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    パイプ

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    ひジ
    怪我をしたジュンくんが今と過去の怪我をとおして日和からの愛を自覚する話。途中。とても途中だけど、長めのお話は連載形式にしないと筆が進まないマンなのでぽい

    #ひよジュン
    Hiyojun

    怪我の功名、愛に触る「ねぇ、ジュンくん。ぼく、怒ってるの。だからね、」
    今日からその怪我が治るまで、ぼくが君のお世話をしてあげるから存分に反省するといいね。


    とあるバラエティ番組の登山企画で手を滑らせた共演者を無理な体制で庇ったジュンは右手首の筋を損傷してしまい、技師に誂えてもらったサポーターをつけて最低でも一ヶ月の安静を言い渡された。
    Edenとしては新曲のフリ入れ期間でもライブ前のレッスン期間でもなかったし、個人としても冬の寒い時期は身体を張った企画はそう多く入ってこないので、仕事で迷惑をかけることは少なく済んだのが幸いだったのだが、右手首を動かしてはいけないというのは日常生活において不便なことばかりだ。
    医者には痛みは徐々に引いていくと言われているものの、昨日怪我したばかりのそこは未だにうっすら熱を持ち、ジクジクと痛みを訴える。身体が動かせないのだから英語の勉強をしようとペンを持っても指への力の入れ方次第では手首まで痛んでしまうのだからもうお手上げだ。

    今回、ロケを行っていた雪山はジュンたちの住まう場所から遠く、今日は移動日として元々スケジュールが組まれていなかったのだが、昨日怪我をして、病院からそのまま寮に送られたジュンは何もない一日を過ごすこととなった。
    痛みが引けば患部以外、下半身を鍛えるトレーニングはできるのだろうけど、ペンを持つだけでも痛い今、無理をすることが最善だとはジュンも思えず、かといって漫画もゲームも利き手が使えなければ不便さが際立ってしまって楽しめない。

    「おひいさん、今日は朝から仕事だって言ってたし、呼び出されることもないですかねぇ」
    思ったことが独り言として口から出てしまう現象を老化だと笑ったのは誰だっけか。珍しく学校に用事があるとジュンが着ることのなくなったあの制服を着て出掛けたこはくのいない今、独り言は拾われることも笑われることもなく部屋に落ちる。
    何もしていないと落ち着かない方ではあるけれど、何もできないんだから仕方ないと諦めてベッドに横になる。
    「たまにはこのまま昼寝でもしちまいますかねぇ」
    自分でも誰に言ってるんだと思はなくはないが、勝手に口をついてくるのだから気にしたところでどうしようもない。どうせ誰もいないんだし。

    そうして目を閉じて、どれくらい経ったのかはわからないけれど、次に目を開けたときに目の前にいたのがあまりに綺麗で怖い笑みを浮かべた日和で、そんな日和の口から怖いくらいに何の温度も感じさせない言葉で紡がれたのが先の一言だった。

    「は、え、えっと?おはようございます、なんでここにいるんです?おひいさん」
    起きたらおはよう!挨拶は大事だね!と、大きな声で怒られたのは出会って間もない頃のことで。それは約一年の共同生活でジュンの身に深く浸透していて、回らない頭でも簡単に声に乗った。
    「おはよう、ジュンくん。よく眠っていたね。どうしてここにいるのって、今言ったよね?きみのお世話をしにきたね」
    当然でしょう?とでも言いたげな口調で言ってのける日和の表情に未だ温度は感じられなくて、寝起きのジュンの混乱はおさまらない。
    「お世話を、する?です?オレがあんたのお世話をするんじゃなくて?」
    「ぼくがきみのお世話をする、であってるね。ジュンくん、ぼくに言ってないことがあるでしょう?」
    すっと細められたその紫にジュンはびくりと肩を振るわせる。
    どうしてか分からないけど、日和は本気で怒っている。歯向かっては、逆らってはいけない。日和の求めている「言ってないこと」がそれで合っているのかは分からないが、だんまりを決め込むよりは幾分かマシだろうとジュンは昨日の雪山で起こったことと右手の現状を日和に洗いざらい話した。

