表情 数多の人の声と、どこかの店から流れてくる音楽や車の走行音が混じり、耳障りな音を形成して、私の耳を襲う。
雑踏の中にいるのはあまり好きではなかった。
その場にいるだけで目まぐるしくなるような情報に溢れた景色よりも、山や海のような、壮大で、心が落ち着くような景色が好きだ。それに、すれ違う人とぶつからないか気を張らなきゃいけないのも、あまり好きではない。
特に、御子柴くんと人混みの中を歩いている時は、ものすごく気を張ってしまう。スマホから片時も目を離さないで堂々と闊歩する彼が、誰かにぶつからないかどうかがとにかく心配で、辺りを警戒するのに必死になってしまうから。
しかし、そんな私の心配なんてつゆ知らず、彼は今日も、スマホを操作しながら、私の横を歩いていた。
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