レイジーサンデー「んぁ? あ、コーサカ。おはよ~」
「……アンジョー。なーにやってんだ」
「ん~~? ここって日当たりいいでしょう。だから、あったかーいベッドから全然出れなくって」
外は冷たい風がびゅうびゅう吹き付けてやたら寒いし、アンジョーの家でゲームでもしながらのんびりしよう、と二人で決めていた日曜日。
約束の十一時ちょうどに彼女ん家のインターホンを鳴らしたら、アンジョーではなくおばさんが出て来て「ごめんねぇ。あの子、まだちゃんと着替えてないみたいで」と口に手を当てながら笑っていた。
「具合でも悪いんですか?」と聞いたら「やだ! 全然そんなんじゃないの。ただの寝坊よぉ」――と親子でよく似たのんびり口調だったので、遠慮無く上がらせて貰うことにした。
すっかり通い慣れたアンジョーの部屋に向かうと……ドアの隙間から見えるのは、ゴロゴロ喉を鳴らしながらベッドで丸くなるアンジョーの腑抜けた顔。アタシの口もあんぐり。アンタは猫か。少なくとも犬には見えない。
「もうちょっとさぁ、人を歓迎する格好でもいいでしょ」
「えぇ、ちゃんと着替えてるよぉ?」とアンジョーが反論してきたので、それならと遠慮無く掛け布団を捲らせていただいた。
どれどれ、と上から下までじっくりと眺める。シンプルな白色のニットワンピに、ベージュのロングスカートをレイヤードしている。もっと下に視線を移すと、黒のショートソックス。なるほど確かにアンジョーの言う通り、人を出迎える格好に着替えてはいる。一応は。
「……じゃあその布団から早く出てくださいよ。くしゃくしゃになるよ、折角の可愛い服が」
そう文句を言ってやったら、「もうちょっと待ってぇ……ぬくぬくで気持ちよくて」と聞く耳も持ちやしない。ダメだこりゃ。
行き掛けにスーパーで買った食糧をテーブルに置き、とくに何の断りも入れずハンガーを借りて羽織りのモッズコートを引っかけた。
アンジョーはまた布団に包まり団子になっている。なんでやねん、とため息をつきながらカーペットの上に腰を下ろした頃合いに、おばさんがジュースとお菓子を持ってきてくれた。「まったくもう~~この子ったら」と我が子のだらしなさに呆れているが、怒る素振りは微塵もない。語尾の伸ばし方とかハの字に曲げた眉毛とか、本当にそっくりだなあとふと思う。
頂いたどら焼き(いいとこのやつで生地がしっとりしている。バカ美味い)を頬張ってから、アタシも負けじとベッドの縁にもたれかかり足を伸ばす。アンジョーんちのコントローラーでアンジョー手持ちのアドベンチャーゲームを起動させる。……もう、一緒にゲームしようって話だったから自分のコントローラーも持ってきたのに、これじゃあ出番なしかな、今日は。
自分用のセーブデータを新たに作り、ゲームスタートさせる。アンジョーが事あるごとに薦めてきたゲームは一体どんなものだろう。
歩道橋の下をセーラー服の女の子が歩いている。ノスタスジックで暖かみのある可愛らしいビジュアルなのに、音楽がサイバーチックで妙にかっこいい。
一体何が始まるんだろう。ドキドキしながらテキストを進めると、真っ黒でイカツいメカが大量に現われ、平和な街を破壊していく。ただ逃げ惑うことしか出来ないその他大勢の人々。
けれども、女の子だけは恐れることなく真っ直ぐ、敵の機体を見据えている。そして、自らの太腿に手を翳す。
――空から舞い降りたのは、彼女だけの相棒。ビルと同じくらいの大きさをしたマシーン。重量感だけなら敵をも上回っている。
轟音とともに街が激しく揺れる。セーラー服の彼女は青白く光り、そして相棒の中へ吸い込まれていった――。
「……かっこよ」
アタシはその映像にすっかり見惚れてしまっていた。この街はどうなってしまうんだろ。女の子はどうやってあの沢山の敵と戦うのだろうか。続きが気になる。
「ジョーさん。このゲームすげーいいじゃん……」
そう声を掛けながら斜め後ろを振り返ると――アンジョーは瞳を閉じて、すやすやと寝息を立てていた。それはもうすやすやと。
「寝んな!」
まだ昼になったばかりなんだけど。どこからツッコめばいいのか。声もひっくり返るだろ、こんなん。
しかしアタシが変な声をあげても、当のアンジョーは「んん……なぁにい」と寝ぼけたままだ。目を開けようともしない。
……くそう。その水玉模様の布団の何が魅力的だと言うんだ。目の前で生き生きと嬉しそうなアタシじゃなくて、フカフカすることしか能が無い無機物の一体何が良いと言うんだ。何だかとてつもなく悔しい。ムカつく。
「もっと奥行って」
憎き彼奴めの中に潜入し、アンジョーの身体をアタシの頭でぐいぐいと押しやる。狭いベッドの中で壁際に追い詰められた彼女が「わわ、何だよう」と云々反発してきたが、そんなの知るもんか。
アンジョーの身体にぴっとりくっつき、一緒に掛け布団を被ってやった。
「――ぬっくぬくだ」
「でしょ?」
窓から射し込む明るい陽射しがちょうど足元の辺りに当たっていて、その温もりがベッド全体に広がっている。毛布もないのにめちゃくちゃ暖かい。我が家のベッドとは大違いだ。
それに、アンジョーの身体も湯たんぽみたいにぽかぽかしている。羨ましいほどすべすべ肌だし柔らかいし……。
「悪戯~」とニットワンピのスリットから手を差し込んで、脇腹らへんまで突っ込んでやる。けれども予想していた手触りとは違っていて、何だかモフモフした柔らかい毛みたいなのがそこにあった。
「……もしかして、腹巻きしてる?」
「だってお腹冷やしたらダメだってネットで見たもん……」
「もぉ~~色気もへったくれもないの」
そこがアンジョーらしいというか、勘弁してほしいというか。アタシは思いっきり気が抜けて、言葉なく天井を仰いだ。
そうしてアンジョーの温もりと匂いに包まれているうちに、眠気が襲ってきた。どうしたものかと悩むものの隣の彼女は性懲りもなくうとうとし始めたので、アタシも諦めて一緒に眠った。