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    za__ko_za__ko

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    za__ko_za__ko

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    獄Luckくん、初詣に行く カラッと乾燥して、冷えた空気。それを彩るは、軽やかな鳥の囀りと、遠くから聞こえてくる小さなエンジン音。そして、時折床の木を軋ませながら響いてくる、規則正しい足音——。
    「おはようございます! 明けましておめでとうございます!」
     静寂に包まれた清らかな朝が、その騒々しいほどに朗らかな挨拶に引き裂かれて、囚人3人は重い瞼をゆっくりと開いた。そして、1人は世界の全てを遮断するように布団にくるまり、1人は唸り声を上げながら近くに置いてあったスマホを癖のように握り締め、1人は身体を怠そうに起こしてベッドに腰掛けながら両手で顔を覆った。
    「みなさん、起きてくださいね」
     一人一人の顔を覗くような仕草をしながら、犬飼はそう優しく声をかけていく。
    「……朝からうるせぇんだよ、アホ看守」
    「ん〜、ねむい……」
    「……」
     誰1人犬飼の明るさについていけず、各々がぼんやりと歯切れの悪い返事をする。この光景は、幾度となく繰り返してきた、彼らにとっての日常だった、はずだった。
    「あ、そうだ! 初詣に行けることになったので、ラジオ体操の後、出かけましょうね!」
     ——そう犬飼が言い出すまでは。

    ***

    「さ、さっ、……ぅ、さむい……」
    「おい、擦り寄るな」
    「甲斐田くん、顔色悪いですね……何か防寒具、取りに帰りますか?」
    「はぁ!? こんだけ時間使わせといて戻るとか、ぜってー無理! 無駄足踏ませるとか、エナドリ2箱でも許さねぇからな!」
    「う……」
     さまざまに漏らされた不平不満を何とか流しながら、犬飼は車を飛ばして、3人をプレハブ近くの神社まで連れてきた。そして、神社から少し離れた駐車場に車を止めて降車を促した途端、肌を突き刺すようなその寒さに、再度3人の不満が溢れ出す。
     それから、甲斐田の体調が悪そうな様子と、御子柴の怒りに挟まれて、困り果ててしまった犬飼は、恐る恐る甲斐田の顔色を窺った。
    「が、我慢できそうですか……?」
    「し、死ぬ、かも……」
     もこもこの上着とセーターにマフラー、そして恐らく発熱インナーにも身を包んでいるのに、甲斐田はなお寒そうにブルブルと身体を震わせて、歯をカタカタと鳴らしながらそう漏らした。その異常なほどの寒がり具合を見て、土佐は呆れたようにため息をつく。
    「寒いだけじゃ死なねぇだろ」
    「死ぬんだって……俺は……」
    「ったく……」
     不意に、土佐が羽織っていた上着を脱いで甲斐田に投げつけた。重めの上着が唐突に腕に降りかかってきた衝撃に「わっ」と声を漏らしながら、甲斐田は愕然と目を見開いて土佐を見つめる。その様子を見ていた犬飼と御子柴も、この寒空の下、パーカー1枚になった土佐に、少し心配そうな視線を向けた。
    「ありがとう……え、寒くないの?」
    「お前ほど寒くはねぇ」
    「そう……じゃあ、借りるね。ありがと」
     その言葉を聞き終えてから、土佐は何も言わずに、3人をおいて神社へと足を進め始めた。そんな彼に置いていかれないよう、3人も足早に歩き始める。
     少し歩けば、涼やかな緑に囲まれた神社へと続く階段、そしてその上に鎮座する鮮やかな朱色の鳥居が目の前に現れた。郊外の小さな神社らしく、人はポツポツと点在する程度で、清らかな空気に包まれているせいか、話し声すらあまり聞こえてこない。そんな静かで厳かな雰囲気が、その空間を支配していて——。
    「あー、寒ぃ、まじありえねぇ。なんでこんなとこ来なきゃいけねぇんだ、雑魚い神如きに頼むことなんか一個もねぇよ」
     その雰囲気をぶち壊すように、御子柴はぐちぐちと文句を言い連ねていた。
    「そ、そう言わずに……こういった年中行事に参加することは、社会復帰のきっかけに——」
    「あーあー、うるせぇな! 聞いてねぇんだよ! いちいち社会復帰だ更生だ、クソくだらねぇ話持ち出してくんな、耳が腐る!」
    「くだらなくはないです……!」
    「くだらねぇよ!」
     そう犬飼が応戦すると、御子柴の文句はさらにヒートアップして、いつしか殴るだの蹴るだのが始まり、2人は足を止めてその場で言い合いを始めた。そんないつも通りのやり取りを尻目に、土佐と甲斐田は我関せずと階段へ向かっていく。
     それに釣られるように、2人は言い合いを続けながら歩き始めて、周囲の人々の視線を釘付けにした。その視線に気付いた甲斐田は、ふぅっと小さくため息をつきながら、振り返って口を開く。
    「ねぇ、目立ってるよ」
     そうカラッとした声色で告げると、2人の言い合いはぴたりと止まる。
    「朝っぱらからうるせぇな」
    「す、すみません……」
    「馬鹿の一つ覚えみてぇに吠える雑魚看守のせいだろ、俺にまで言うんじゃねぇよ」
     土佐が漏らした不満に、犬飼は申し訳なさそうなしょぼくれた声色で、御子柴は尖った冷たい声色でそれぞれ応えて、ようやく黙った。そうして、またその空間に静かな雰囲気が戻って、4人は厳かな空気に包まれながら神社へと続く階段を登っていく。
     階段を登りきると、こぢんまりとした神社が現れて、その雰囲気に少し飲み込まれるように、4人は小さく一礼をしてから鳥居をくぐった。そうして、ようやく神社に辿り着いた4人は、一通りぐるっと境内を見渡す。
    「……なんもねぇな」
    「雑魚神社じゃねえか、汁粉ぐらいあれよ」
    「み、御子柴くん、あまり失礼なことは……」
    「あ、お守り」
     ふと目に止まったお守りの売り場を見ながらそう言って、甲斐田は振り返って犬飼の顔を覗くような仕草をしてから口を開く。
    「記念に買ってく?」
     その一言がきっかけで、4人は手水舎で身を清めてから、お守りの売り場に足を運ぶことになった。

