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    todome_Hayo

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    todome_Hayo

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    ショタ獅武

    捏造注意

    初めて出会ったのは一体いつだっただろうか、獅音はぼんやりとそう考える。



    獅音は一見普通の外観をしたアパート、その一階で生まれ育った。物心ついた時から部屋の中はうっすらとシンナーの匂いで満たされていて、食べ物は全て不味かった。胎児の頃からシンナー中毒だったのか、ずっとイライラしていて、やり場のない怒りを近所の子供にぶつけては「ガキ大将」として名を知らしめていた。

    腹が減ると苛立ちが増して、不味い飯に手を伸ばすとさらに苛立ちが増す。何も解決しなければ、何も進展しない状況が怒りとして募っていく。
    そうなれば家を飛び出して、また誰かを殴るだけ。

    近くの公園に行くと獅音より年上、きっと小学六年生くらいの男子が三人いた。その男子らは獅音に気がつくと、例のガキ大将と知っていたのかニヤニヤしながら近づいてくる。

    「ちっさくね?こんなのがガキ大将?」
    「調子乗ってんの〜?年上には敬語使えよ。」

    小さいに決まってんだろ、テメェらはシンナーの匂いが染み付いたゴミみてえなメシ食ったことあんのか。頭の中でそう響いて、何かが千切れる。そして目の前にいた一人に飛びかかり、真っ先に喉仏を殴りつける。

    「っ、ぐぁ!」

    喉がやられて一旦は動けないだろうから、他の二人を何とかすることだけ考える。一人は驚いているが、もう一人は既に獅音を抑え込もうと手を伸ばしている。好都合、地面の砂を掴んで相手の顔に投げつけた、丁度目に入ってくれたのか、ギュッと目を瞑り後ずさった。
    残るは一人だけ、ちっさい、だなんて舐めた口きいてくれた奴が残っている。
    足首を掴んで思い切り引っ張ると、重心が崩れて後ろに倒れ込む。その隙を狙って顎を蹴り上げた、馬乗りになって顔を殴りつけて、他の奴らも同じように殴り続ける。

    殴って殴って、相手が動かなくなった時。

    「待って!」

    後ろから声がして、背中に誰かが抱きついた。加勢か何かと思い振り返ると、獅音より小さな子がくっ付いているではないか。驚いてその子どもを見てると、獅音の手を急に取ったので「触んな。」と振り払う。

    「でも、血でてるよ?いたいよ?」

    獅音は自分の手の甲を見た、確かに皮が破けていて血が出ている。それなのに全然痛みを感じなかった、言われて初めて気がつく。

    「オレが手当してあげる!」

    子どもは獅音の腕をグイグイ引っ張って蛇口のところまで連れていく、水をかけられると沁みるように痛む。手についた血や泥が落ちると、ポケットから取り出したハンカチでソッと優しく水を拭き取った。そしてまたポケットから取り出した絆創膏をペタリと手の甲に貼った。

    「これでもうだいじょーぶ!」
    「……ん。」

    何だか嬉しい感情が出てくる、よくわからない感情だ。

    「名前なんてーの?」
    「タケミチ!」

    青い瞳が笑いかける、タケミチ、しっくり来るような言葉を心で何回も呼ぶ。絆創膏の貼られた手でタケミチの手を取った、首を傾げる姿に少し緊張しながら口を開く。

    「オレ獅音、タケミチまたオレとあってくれる?」
    「うん!いいよ、獅音くん!」

    その日からタケミチと獅音は一緒に遊ぶようになった、独特な匂いのあの部屋から逃げ出せるのも、大好きなタケミチと遊べるのも、全てが嬉しかった。
    タケミチがお昼ご飯として持ってきたパンを少し分けてもらった時、シンナーの匂いがしてなくて、美味しくて。なぜか涙が出た、急に泣き出した獅音にタケミチはアタフタしていたが、嬉しいんだよと伝えれば「今度から絶対パンあげる!」と、パンが大好きなのだと勘違いされた。

