Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    リノリウム

    @lilinoleilil

    ごった混ぜ
    🐺🦇ですが深く考えないほうがよい

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 16

    リノリウム

    ☆quiet follow

    🐺と🦇が一緒に曲を作ったり感傷に浸ったりする話。
    新曲っていいよねえ。
    寿命が違う仲良し煩悩組。連作その2。
    ※各々の寿命の設定については完全に捏造です

    #MZMart

    リフレイン・メモリー② ひとりきりで見るには長すぎる夢も、陽気な歌声と一緒なら慰めには充分だ。終わりない道でも歩み続けられる。今は、まだ。

     ***
     
    「アンジョーさぁ、本ッ当に馬鹿でかくなっちまったよなあ」
     わざとらしいぼやきが部屋中に響き渡るのと同時に、ぱちん、と弾けながらグラスの中の氷が溶けていった。
     目の前の課題に没頭していたアンジョーはその大声にただ驚き、意味を汲み取るところまでには至らなかった。
    「わ、びっくりしたあ。……俺が大きい?」
    「ガキはあっという間にでかくなるから、どう加減すりゃいいのかわかんねぇって話」
     相変わらず捻くれた口調でごちるコーサカの意図が分からず、アンジョーは大きく首を傾げる。
    「俺が大きくなったのは、コーサカが美味い飯をいっぱい食わせてくれたからだよ?」
    「だろう? 俺の飯は世界一美味い。……ん? 今そんな話してたっけ?」
    「っていうか、そもそもコーサカが大きくないっていうか……」
    「そういう話はマジでしてねえよ! 黙って課題に戻れ、愚息が!」
     虚を突かれたコーサカが大声で怒鳴ると、「一応気を遣ってチビって言わなかったんだけど……」とアンジョーはしょぼくれながら両耳をぺたんと伏せた。

     空は真っ青に晴れ上がり、高く昇った太陽がアスファルトをじりじりと照りつける、うだるような暑さの昼下がり。
     他には目もくれず額に汗を垂らしながら問題集に取り組むアンジョーを、コーサカはつまらなそうな表情で遠巻きに眺めていた。
     強烈過ぎる日射しが燦々と降り注ぐ外へわざわざ出掛ける理由もなく、アンジョーの指導役も兼ねてエアコンの効いたリビングで待機していたが、肝心の彼が黙々と自力で問題を解きたい性格だったので一向にお呼びがかからない。実際暇を持て余していたコーサカの隣には、徒に乱読されたマンガと文庫本が山のように積み上がっていた。
    「本当、立派になりやがって」
     アッシュグレーの癖毛がぴょこぴょこと跳ねた頭頂部を見遣りながら、コーサカはこの怒濤の三年間をぼんやりと振り返っていた。
     人づてに紹介され、成り行きで引き取ることになった小さな灰狼をまずは独り立ちさせねばならなかった。
     これまで一人分だった飯は二人分になった。それに育ち盛りはよく食べる。生姜焼きをてんこ盛り作ってやってもあっという間に平らげる。食費は体感三倍近くまで膨れ上がった。
     それから、文字と数字を教え、恥を晒さないための教養を身につけさせ、生きるために必要な知識を教え、さらに彼が望んだ学びを全て与えた。
     右も左も知らなかった小さな子供が、あっという間に自分の身長を追い越して、一丁前に生意気な口を叩くまでに成長した。表情こそまだあどけないが、そのうちに数多の経験を重ね精悍な顔立ちへと変化していくのだろう。
     コーサカはずっと必死だった。人より長く生きているとはいえ、子育てなんて経験したこともなかった。聞き分けは人一倍よかった子狼の腕を引き、失敗と成功を繰り返し、喜びも悲しみも共有し、無我夢中で駆け抜けてきた三年間だった。落ち着いて振り返る暇なんてなかった。
     今こうして、手にしている本のページも捲らず、腰を落ち着けてぼんやりと物思いに耽る時間が、殊更に癒される。ぽかぽかと日だまりに溶けていくような感情に包まれコーサカはまんざらでもなかった。
     ……背丈を早々に追い越され視線が見下ろすようになったのは、今でも全くもって気に入らないけれども。
     
