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    メロ澤

    @mel_fjs_low

    @mel_fjs_low メロ澤。アルティメットハピエン厨。
    ここには月鯉しかない。

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    メロ澤

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    逃●恥に事寄せた月鯉②
    【両家顔合わせの儀】
    また未校正😌

     鯉登との新婚生活は順調だった。
     もちろんあくまで疑似体験である。実態としてはこれまで通りに掃除洗濯炊事を中心にこなす。その行為に『専業主夫として』という役割名がついただけで業務に大きな差はない。
     正直なところ、失業手当が切れたあとの年金や保険をどうしたものかちょうど悩んでいた。一時的にでも扶養状態になることができて本当にありがたいことだった。月島はゲイではないから鯉登の提案に一瞬怯んだが、そもそも今月島のことを気にかけてくれるような人間はいないのだ。もうどうにでもなれ!とすぐに思い直した。
     なにより、両者のための名案を思いついて瞳をキラキラさせる鯉登の純粋なまっすぐさに、己のことしか考えていない矮小な月島の自我はあっさりと引き下がった。
     現状の鯉登との雇用状況、職場状況には満足しているし、鯉登は非常によい雇用主だから問題はないだろう。突拍子もない、一般的ではない手段ではあるが、労働にプラスアルファがあってしかもWIN-WINの関係となったわけだし。
     しかし年の瀬になってふたりのに最初の試練が訪れた。
    「市のパートナーシップや公正証書とは別に、私文書を作成して親に証人になってもらおうと思っているのだが……月島のご両親はどうだろうか」
     そう言って鯉登が追加の契約書を提案してきた。扶養家族となるためにかなりの書類にひたすら名前住所を書き続けていたのでまた書類か、と身構えてしまう。
    「あー。私の父母は10年以上前に鬼籍に入っていまして。一人っ子なので兄弟もいません。親戚はいますが疎遠なのでちょっと頼めないかなと……証人は鯉登さんのご家族へお願いすることになってしまいます。すみません」
    「すまない、私こそつらい話をさせてしまった」
    「いえ、もうずいぶん前のことですから何も。それより、私文書っていったいどういうものですか?」
    「あぁ、それはな」
     ようは婚姻届と結婚宣誓書を兼ねたものを、私的に作成するのだという。
     鯉登の家族や親類には単なる雇用上の契約結婚だということは秘匿している。つまり月島と鯉登は愛し合って結ばれたパートナーということになっているのだ。結婚式を挙げない分をこの私文書を提示することで代用したいらしい。
     鯉登の実家は薩摩の士族のながれをくむ旧家でなかなか古風な家柄で、こういう節目はきちんとしておいたほうが心象がいい。そういわれたとき、月島は大して驚かなかった。鯉登の硬派で品のある性格はそういうお家で育った影響なのだと合点がいった。
    「でな、両親には証人になってもらう以上、顔を合わせないわけにいかんと思う。ただでさえ独り暮らしに対して不安を募らせているから、私が誰かといっしょに幸せにしっかり暮らしているということを家族に知ってもらって安心させたいのだ」
    「なるほど。そうですよね。わかりました」
    「特に兄が……」
    「お兄さん」
    「ああ、兄が一人いて。歳が離れているせいかめちゃくちゃ過保護だ。両親の10倍過保護だ。兄は……月島と同い年なのだ」
    「あ〜……なるほど」
     可愛がっていた年の離れた弟が自分と同い年のしかも男と結婚するなどと言い出したわけだからそれはもう心配を通り越して激怒している可能性がある。
     顔合わせを了承したものの、月島はすでにこの時点でちょっと不安になっていたのだった。
     顔合わせはスーツで参加すればいいのだろうか、と思案していたら鯉登が顔合わせ用に服を見繕うからといって無理やり連れ出された。みなとみらいから大さん橋までメンズ向けのショップを20店舗ほどめぐり最後にカフェレストランでハンバーガーを食べた。鯉登がさらにパンケーキをぺろりとたいらげるのを、月島はコーヒーを飲みながら見ていた。帰り道には紙袋を6つ、月島が両手に持って電車に乗った(うち5つが鯉登が買ったもの)。
