーを入れない理由は簡単だった。
「気を緩めたくない」
ただそれだけだった。

──ノック。
扉を叩く音が二回。遠慮のない、記者の音。

「……こんな時間に誰か」

扉を開けるとやはりIzaack Gaussがいた。

「やあ、休日に一人でミルクなんか啜ってるって話を聞いてさ。
これは是非とも邪魔しなきゃ、と思って」

「……誰に聞いたのですか」

「それは、記者の秘密」

Izaackは勝手に靴を脱ぎ部屋の中へ。
Francisは眉一つ動かさず扉を閉めた。

「……休日は干渉を望みません。煙草の灰も」

「消してる。ほら」

片手に新聞、もう片方には紙袋。

「ほら。ミルクに合うって評判のドーナツ持ってきてやった。
心配すんな、こっち持ちだ」

「それはどうも」

Francisは仕方なくソファを指す。
Izaackはそれに満足気に腰掛け新聞を放り投げる。

「にしても、お前んち、相変わらず綺麗だな。
ここで爆弾製造しててもバレなさそうだ」

「そう言われて喜ぶ人間がいると？」

「……たぶん、少しだけ」

Francisはカップを手に窓辺へ座る。
彼の部屋は整い無駄のない生活の匂いがした。

「で。休日の私に用ですか？ それともただ、煩わせたいだけですか」

「うーん、後者？　あとは……まあ、なんとなく？」

Francisはその“なんとなく”に目を細める。

「あなたの“なんとなく”は、世界を一つ壊す可能性があります。今後控えてください」

「そのわりに、こうして受け入れてくれてるのは、俺の魅力か？」

Francisはドーナツを一つつまみながら言う。

「……牛乳に合います。あなたの不快さを帳消しにするには、少し足りませんが」

「褒められたのか、罵られたのか、わからんな……」

Izaackは新聞をたたみFrancisの隣に腰を下ろす。

沈黙。
外では子供の笑い声と朝の教会の鐘。
それらを遠くに感じながら二人はカップを傾けた。

「……あのさ」

ふとIzaackが言う。

「誰かといると、こんなに静かな時間が流れるのって、結構珍しいんだよな。記者やってると」

Francisは少しだけ目を伏せる。

「それは、あなたが騒がしい人間ばかりに囲まれているからです。もしくは、自分がそうだから」

「……そっかもな」

それきり言葉はなかった。
ただ、ミルクとドーナツと煙草のない煙だけが休日を満たしていた。