     あまり集中できずに文字列をゆるゆると目だけで追っていると、どこからか小気味よい鼻歌が囁くように流れてきた。
    「~~~~♪ ふん、ふんふふん♪」
     耳の中へするすると入り込んでくるそれは、鼻歌というには些か本格的というか。
     密かに奏でられている音色は、彼の内で小刻みに波打ち、情緒を伴って放たれていく。
    「それどしたん? いい曲じゃん」
     へへ、とアンジョーは照れくさそうに顔を綻ばせる。
    「最近、自分で曲なんか作ってみたりしてさ。これもその練習」
    「へえ……知らなかった。そんな素振り全然見せなかったし」
     興味深そうな表情で前のめりになるコーサカの視線が痛い。アンジョーはむず痒そうに目を伏せる。
    「……表立って言いたくなくて」
    「なんでさ」
    「だって……まだ始めたてで、作曲の理論なんて全然分からないし。コードも全部覚え切れてない。それにまだ最後まで完成させたことがないのに、俺は作曲してますなんて大声じゃ言いにくいよ、なかなか」
    「ったく、勿体ぶんなよぉ」とコーサカは口を尖らせる。「もっと出していこうぜ、外に。そんないい曲をアンジョーだけで独り占めするなんてずるい」
     燃え上がりそうなほど頬を朱に染めるアンジョーを余所に、コーサカは機嫌良く言葉軽やかに続ける。
    「その曲、歌詞はあるの?」
    「まだサビとBメロだけ。それにお遊びでつけたやつだから、全然大したものじゃなくて」
    「それでもいい。聴きたい、ジョーさんの歌」
     促すように強く注がれる彼の熱い視線に根負けし、「じゃあちょっとだけ……」とアンジョーは静かに口ずさみはじめた。
     
     紡がれるのは、去りゆく女性を嘆く彼の心模様。
     二人で一緒に作った思い出の数々に浸り、彼女のこれからの幸せを願いながら、けれども一人は悲しいと名残惜しげに溜息をつく。
     空を探せども、飛び立った君はもういない。どれだけ嘆いても時間は戻らないというのに。
     
     取り繕えないくらいメランコリックな彼の心の襞が、キャッチーなメロディーに乗せて波紋となり広がっていく。
     中性的な歌声は囁くようにさらさらと溢れ、時に荒々しく咆吼する。
     それはまるで引いて打ち寄せる波のよう。彼の息吹まで根付き、全身を震わせ奏でられる音色は、ギャラリーの心を共振させ、夢現に溺れさせる、そんな歌――。
     
     *

     心地よい微睡みの中で、遠くから必死に叫ぶ彼の声を聞いた。
     「――サカ! ねえコーサカ!」
     いつの日かの、引き取って間もない、幼い頃のアンジョー。背丈も声色も成長途上の可愛らしい少年そのもの。ただ、狼男の行動力は人のそれを遙かに上回っており、朝から晩まで丸一日帰ってこない日もざらにあった。
     この日も例に漏れず、彼は身体中を泥んこにさせながらも嬉々としてはしゃいでいた。
     俺の元に駆け寄ってくると彼は、誇らしげに手にしていたものを高く掲げた。
    「見てよこれ!」
    「何だってそんな騒々しい……げぇっ」
    「すごいでしょ?」
    「ナニその、小汚い塊」
     彼からの返答は七割方予想できるが、それでも俺は恐る恐る尋ねてみた。そうであって欲しくないという祈りも込めて。
    「何って……鼠だけど」
    「それ以上言うな! さっさと外に捨ててこい! いや埋めろ!」
     認識すること自体を遮断し強めの口調で制すると、アンジョーは「どうして?」と目を丸くさせた。
    「コーサカ、こういうの好きって言ってたよ」
     ――――言った記憶がまるで存在しない。
     否、言い切ってしまうと誇張がやや過ぎるか。
     凄まじいスピードで成長を遂げるアンジョーのやる事なす事全部が可愛く見えてしまい、あまり物事を考えず一辺倒に肯定していた記憶の断片ならうっすら残っている。
     ただ、何を肯定したかまでは定かではない。大抵がアルコールの酩酊に任せて気を大きくしていたときの過剰な喜びだったと思う。
     成功体験として彼に深く根付いているうちの一つが、本能に忠実に従いはじめて捕った獲物を片手に誇ったら、その姿を両手放しに喜んでくれた酔っぱらいの俺。……というのが事の概ねだろう。俄に信じたくはないが。
    「~~あぁ! 前に言ってたのなら今ここで訂正する。それを室内に持ち込むな! あと他の人間にはやるな! オマエは狼男だけど周りは皆人間。だから絶対に、だ!」
     反論させる隙も与えず捲し立てると、アンジョーはみるみるうちに表情の色を変え「ちぇ」と不満そうに頬を膨らせた。
     …………罪悪感が胸をちくちくと刺してくる。タガが外れた大言壮語は時に人を傷つける。それから俺は、せめてコイツがでかくなるまでは、溺れるまで呑むのは止めようと心に誓ったのである。
     嬉しいという感情を抱くときも、理性的で在らねばならない。小さな子供を育てるなら尚更だ。経験もないのに、感覚任せで彼を育て上げるなんて想像すらできない。
     俺は決して天才でも完璧超人でもない。寿命だけがやたらと長い、勘ぐることが好きな、ただの寂しがりの吸血鬼だ。