    「いばらぁ〜、ナギ先輩ぃ〜!アレ、何とかしてくださいよぉ〜」
    あの恐怖の時間から数日、今日はEden四人で表紙を飾る雑誌の撮影とその対談の仕事で、痛みも引いてきたジュンは長袖の衣装の下にサポーターをつけたまま撮影に挑んだ。
    撮影が終わって、昼食をとってからインタビューをしますのでとスタッフの案内で楽屋に来てからジュンは一気に項垂れた。楽屋にはジュンと茨と凪砂の三人しかいないので気を抜いてしまっても大丈夫だろう。
    「ジュンが悪い。以上。閣下、あのアホは放っておいて、ささ、あちらにケータリングが届いてますよ」
    「いばらぁ!」
    「…日和くんね、とっても心配していたよ。…ジュンの様子や怪我の具合はどうだって何度もスタッフに連絡したり、ジュンから連絡の入らないスマートフォンを見つめてはため息をついたり。…ジュンは痛みや弱みを隠すのが上手な子だから、日和くんが目を離したら無理しちゃうんだって、」
    「ナギ先輩…」
    「…日よ「閣下。それ以上は本当に、殿下に怒られますよ」
    「…それは嫌だな。ごめんね、ジュン。私、ケータリングを選んでくるね」
    「え、ナギ先輩、」

    今度こそ茨に連れられてケータリングを見に行ってしまった凪砂に伸ばした左手は行き場をなくして膝に落ちた。
    日和が自分の怪我にそんなに心を砕いてくれていたことを知らなかった。心配をかけてしまうかもしれないと思って連絡しなかったことが仇になっていただなんて。

    そういえば、前にもこんな事があったなと誰もいなくなってしまった楽屋でぼんやりと思いだす。あれは、まだまだ自分が日和の助けを借りなければ舞台で存分に輝けなかった頃、日和と出会って間もない頃のことだ。

    ———怪我をした。
    何のことはない。日和に選ばれたジュンに嫉妬した特待生に階段から突き落とされたのだ。彼らからの嫌がらせはジュンが特待生になってからは日常茶飯事のようなものだったし、今回も階段から落とされたと言っても三段ほどを落ちただけだ。命に別状はない。
    ただ、今回は着地の仕方がまずかった。日和の厳しいレッスンで疲れ切っている身体はジュンの思ったようには動いてくれず、着地の体制が悪かったのだろう、左足首を挫いてしまった。

    「くっそ、じゃねぇ、GODDAMN!この後もレッスンだってのに…」
    立ちあがろうにも力を入れられず、身体をずって移動してからなんとか手摺りに掴まって立ち上がる。いつもなら間もなくレッスンの時間だけど、今日はレッスンルームの点検で開始を一時間遅らせると言っていたのを思い出して、安堵の溜息がこぼれる。
    とりあえず、応急処置の時間はあるということだ。こんな怪我、バレたら何を言われるか分かったものじゃない。テーピングでガチガチに巻けば動けるだろう。動きが少し鈍ってしまうだろうから、集中してって怒られてしまうかもしれない。それでも怪我がバレるよりは幾分かマシだ。

    テニス用品を買った時に「テーピングはスポーツマンの嗜み」と、今となっては自分でもよく分からない理由で一緒に買ったものが役立った。テーピングを持つ事が嗜みだと思っていたジュンはその効果的な巻き方なんて知らなかったけれど、これだけグルグル巻きにすれば大丈夫だろうと自分で自分を首肯する。
    足はまだズキズキと痛むけれど、出来ることはやったのだからあとは気合いだ。
    いつもより窮屈なシューズの紐をきゅっと強く結ぶ。…大丈夫。バレない。

    ———あの時の結末はそれはもうあっけないものだった。一歩たりとも動いていないのに、立ち姿だけですぐにバレた。
    入室してきた日和に振り返って挨拶をしただけで、一歩も動いてないのに、どこで気づかれたのか今でも分からない。
    そういえば、怒り方が新鮮だったというか、あの時も面と向かって怒られるというよりは心配されてる感じがして驚いたんだっけ…と、ジュンは首を傾げる。
    そうだ、だんだん思い出してきた。

    「座って」
    「はい?」
    部屋に入るなり、怖い顔をした日和の放つ言葉に首を傾げる。
    「座ってって言ってるね。左、かな。難しいなら手を貸してあげるね。ほら、座って」
    言うなり、右の脇下をぐっと支えられてその場に座るよう促される。何故バレたのかは分からないが、どうせバレてしまったのならきっと後は捨てられるだけだ。少しでも穏便に事が済むように、黙ってそのまま日和の指示に従うことにする。