    「獅音くん大きくなったね。」

    ある日突然そう言われた、確かに最近は何故か背が伸びるようになった気がする。獅音は少し開いたタケミチとの距離を思い出す。

    「タケミチがパンくれるから。」

    ギュッ、と抱きついてそう言うとタケミチはニッコリ笑って「もっと大きくなって!」とリュックサックから取り出したパンを獅音に渡した。ベンチに二人並んで座り、獅音がパンの封を切って食べる。千切ってタケミチに「あー。」と差し出せば、小さな口が大きく開いて獅音の手からパンを食べた。

    「おいしいね。」
    「…うん。」

    声を聞くと幸せな気持ちになる、ずっと一緒にいたくなる。獅音の体の中で生まれた感情がタケミチに寄り添うたび、寄り添われるたびにスクスク育って、全身に根を張る。
    脳みそのシワの一つ一つに、根っこが張り付いては、少しのキッカケで青い瞳を思い出し、パンの美味しさを思い出す。

    「またね!獅音くん!」

    ばいばーい!と大きく手を振ったタケミチの背中をじーっと見つめる、別れたくないし帰りたくもなかったが、タケミチと自分では生きている場所が違うと理解している。
    寂しさ、独占欲、後になったら色々な名前のつけられる感情が獅音の中で渦巻いては、身を引き裂きそうなほど暴れ回った。

    「かえろ…。」

    つぶやいた言葉の、なんて冷たいことか。一人悲しく寂しく歩いて家に帰れば、またシンナーの匂いがする部屋に頭痛がした。
    休みになればまたタケミチに会える、それだけを救いにして一回り大きい親という人間から与えられる暴力を、ボーッとしながら受けていた。

    「テメーみてえな穀潰しのガキ、どっかで死ねばエエ。」

    また同じセリフ、前回、前々回、これからもこれまでも同じように背中をどつかれて、部屋から追い出されるのだろう。そしたら夏でも冬でも、どんな天気でも関係なく真夜中、誰にも見つからないようヒッソリと朝を待つ。めんどくせーかったりぃ。と思いながら今日はどうやって過ごそう。と考えていたとき。

    「いっつも連んでるあの癖毛のガキから飯もらって、ちっとデカくなったからって調子乗んなよ。テメェら一緒にブッ殺すぞ。」
    「やめなよぉ〜。」

    あはは、女の笑い声がした。茶化したそれは獅音の逆鱗で、咄嗟にテーブルの上にあった灰皿を掴んで父親の頭をぶん殴った。灰皿はもう何日も片付けられてないので、振り上げた時にタバコの吸い殻や、灰が辺りに散らばる。
    突然のことで父親は驚いていたし、女の悲鳴もこだましたが、もう関係ない。執拗に後頭部を狙って殴りまくり、女が止めようとするならば腕に向かって灰皿を振るう。

    「オレとッ!タケミチを!どうするってェ!?言ってみろ!言ってみろ!」
    「キャアアアアッ!!! イヤアーーーーッ!!!」

    殴りつける音、女の悲鳴。舞い散った灰、シンナーの匂い。目に映る血、痛まない手と心。口の中に滲むクソみてえな鉄臭さ、五感全てが狂っていく心地は不快でも快でもなく、無。
    タケミチが教えてくれないから、タケミチがダメだよって言ってくれないと、ダメなことがわからない。痛いところがわからない、何のことやら。
    タケミチ。タケミチ。

    気がつけば家には何人もの警察官が来ていて、獅音は取り押さえられていた。日常的な虐待の証が体にあるからか、咎めるようなこともあまり強くは言われなかった。
    救急車に女と父親が乗せられて走り去るのを見て、死んでしまえ。とボンヤリ思っていると警察官が肩を叩いてくる。