     *
     
     うつらうつらとしていると、額から寝汗が垂れるのを感じた。そこでコーサカはようやくまずいと悟り、慌てて勢いよく上体を起こした。
     陽は少し西向きに傾いており、グラスの中の氷はほとんど溶けている。
    「……コーサカ」
     目の前にはやはり不服そうなアンジョーがいて、こちらの表情の奥まで覗き込んでいた。
    「う」
    「寝ないで真面目に聴いてよ」
     シンプルな非難に返す言葉もない。
    「……申し訳ない。アンジョーの声が心地良くって、つい」
    「そうやって甘い言葉ではぐらかしても騙されないからね」
     そう言うとアンジョーは黙りを決め込み口を真一文字に引き結んでしまった。こうなったアンジョーは梃子でも動かない。静かに青白く燃え上がる怒りを内に隠しながら、値踏みするような目で射貫き、こちらの誠意がいかほどのものか、既に働いた失態を許すのに値するものかどうかを注意深く測っている。
     ……深く共感し、それが幾ら心地良かったからといえども。歌えと催促したオーディエンスがパフォーマーの前で居眠りをするなんて、単純に失礼千万だ。謝罪の一言で彼の怒りを鎮めるのはなかなか難しいだろう。だとすれば……。
     それが偽りないことを示そうと思案に暮れた末、コーサカはやっと重い口を開いた。
    「ね、ジョーさん。それ、続き歌っていい?」
    「……続き?」
    「うん」とコーサカは頷く。「俺なりのアンサー」
     そして彼は、小声で発したリリックを呼吸に重ね、自然とライムの波に乗り始める。

     キャッチーなメロディーはトリッキーな変拍子に乗せて、彼だけのフロウへと羽化する。
     彼女を失いたくなんてなかった。でも悲しいなんて顔を見せたくなかった。見せるのが悔しかった。だから無理矢理に笑顔を作って見送った。
     けれどもあの時、泣いて喚いて必死に引き留めれば、もしかしたら未来は変わっていたのだろうか。
     深く考えてしまう。考えたとて過去は変えられないのに、悲しむ事を止められない。
     自嘲を孕んだあるがままの彼の心情が、息をするように終わりなく綴られていく。
     
     譫言は紡がれ続ける。
     自分の書いた歌詞に対して心底同調し、彼の内面にまで深く落とし込まれたリリックが、彼自身の言葉で返ってくる。
     その姿はライムを刻むラッパーというより、御伽噺を語り聞かせるストーリーテラーのよう。数え切れないほど経験を重ねた彼なりの女性観が静かに、それでいて情熱的に歌い上げられる。
     刻一刻と変化し、時に感情任せに激しく飛沫を上げる。まるですぐそばで生きているような、彼の鼓動まで聞こえてきそうな。

     大きく息を吸い、終わりの合図を示す。
     コーサカは恐る恐る、目の前のオーディエンスへと視界を移した。
     それまで不満そのものだったアンジョーはどこへやら。空の色をした瞳は真ん丸に見開かれ、見知らぬ世界への憧れと感動で光り輝いていた。
    「――――すごい」
     彼はぽつりと呟き、それから「コーサカのラップって、人が生きている姿をありありと想像できていいなあ。好きだなあ……すごいや」と気持ちよさそうに続けた。