    「触るよ」と一言、断ってから日和は骨董品でも扱うかのようにそっと丁寧にジュンの靴と靴下を脱がせた。
    「なぁに?これ」
    ぐるぐるとテーピングの巻かれた足にこれでもかと表情を渋らせた日和の問いにジュンは言い淀む。ここまできて隠したい訳じゃないけど、どこまで言うべきかを悩んだのだ。
    「…意味をなしてないから外すね。痛むと思うけど、少し我慢して」
    「…うす」

    テーピングを外してから怪我をしていない右足とその腫れ具合を比較して、日和の表情がもう一度歪む。
    「痛いでしょう。こんなに腫れちゃって。テーピングはまだある?ぼくじゃきみを背負えないから一旦巻き直してから医務室に行こうね」

    思えば、あれが初めて日和を心の底から尊敬し、胸がざわつくときめきのようなものをおぼえた瞬間だったのかもしれない。
    なんでもないようにジュンの知らない巻き方で丁寧にテーピングを巻く日和に「慣れてるんですか?」と問えば「昔、もしもの為に参考書を読んだだけだね」と言っていたのに、完成した足首はきちんと固定されていて患部がぐらつくこともなかった。保険医も褒めていたくらいだ。
    医務室に向かう時も、処置を終えて寮に帰る時も、ジュンが歩きやすいように支えて、歩幅も合わせてくれて、場違いにもスポーツマンの嗜みとはこう言う事なんだとジュンは認識を改めさせられた。

    とにかく、日頃の無茶振りが嘘のように尽くしてくれた日和に夜になってからジュンは思ったことをそのまま聞いてみたのだった。

    「お、ひいさん、」
    未だ呼び慣れたとは言い難いあだ名で、書類をペラペラと捲っている日和を呼ぶ。
    「どうしたの?」
    普段はなぜかひとつのソファで隣に座って、寝るまでの時間を過ごすのだが、今日は捻った足をあげておいた方がいいとジュンの足を肘置きに上げさせた後、少し離れたスツールに腰掛けていた日和が「何かいるものがあるの?」と書類を置いてジュンの元へと寄ってきた。

    「あの、なんで、」
    あまり多くを口にするタイプでもなかったジュンはそもそも咄嗟の言葉が上手くない。それに加えて、最近は日和に言葉遣いを指摘されるものだから話し出すまでに時間を要してしまうことが少なくない。汚い言葉をつかうとキャンキャンとやかましいのだ。
    それでも、普段は無茶苦茶言うのに、ジュンが話し出すまではいつもきちんと待ってくれていることに最近になって気がついた。
    自分が気を抜いて歩いてたからこうなったとは言え、この人の隣が惜しい、捨てられたくないなという感情がジュンの中で大きくなっている。だって、どれだけ特待生に虐められても、非特待生に恨みのこもった目で見られても、日和にどんな無茶振りをされたって、彼の隣は息がしやすいのだ。この人を利用してでも最高のアイドルになってやるという野望は勿論持ち続けているけれど、それを抜きにしてもこれまでの人生とは比べものにならないくらい「生きている」と感じられる。
    …だからこそ、もう日和の隣にいられないのなら、ユニット解消の宣言は一刻でも早く貰ったほうがいい。じゃないと、無様にも縋り付いてしまいたくなるから。
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    今日からその怪我が治るまで、ぼくが君のお世話をしてあげるから存分に反省するといいね。


    とあるバラエティ番組の登山企画で手を滑らせた共演者を無理な体制で庇ったジュンは右手首の筋を損傷してしまい、技師に誂えてもらったサポーターをつけて最低でも一ヶ月の安静を言い渡された。
    Edenとしては新曲のフリ入れ期間でもライブ前のレッスン期間でもなかったし、個人としても冬の寒い時期は身体を張った企画はそう多く入ってこないので、仕事で迷惑をかけることは少なく済んだのが幸いだったのだが、右手首を動かしてはいけないというのは日常生活において不便なことばかりだ。
    医者には痛みは徐々に引いていくと言われているものの、昨日怪我したばかりのそこは未だにうっすら熱を持ち、ジクジクと痛みを訴える。身体が動かせないのだから英語の勉強をしようとペンを持っても指への力の入れ方次第では手首まで痛んでしまうのだからもうお手上げだ。
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