    「?」
    「何であんな事したのかな?」
    「…オレと友だちを一緒に殺すって言われたから。」

    嘘は言ってない、脅しだろうが何だろうが「殺す」とあの男が宣ったのは事実。警察官は難しそうな顔をして他の警察官と「どうしよう?」みたいな事を話している。

    「署の方で手当しましょう、すごい怪我ですよ。」

    その言葉が聞こえたのを最後に記憶があまりハッキリしていない、アドレナリンか何かで定着しなかったのか。何なのかは定かではないが、痛くも何ともないのに手当てするなんて、変だ。と思っていたことだけ覚えている。

    その後、父親は意識を回復させたが虐待の事実があったため獅音は施設へ行くことになった。

    施設はつまらない、タケミチがいないから。寝ても覚めても何をしててもタケミチのことを考える、誰とも話さないでただ只管にタケミチの声を思い出し、顔を思い出し、ぬくもりを思い出す。

    タケミチと遊べない土日が片手の指ほど巡った日、獅音は施設を飛び出した。限界だった、と言っても良い。会いたくて仕方がなくて、夜に窓を開けて飛び出しいつもの公園のベンチで座って待った。
    寒くも暑くも無い、ただ会いたい気持ちが募るだけの時間を待つ。

    「し、獅音くん!?」

    ベンチの後ろからあの声が聞こえる、嬉しさが溢れて振り返る。心配そうな顔のタケミチを無視して、ベンチから飛び降りてタケミチに抱きついた。

    「タケミチ!会いたかった…!」

    日が登ってまだそんな時間は経っていない、ほぼ真っ暗と言っても過言では無い時間帯のはずなのに、獅音が待っていた公園にタケミチは現れた。奇跡だ、奇跡だ。ぎゅうぎゅうに苦しくなるほど抱きついて、その存在を確認する。

    「会いたかったあ"ぁ、タケミチぃ…!」
    「…冷たい、ずっと待ってたの?」
    「待ってた、タケミチが来るかと思って…!」

    ゆっくりと夕焼けという名のオレンジ色が下から上がってきて、昼間へ変わろうとする。ようやっと辺りが明るくなって、獅音はタケミチをジッと見る。変わってない青い瞳、癖っ毛、優しい手つき。
    全部好き、好きでもう施設なんて帰らないで、タケミチの飼い犬として生きていきたい。そう思うレベルだ。
    まるで長年会えていなかった者のように抱き合う、というよりも獅音がタケミチに抱きつく。

    「脱走したガキってテメェか?」
    「………誰だよ。」

    感動の再会を果たした公園内に知らない声が響き渡る、獅音は警戒してタケミチを自分の背に隠す。相手はスタスタと此方へやって来る、獅音は施設の人間にこれっぽっちも興味がなかったので、目の前にいるのが誰だか皆目見当もつかない。

    「施設で顔合わせてんだろ…ッチ、はあぁ〜。いいから帰るぞ、めんどくせぇ事しやがって。」

    施設の子供だろう、獅音を面倒くさそうな顔をしながら迎えにきた。正直タケミチは「帰れる場所があるのなら、そこに帰るべきだと」思っていた。
    しかし、獅音がそれでもタケミチに引っ付いて「行かない」と意固地になっているということは、施設は獅音にとってとても良くないところなのでは!?とタケミチの頭で弾き出された答えにより、バッと手を広げて現れた少年の前に立つ。

    「あ?誰?」
    「き、きみこそ獅音くんの誰!」
    「あ〜…お友達だよ。」
    「お友達ならこんな怖い顔しないよ!獅音くんのお友達じゃないでしょ!」

    目の前の銀髪はめんどくさがる様に頭をボリボリと掻いて、はあーーーーっ、と長いため息をして見つめた。

    「お前がどっかいきゃあ、獅音は施設に帰れて、俺らも怒られずに済むんだよ。いい話だろ?別に誰も虐めたりなんてしてねぇせ?」
    「でも獅音くん、いきたくないって!」
    「あーはいはい、じゃあキリよく、わかりやすい方法で決めるか。」