    ***

     売り場にはずらっとカラフルなお守りが並んでいて、小さな神社にしては願い事の種類も豊富だった。そんな数々のお守りを、甲斐田と犬飼は比較的真剣に物色していたが、土佐と御子柴はあまり興味がなさそうにぼうっと見つめている。
    「シバケン、これがいいんじゃない? 子供の健康守り」
    「はぁ?」
    「だって、成長したいでしょ」
    「お前……っ、まじふざけんな!」
     甲斐田のからかうような言動に御子柴は手を振り翳して苛立ちをあらわにするも、甲斐田は犬飼を盾にしながら、ひょいっと躱わした。そのせいで、御子柴の拳は犬飼の背中に刺さり、ゴンっと鈍い音が響く。
    「いたっ!」
    「え〜、八つ当たりされて可哀想」
    「紫音が言ってんじゃねぇよ!」
     それからも、御子柴の怒りは収まらず、ぐちぐちと何かを言い続けた。それをいなすように、「ごめんごめん」と軽く謝って、甲斐田は話題を逸らすようにまた口を開く。
    「2人は何にするの? 俺は縁結び〜」
    「私は無病息災ですかね、皆さんが健康でいられるように」
    「俺は……神に頼みてぇことがねぇ」
    「え、真面目。適当に買いなよ」
     そう簡単な雑談を交わしながら、結局、犬飼は無病息災、甲斐田は縁結び、そして御子柴は除災招福、土佐は開運のお守りを選んだ。
    「シバケン、字面で選んだでしょ」
    「別に、適当。願い事とか興味ねぇし」
    「叶うといいですね、お願い。——あ、お釣り、五円玉でもらえたりしますか……?」
     犬飼は4人分の会計を済ませながら、そう言って、4枚の5円玉を含んだお釣りを受け取る。そして、対応した巫女に軽く会釈をしながら、3人にそれぞれのお守りと、五円玉を1枚ずつ手渡した。
    「そしたら、お詣りしましょうか」
     そうして4人は社殿に向かっていく。その神社の社殿は一度に2人ずつお詣りできる大きさで、犬飼と御子柴、甲斐田と土佐に分かれて参拝することになった。
     先にお詣りすることになった犬飼と御子柴は、それぞれ丁寧だったり投げやりだったりな仕草で、賽銭箱に五円玉を投げ入れる。それから、犬飼は二礼二拍手一礼のオーソドックスな参拝を済ませたものの、御子柴は特に何の動作もしなかった。
     犬飼はじっくりとお願い事をしてから、顔を上げて、不思議そうに御子柴の顔を覗く。
    「ど、どうかしました……?」
    「神に頭下げる義理はねぇだろ」
    「えぇ……? お、お賽銭は……?」
    「犬飼の金だし」
     ふん、と鼻で笑ってからそう言い放って、御子柴は社殿の階段を降りて行った。その一連の言動に、犬飼は何とも言い難い感情に襲われて、顔を不思議な形に歪めながら、御子柴に続いて下へと降りて行った。
     その様子を見て甲斐田はクスクスと笑いながら、土佐と一緒に簡単にお詣りを済ませて、2人揃って階段を降りてくる。
    「はー、終わった終わった。寒かったねぇ。あ、犬飼は何お願いしたの?」
    「あ、えっと……」
     4人は合流するとすぐに駐車場へと向かい始めて、特に何の余韻に浸ることもなく、たわいのない会話を交わす。
    「色々、お願いしちゃいました。次のバトルは優勝できますように、とか……」
    「はは、犬飼っぽい」
    「願い事は人に言うと叶わねーって言うけどな」
    「え!?」
     御子柴のチクリと刺すような言葉に、犬飼は動揺して大きな声を上げる。特に願い事をすれば叶うと信じているわけではなかったけれど、何となくばつが悪くなって、足を止めてしまった。
    「……関係ねぇ。次こそ、勝つのは俺たちだ」
    「まぁね」
    「たりめぇだろ、俺たちの勝利は決定事項だ」
    「えぇ〜シバケンが余計なこと言ったんじゃん」
    「バカ犬飼が浮ついたこと言いやがるのが悪ぃんだろ。んなこと神に頼むまでもねーのに」
     そう3人は、特に犬飼の様子を気にすることなく、未来の勝利を確信しながら言葉を交わしていた。彼らのそんな後ろ姿を見て、犬飼は口角を緩ませて目を輝かせながら、パチンと自分の頬を叩く。
    「すみません、神様にお願いすることじゃなかったですね。……今年も一年、一緒に頑張りましょうね……!」
     そう言いながら、犬飼は3人に追いつくように少しだけ走った。
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