     *

     音楽を作ることは楽しい。
     それも一人ではなく、誰かと一緒ならばもっと楽しくなる。
     何となく浮き立った心で気心知れた仲間達とわいわい作ると、愉快さの中に郷愁の念のようなむず痒さを覚えて、たまらない気持ちになる。
     各々が思う究極を作り出すため、クリエイター同士衝突を重ねながら試行錯誤し、疲労と引き換えにようやく納得のいくモノを作り上げた時の達成感も、何にも代えがたい感動そのものだ。
     苦にしろ楽にしろどんな過程を経たといえ、出涸らしまで絞り尽くしたとその時は信じ切っていても、しばらくすればまた音楽が作りたくなってしまう。それがアーティストというどうしようもない生き物で、悲しいかな俺もその一人なのである。
     
     そしてこれは単なる俺のエゴでしかないのだが、アンジョーにもそうであって欲しいと強く願っている。
     高音が特徴的な歌声は、木の葉を揺らす一陣の風のように爽やかで、誰にも真似できない彼だけの最強の武器だ。
     歌だけに留まらず、作詞や作曲も面白いと彼は興味を示している。実際に彼が生み出した作品は、王道ど真ん中を行くフレーズに心の柔い部分が散りばめられていて、その荒削りさがかえってリスナーのほろ苦い感情を誘う呼び水となり、多くの共感を得ていくだろう。
     たった三年。されど三年。まだまだ成長途上の彼は自ら先人に教えを乞い、凄まじいスピードで吸収し続けている。
     アンジョーの音楽センスには目を見張るものがある。
     彼の才能を無視することなんてできない。それどころか、彼と一緒にたくさんの音楽を作りたいと強く願っている。
     こい願わくは、ずっと、永遠に。共に作り上げた無数の音楽を前に、『あのヘンテコな曲、どういう心境で作ったんだっけ』と笑い飛ばせるようになるくらいに。

     けれども、それは叶わない願い。
     アンジョーを喪う日は、いつか必ず訪れる。
     ましてや彼は人間より速いスピードで年を取る狼男だ。無事に天寿を全うしたとしても、その日はきっと、惜しむ暇もないほどあっという間にやってくる。
     ――――別れる悲しみは、俺だけが知っていればいい。
     少なくとも今は、アンジョーが力一杯成長している今は、事実を教える必要なんてない。今を生きることが彼の最大の仕事だ。

     底意をもって命を害されない限りは永遠の時を生き続ける、吸血鬼という種族。
     人間から到底かけ離れたオルガニズムの俺が、人間のフリをして東京の片隅で暮らし続け、あまつさえ人間より短命の狼男を育てることをわざわざ選んだ。
     やめとけ、とよく知る友人から何度か止められた。だが俺はそれを話半分でしか聞いていなかった。
     今までずっと、たくさんの友人達と出会い、数え切れないほどの思い出を作って、そして旅立ちを見送ってきた。何度も何度も気が遠くなるほどに繰り返してきた。今回だって相手が人間でなくたって、これまでと同じはずだ。そうだと高を括っていた。
     …………ああ、けれども。
     アンジョーが成長していくにつれ愛着のような感情を覚え、アーティストとして確かな才能が彼に秘められていると心底理解して、みすみすそれを手放したくないと望む自分も確かに存在する。
     彼に永遠の命を与えられたら。なんて考えがふと、頭を過ってしまう。
     見初めた友に己の血を分け与え、永久を共に生きようと契りを交わす、吸血鬼だけに与えられた特権。
     お人好しのアンジョー相手なら勢いで押せばきっとそのまま承諾してしまうだろう。そのためにはあの言葉が効果的だ。一手先の具体的な展開まで鮮明に浮かんできてしまう。
     一方でそれは、彼の意志を完全に無視した、単なるエゴの押しつけなのだが。自分がやられると反吐が出そうなくらい、もっとも忌み嫌う行為。
     彼だけが持つ生命の輝きを凍らせて閉じ込めてしまおう――だなんて、愚かで身勝手な行いをどうして出来ようか。
     彼は彼で俺のものではない。アムリタを与える大それた資格なんてない。神でもなんでもない。一人は嫌だと膝を抱えているだけのちっぽけな生き物だ。
     浅ましい願いと己を律する倫理観両方に取り憑かれ、二律背反に堪えきれず、俺は必死に頭を振り払った。