     その日鯉登が選んでくれた薄緑色のバンドカラーシャツというものと、いまだかつて着たことのない明るい色のベージュのセットアップ。割りとゆるいシルエットで自分に似合っているかどうかは皆目わからないが、鯉登が気に入ったというからまぁいいのだと思う。月島は慣れない長丁場ショッピングでクタクタに疲れて、帰宅するとシャワーを浴びる余裕もなく眠ってしまった。
     そしてあっという間に顔合わせ当日となる。購入した服と靴をすべて着用してみると馬子にも衣装という感じで、照れくさいほどきちんとした月島基になってしまった。鯉登は大きな花の刺繍があしらわれた黒いテーラードジャケットでピシッと決まっていた。中のシャツも黒にうっすらと花柄が浮き出ている。花ON花?と奇妙に思ったが鯉登が着ると自然に華やかだ。カフリンクスを留める姿だけでもグラビア写真みたいで思わずモデルさんみたいですねとつぶやいてしまった。カフリンクスは結局、つけてぇと言われて月島が留めたが。
    「派手かな……?」
    「ちっとも」
    「うふふ、よかった」
     手土産がたくさんあるので、タクシーで山下公園の近くにある横浜でいちばん古いホテルへ向かった。ついに果たす家族との対面を前に、カフェで段取りの最終確認をする。
    「今日は、障害を乗り越えていっしょに生きていきたいパートナー同士が家族に受け入れられるため誠心誠意にこやかにおもてなしする、というテイでいくぞ。うまく乗り切ったら顔合わせ特別手当をだす」
    「はい、誠心誠意がんばります」
     家族と真心こめて向き合っている鯉登の気持ちを無碍にはできないだろう。月島も胆は座っている方だ。不安を振り払い、営業職で培った猫かぶりと口八丁をフル稼働してベストを尽くそうと決めた。
     鯉登の家族は事前に聞いていたとおり、父、母、兄、兄嫁、ベビーカーに乗った1歳の甥っ子、の5人で鹿児島からやってきた。集まって簡単に初対面の挨拶をしたあと通された個室は、7名で使うには少々広すぎるが景色のよいゴージャスな部屋だった。そこで円卓を囲み、フランス料理のフルコースをいただきつつ談笑を交えて和やかに顔合わせは始まった。
     出会いは、家事代行サービスを利用して知り合って、仲良くなって、というような流れで鯉登が説明していた。比較的事実に近い。ただし月島は家事に生きがいを見出して脱サラした、ということになっている。月島からは鯉登からプロポーズを受けて同居をはじめ、日々主夫として彼を支え充実した日々を送っていると伝えた。
     十年間営業マン経験のある月島も、広報企画の最前線で働く鯉登も、職業柄かなり卒なく平安と幸せをアピールするプレゼンができたはずだ。鯉登の母ユキから新婚で幸せいっぱいのふたりに、といった感じのベタな問いかけがあった。ということは、プレゼンが功を奏したと考えていいだろう。
    「あのね、聞いてんよかろうかね。基さんは、音乃進のどげんところが気に入ったと?」
    「え──」
    「おおおっかん! 薩摩ん男はそげん話せんぞ!」
    「何を赤くなっちょっど。基さんは薩摩ん堅か男とはちご。さぁさ、教えたもんせ」
     なぜか赤面して慌てる鯉登を尻目に、自己紹介以降ずっと黙りこくっていた鯉登の兄、平之丞がそのとき突然割って入ってきた。
    「よかところなどあっとですかね?弟は生粋のボンボン育ち。兄としては我が儘気儘で誰とも相容れんち思うちょりもす。なかなか難しかとじゃらせんか」
    「ち、ちょっと、へっくん」
    「兄さぁ!」
     平之丞からの心象がよろしくないことは当初からぴりぴり感じていたが、実際に表情も物言いも実にトゲトゲしく、平之丞の妻も制止の声をあげるほどだった。
    「あの、私は」
     でも月島はこの想定外の母からの問いにわりとスッと回答ができそうで、ホッとしていた。また平之丞のむき出しの敵意もどういうわけかあまり気にならなかった。顔立ちが鯉登に似ているせいかもしれない。
    「私は、鯉登さんのまっすぐなところが、とても素敵だと思っております」
    「あ……つきしま……」
    「あらぁ、そう。そうよねぇ。頭はいいのにバカがつくほどまっすぐじゃよねぇ。ふふふ……そう。あいがとうね」
     鯉登は驚いた顔をしていたが、母は両手で頬を覆ってうれしそうにしていた。その隣で鯉登の父も目元をふっと緩ませたようにみえた。