    銀髪の少年はタケミチの前に立って、タケミチの頬を思い切り引っ叩いた。パチン!と朝の公演に冷たい音が響いた、タケミチもビックリして尻餅をついたが、その隙に獅音を奪われてしまってはやばいと思い、また立ち上がって獅音を奪わせまいと腕を広げる。
    当たり前だが、銀髪はまたタケミチを殴った。それもさっきより強い力で思い切り殴ったのだ。

    「たけみち!」

    獅音を超えて砂場の淵ギリギリまで体が飛び、痛そうにうずくまっている。

    「てめぇ!タケミチは関係ねぇだろ!」
    「ある。連れて帰んの邪魔したろ?つかイザナ、な?とっくに教えてあんのに物覚え悪りぃな。」

    はぁーっ、はぁーっ、一撃一撃の違いが溜まっていくのか、息が荒くなっている。覚束ない足元で獅音の前に立つ。

    「タケミチやめろ、タケミチに手ぇ出すなら俺が相手になる。」
    「は、テメェみてーなチビのガリが?」
    「そうだよ、チビガリが頑張って大事なもん守るんだよ。」

    イザナの近くにいたタケミチを引っ張って遠ざける、かわりに獅音はイザナとコンマの距離で睨み合う。バチバチという音が聞こえてきそうだ。
    ばちん、ドカッ。ゴッゴッ、ガキィッ。子供の喧嘩からは到底考えられない音が、早朝の公演に響き渡る。
    イザナはさっさと獅音が倒れるかと思ったが、案外粘って来るので一体なぜだと考えた。
    そこで少し、獅音への攻撃をやめてタケミチの方を一瞬向いてやった、するとその隙に獅音はイザナの首元に噛みついた。

    「なっ、おい離れろ!」
    「ばあえええ、ばあえあら、あえいいのおおにいく!」
    「何言ってっかわかんねぇし、離れろ!」
    「し、獅音くん!」

    タケミチが声をかけると獅音はイザナの首元から離れで駆け寄ってきた、イザナの首元は真っ赤になっていて獅音の口周りも同じように、真っ赤っかになっていた。
    タケミチはあまり気にしていなかったが、獅音の常人よりも発達した犬歯が普段なら貫くことのできない筋肉を貫いて、出血したのだろう。

    「イザナー!」
    「下僕…。」
    「イザナどうしたんだよこの傷…ってタケミチ!?」
    「カクちゃん!?」

    どうやら獅音が送られた先にいたのは鶴蝶とその親分()だったらしい、ある程度話が見えてきたところで花垣家にいき、獅音とイザナと手当てをした。
    獅音はボロボロだがイザナの首元の裂傷から出ている血が止まらない。

    「めんどくせーもん手懐けやがって、ほら血がとまんねぇ。」
    「すすす、すみません…。」
    「タケミチは悪くねぇよ。こっから話し合おうぜ。」
    「カクちゃん……!!」

    獅音の傷は左目の周りにはっきりとわかる打撲痕に、殴り蹴られたことによる全身に散らばる打撲痕。それと2センチ程度の切り傷か少しだけ。口周りにはべっとりこびりついた血、イザナの血だろう。
    濡らしたタオルで拭き取ってやる。

    「なんで施設出たんだよ。」
    「…タケミチに会えないの限界で。」
    「オレ?」
    「タケミチに会いたいのに外出れねえし、外出れてもタケミチいる時間じゃねぇし。無理だったから逃げてきた。」

    タケミチといたい、小さくつぶやいた声にタケミチは胸が締め付けられる様な思いになる。あまり詳しくは聞いてないが、獅音が公園に来なくなったあの日、近所が騒がしかったので何かあったのかを聞いてみれば、近くのアパートで虐待を受けていた子が父親と愛人を灰皿で殴り、警察に連れて行かれてしまった。と言うのだ。

    「おい、タケミチ?だっけか、お前がコイツなんとかしろ。」
    「え?」
    「テメェが面倒みてやんねえから逃げてきたんだろ。」
    「…オレ、獅音くんに会いにいくよ。カクちゃんもいるし、みんなであそべるしね。」

    タケミチがそう言うと獅音は顔をパァと明るくさせてギュッと抱きついた。
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