     *

     セッションを一通り楽しんだ頃にはもう、夕映えの色はすっかり濃くなり二人の居るリビングにも明々と射し込んでいた。
    「ジョーさんの曲、他にはねぇの?」
     コーサカが尋ねると、アンジョーはしかめ面で考え込み、それから思い出したように呟いた。
    「……あ。あれだ。マイナーコードのゴリゴリのロック。サビんとこのメロディーだけのやつがひとつだけ」
    「それも聴きたい。一番に聴きたい。完成したらまず最初に、俺に聴かせてよ」
    「……うん! その時はコーサカも一緒に歌ってよ。俺の初めてを奪った責任をとって、ラップをつけてくださいね。コーサカ先生?」
     冗談交じりにからからと笑いながら、アンジョーは露草色の瞳を喜びでいっそう輝かせた。
     ――――彼の無垢な笑顔を守り抜かねばならない。何が何でも絶対に。
     コーサカはぐっと口元を引き締めて、「当たり前よ。約束だ」と短く返した。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    リノリウム

    DONE※左右とくに定めてませんが製造元は🐺🦇の幻覚を見がち

    もし🐺の日常が🦇ごと全部ひっくり返ったら?
    イマジナリー兄弟回の🦇一歳弟妄想から着想を得ている
    BLかもだいぶあやしい🐺のサイケデリック話ですが、肉体関係あり前提なので_Bタグです。
    とある木曜日のイマジナリー そりゃあ俺だって一人よりは二人のほうがいいと思うさ。
     一人じゃ抱えきれない強烈な不安が目の前にあったとしても、誰かと折半して互いに勇気づけ合えるならどうにか堪えられる。それに同じ楽しみも誰かと共有できるなら、その喜びは何倍にも膨れ上がっていく。
     〝自分ではない誰か〟という存在は何にも代えがたいものだ。かつての狼のコミュニティでは言わずとも当然の共通認識であったし、東京というコンクリートジャングルに出てきてからもその恩恵に何度何度も救われていた。
     コーサカという男が俺にとってのその最たる存在なのは事実だ。何やかんやでずっといちばん近くでつるんでいる。彼を経由して俺自身も知人友人が増えていく。
     そんな毎日が楽しくて仕方ない。刺激に溢れている。飽きる気もしない。それでいて安心して背中を預けられる。感性が一致している。自分の生き様に誠実だ。言葉交わさずとも深く信じている。
    7763

    リノリウム

    DONE #MZMart

    🦇と🐺の二人が心配で仕方ない🎲の話。
    🚬をちょっぴり添えて。情と義に厚い🎲さんは素敵。
    寿命が違う仲良し煩悩組のあれこれ。連作その3。
    ※各々の寿命の設定については完全に捏造。捏造ありきの創作物として大目にみてください。
    リフレイン・メモリー③ それがたとえ定められた運命だったとしても。大切な友をひとりきりで、時の流れに置き去りにすることなんて出来ない。叶わぬのならせめて、側で寄り添わせてくれ。彼の気が済むまでずっと。
     
    ***

     連休を前に街中はどことなく浮き足立ち、華金の酩酊を今かと待ち望む雑踏で大通りが埋め尽くされている。
     そこから一本入った筋に佇む、青いのれんが軒先に吊り下がっている居酒屋。店主とその女房、お手伝いの三人で営むその店は、手頃な値段にもかかわらず料理の味はピカイチで、それらに合う酒も多数取り揃えられている。普段は人通りも少なく静かだが、今日は流石に常連客で賑わっていた。
     誰にも教えたくない、とコーサカが言い切ったその店に呼び出されたのは、司とホームズのお馴染みのメンバー。店内に一角だけ存在するボックス席を三人で囲み、ようやく運ばれてきたビール片手に小気味よく乾杯した。
    12903

    related works