     
     それからは平之丞も表情は硬かったがチャチャをいれることもなく、和やかに食事が終わった。最後に父が軍人のような重厚な声色で、月島に、息子をよろしく頼んますと告げて握手していた。会場を出たあとに月島は先に立ち去り、鯉登だけ自分の家族と過ごす時間を得た。
    「音、おいはいっちょん納得しちょらん」
    「平之丞、あんたいいかげんにしやんせ」
    「そうだよへっくん。せっかく音くんのハレの日に呼んでくれたのに」
    「いんにゃ、そもそも筋が通っちょらん。こげな大事なことを家族に相談もせず手続きしたちゅて。オイがもし久美子ちゃんと籍を入れてから事後連絡してきたらワイもたまがっじゃろ。そげんこっしたんと変わらんぞ」
    「う、そ、それは……すみもはん……月島の気が変わらんうちに早よしよごたったど……」
    「……でも祝福はしてる。よかったな。東京で働き始めてからこげん穏やかな顔しちょるん久々に見たぞ」
    「ん……。兄さぁたち家族のごた幸せにすっ」
     ベビーカーに入ってすやすや眠っている甥っ子を眺める。ゆくゆくは兄のように結婚して家庭を築いて子供が生まれて……。そういう形の幸せに憧れはある。
     でも今はまず月島と協力してこの契約結婚生活を平和に過ごすことを目標にしようと決めた。
     当初は仕事に専念するために始まった月島との契約だが、思っていた以上の効果があるのだ。
     健康的な食生活のせいか体のだるさがほとんどなくなった。月島といっしょに夕飯をとるために効率的に仕事を片付けられるようになった。弁当を持参するようになってから女子社員にお弁当が毎度すごい!と覗かれてしまうようになったが平素は怖がられている相手とコミュニケーションが取れるからヨシとしている。ここの公園に猫が何匹かいましたよなんて情報も月島が教えてくれて、ランニングのときに立ち寄って癒やされたり。
     毎日楽しくて、月島に気持ちよく仕事をしてもらって、長くこの関係を続けて行きたいと思っている。これはいつかの本当の結婚の予行演習としてもきっと有意義なのではないだろうか。
    「絶対に逃がそごたなかお相手と結ばれたんじゃっで、何よりやなか。こいからは節目には基さんとふたりで鹿児島へ顔見せてね」
    「音之進。わしも同じ思いじゃ。安心した。心配は尽きんが、ふたり気張れよ」
    「おやっど……はい!」
     謀っている後ろめたさはあるが、こうして結婚を認めてもらうってうれしいものなんだなという気持ちが勝った。自分の身勝手さを反省しつつも、それを受け入れてくれる家族に感謝した。
    「みんな……あいがともうさげもす!」
    「ハハハ。そいにしても苗字で呼び合うちょるんは情緒に欠けっど」
    「そうねぇ、結婚したんじゃからね」
    「えっっっ! あ、まぁ、ふたりのときは、うん、名前で呼んじょるよ。けどげんねでな」
     意外とはたから見ると夫夫としてまだ未熟なところがあるようだ。人前にふたりで出るときにはこういう抜けや綻びがないようをもっと注意しなければ、と肝に銘じた。
     
     
     
     月島は喫煙所で一服したあと、館外で風に当たりながら待っていた。そのうちに上階から降りてきた鯉登がロビー内で月島を探しているのが見えた。月島はたばこのにおいが消えているのを確認してからロビーに戻る。
    「お疲れ様でした」
    「月島ぁ!外にいたのか。お疲れ様」
     鯉登の顔にホッとしたような表情が見て取れた。本日の業務は無事に終了したと思って良さそうだった。それにしても鯉登は、今日は終始穏やかでずいぶんかわいらしい顔をしている。きっと家族に会って鯉登のなかの『末っ子』が顔を出しているのだろう。お腹もいっぱいだし、少し歩いて横浜駅から電車に乗ろうということになった。海からの冷たい夜風がワインで火照った顔を撫でて心地よい。
     横浜みなとみらいのキラキラする夜景の一部になったようにふたり並んで歩きながら、月島は今日いちばん印象に残ったことを口に出してみた。
    「とても素敵なご家族ですね」
    「私の自慢の家族だから、月島にそう言ってもらえてうれしい」
    「あたたかいっていうか。絆がしっかり伝わるというか……それに、ご家族のことをちゃんと自慢だって言える鯉登さんも、素敵ですよね」
    「……う、ウン。そうかな」
    「ええ。今日は楽しかったです。ごはんもすごかったし」
    「そうだなぁ。フルコースって接待でたまに食べるけど今日は久々に美味しかったと感じた!やはり家族で食べるのがいいな」
    「同感です。それにしても平之丞さんが奥さまに『へっくん』と呼ばれているのはちょっとかわいかったですね」
    「うん!そう呼んじょるとは聞いてたが私も実際に耳にしたのは初めてだったのだ。思わず笑いそうになったぞ」
    「さすがにそれは……笑ってしまわなくてよかったですね」
     実は、鯉登の家族と対面して初めて月島は顔合わせとならなかったことを申し訳なく思った。もちろん亡くなっているのだから会えなくて当然なのだが、月島の両親からしか得られない情報を、鯉登の家族も知りたかったかもしれない。そして月島の両親にも、こういう晴れの場を経験させてやりたかったという気持ちも芽生えた。
     だから、万一、いつか本当に誰かと結婚するようなときが来たら、両親の墓前へ報告に行こうと決めた。
     そしてその相手が鯉登のような人間であれば、すばらしいだろうなと思った。
     他にも鯉登の家族の話をいろいろ聞いていたら、あっという間に横浜駅についた。歩いたら小腹が空いてしまって、鯉登の気に入りの居酒屋に連れて行ってもらい、一杯引っかけてから帰宅した。



    ※さぁ心の中で月鯉に恋ダンス躍らせてください
    ※久美子ちゃんは大好きなタカラジェンヌの本名を借りた☺️
    ※鯉登の勝負服はエトロ🧥


    ◆次回!! ハグの日制定!につづけ
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    メロ澤

    MAIKING逃げ恥にことよせた月鯉⑤

    月鯉ウェブオンリー『やぶこい』開催おめでとうございます&ありがとうございます!

    逃げ恥パロつづき。
    契約夫夫なのに新婚旅行に行くことになっちゃった月鯉をお楽しみ下さい!
    ただしはずかしながら完全に未校正ですてへ。

    ①〜④はピクシブにあります。
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21486273
     最近、月島はパソコン作業のために小さな折りたたみローテーブルを買ってきた。それを自室に置いたら、四角い部屋はますます独房みたいになった。独房にこもってパソコンをしていると鯉登からリビングへ呼び出されることがある。
     早めの夕飯を済ませたあと、パソコンに向かって食費と日用品の出費をエクセルにまとめているとドアが軽快にノックされ、時間だぞ、と鯉登が顔をのぞかせた。なぜなら今日は日曜日。「ダーウィンが来た」の放送がある。鯉登はこの番組がお気に入りだ。最近は必ず月島もいっしょに見ることを要求してくる。まぁ別に構わないのだ。おそらくは子供向けの番組なのだが、映像は迫力があり、まったく知らない動物の生態や雑学は純粋におもしろい。見ながらあれやそれやと話しかけてくる鯉登も楽しそうで、平和そのものだ。家族の団欒を体感している気分になって心も落ち着くから、月島もたぶん、この番組がわりと好きなのだ。
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